〜正義のヒーローが禁断の恋で闇堕ち?救ってくれたのも彼女でした〜
「ちぃっ!! 覚えてなさい!!」
「いい加減諦めろ!! 俺達がいる限り、世界の平和は守ってみせる!!」
逃げて行く敵の女怪人を見送る七人の戦士。
彼等は悪の組織から平和を守るヒーロー。
アルファレッド、ベータブルー、ガンマグリーン、デルタブラック、イプシロンピンク、ゼータシルバー、イータゴールドからなる戦士。
護平戦士セイヴァージャスティス。
敵組織との激し戦いの中を繰り広げ、敵幹部も残りは一人。
先程逃げた女怪人がそれなのだ。
その最後の一人を倒せば残るは親玉のみ。
それを倒せば世界の平和を取り戻せるのだ。
「早く平和を取り戻さないとな」
「じゃないとレッドが結婚できないもんな〜」
「お、おいグリーン」
「そーそー。私を振って選んだ相手なんだし、幸せにならないとダメだよー?」
「ピンクまで」
仲間達にからかわれる彼の名前は守義正。
メンバーの中心的人物で、信頼実力共に高い好青年。
そんな彼には恋人がいる。
半年前から付き合い始めた彼女と同棲しており、この戦いが終わったら結婚を申し込もうと考えていた。
「ほらほら、後片付けは俺達独り身に任せてさっさと帰れ」
「そうだよ〜。彼女さんによろしくね」
「あー、僕も彼女ほしー」
「わ、悪いな……今度何か奢るからな」
ブラック、ゴールド、シルバーにも言われてレッドは一人、先に帰るのだった。
「ただいま〜。あれ今日は早いんだね」
「仕事が早く終わってね。正くんも平和のためにお疲れ様♪」
「美蘭さんもお疲れ様です」
帰宅後手洗いうがいを済ませ、正は恋人とハグを交わす。
彼女が正の恋人である美剣美蘭。
スラッと長い手足にサラサラストレートの黒髪。
すれ違えば全員が振り返るほどの美女で、料理も上手な女性だ。
そんな彼女と正が出会ったのは半年前。
敵の戦闘員に襲われていた所を助けたのが始まりだった。
そこから彼女の猛プッシュがあり、ではお試しで付き合ってみましょうと正が折れ、現在は正式に交際しているのだ。
「今日のご飯は正くんの好きなカレーにしたよ」
「本当ですか!? やった!!」
年上の彼女の料理にしっかり胃袋を掴まれた正。
仲間がいるとはいえ、帰る家には誰もいなかったのに今はいる。
それが正に、仲間とは違う力を与えてくれた。
彼女と仲間のみんながいたら負ける気はしないと、正は思っていた。
「今日も美味しかったです」
「それは良かったです♪」
食後、正は美蘭に耳かきをしてもらっていた。
太ももと耳かきの気持ちよさからウトウトしてしまう正。
そんな彼に優しく耳かきをする美蘭。
「今日はどうでしたか?」
「うーん……敵の幹部も残り一人だからかな。なりふり構ってなれないのか強くなっているよ」
「そうなんですか……どんな風に強いんですか?」
「そうだなぁ……俺達を分断させて各個撃破しようと罠を仕掛けられたり、とかかなぁ」
「そうなんですね……でも正くんが無事に帰って来てくれて良かった」
「あはは。美蘭さんが待っているんだもの。負けられないよ」
「ありがとう。とっても嬉しい」
「でも急にどうしたの? 最近そういうの聞いてくるけど」
「え? あっ、それはやっぱりほら。大好きな正くんがどんな仕事をしているのが気になってさ……ダメだった?」
「ううん。少し気になっただけだよ」
怪人側もただ力技によるゴリ押しではなくなって来た。
ピンクを誘惑するイケメン怪人、男性陣を悩殺しようとセクシー怪人側も現れたりもした。
それがここ数ヶ月の事だ。
(向こうも焦っているって事だよな……)
後一押しだと正は考えていた。
その時だった。
「そうだ、明日ちょっと帰り遅くなっちゃうんだ」
「そうなの? 美蘭さんも忙しいんだね」
「まぁ、ね。大人は大変なんだよ」
「そっか。がんばってね」
「正くんもね……やられちゃったら、嫌だよ」
「うん。負けないよ。平和のためにも……」
気付けば終わっていた耳かき。
美蘭の言葉に正は静かに頷いた。
「アルファジャッジ斬!!」
「ゴグギャァァァッ!!」
街で暴れていた女怪人を必殺技で一刀両断するレッド。
「あーあ。怪人じゃなかったらタイプだったんだけどね」
怪人の遺体を見てそうこぼすブルー。
「最近の怪人はなんかやりにくいね……こう、好みのタイプというか」
「バカかお前。怪人に欲情してんじゃねーよ」
「そういうブラックこそずっと見てたよねー。この怪人の事♪」
「ば、バカ言うなってピンク」
「はいはい。片付けやんぞ」
戦闘後にだべっていたグリーン、ブラック、ピンクを纏めるゴールド。
「にしてもレッドは凄いですね。怪人の誘惑光線が効かないなんて。流石はリーダーですね」
「ん? ほら、俺には愛する彼女がいるからな!! 怪人如きが入り込める隙はないのさ!!」
「出た惚気……」
「なっ、シルバーから振ってきたんだろ!?」
「ほらさっさと片付け終わらせて帰るぞ」
「レッド、今日は急いで帰らなくていいのか?」
「お、おう。美蘭さん今日は遅いらしいからさ」
と言うレッドの言葉にゴールドがすかさず口を挟む。
「彼女も疲れて帰ってくるはずだからな。さっさと帰って飯作って風呂沸かしておいてやれ」
「お、おう。でもまだ平気だろ」
「まぁ、まだ昼だからな。そんなすぐには帰って来ないだろう」
そんな会話をしながら片付けをするレッド達。
その頃……
「また失敗か!! 何をしているスペードオーキッド!!」
「も、申し訳ありません!!」
敵組織のアジトの最新部にて、幹部である女怪人は組織の首領に怒られていた。
「かつて四人いた幹部ももはや貴様一人。全ては貴様にかかっているのだぞ!!」
「し、承知しております!!」
「貴様が半年前から始めたヒーロー籠絡作戦。あれはどうなっている!! 聞けばレッドと同棲しているそうではないか!!」
「は、はい。潜り込むことには成功しました」
そう。
彼女こそが正の恋人である美蘭の正体だったのだ。
残酷剣蘭スペードオーキッド。
それが彼女の本当の名だった。
「それで、収穫は?」
「……な、なかなかボロを出さなくて」
「使えんやつだ!! えぇい!! 次はお前が出撃せよ!! レッドを討ち取るのだ!!」
「っ!?」
それは、恋人を殺せという命令だった。
「なんだ? できないのか?」
「い、いえ……分かりました」
「期待、裏切るなよ?」
「……は、はい」
俯き、首領の言葉に頷く彼女の顔は暗かった。
「覚悟、決めないと……うっ!?」
それは廊下を歩きながら今後の自分について考えている時だった。
突如襲う吐き気にトイレに駆け込む彼女。
(な、なに……まさか。いやいやいやありえない……でも)
それは希望であり、絶望でもあった。
「おかえり美蘭さん。ご飯とお風呂、できてるよ」
「本当? 凄いなぁ……なにかやましい事でもあったりして」
「そ、そんなわけないじゃん」
「慌てちゃってますます怪しいな〜」
「ちょっと美蘭さーん」
「あははっ、冗談だよ。手、洗ってくるね」
そう言って手洗いうがいを済ませ、正が作った夕飯を食べる二人。
「あのね正くん」
「なんです?」
「二つ、大事な話があるの。聞いてくれる?」
「は、はい……」
「一つは、おめでたです」
「……え?」
「まだ簡易検査なんだけどね」
「……えっ?」
「赤ちゃん、いるみたい」
「本当!?」
「うん」
「や、やった!!」
突然の話に飛び上がる勢いで喜ぶ正。
正もいい年。
美人の恋人と共に暮らしていればそういう事だってする。
その結果美蘭は新たな命を宿したのだ。
「それでね、もう一つなんだけど」
「う、うん」
「明日から出張になっちゃって、一週間ぐらい帰って来れそうにないんだ」
「え、身体は大丈夫なの?」
「うん。大丈夫だよ。大丈夫じゃなかったら受けないもん」
「……それもそうか」
「だから、一週間ぐらい正くん一人になるけど、大丈夫かなって」
「平気だよ。料理できるもん」
「そっか……良かった」
「美蘭さんも気をつけてね」
「うん。ありがとう」
正の言葉に微笑む美蘭。
それはとても、優しい笑顔だった。
「んじゃあ先に行きますね。美蘭さんも気をつけて」
「うん。じゃあ、行ってらっしゃい」
「はーい」
翌日、基地に出勤する正と正が行ってから家を出ると言って見送る美蘭。
「……さて、と」
美蘭は部屋を見回して寂しそうに笑むのだった。
「……ったく、なんで俺一人指名なんだよ」
『仕方ないだろ。向こうさんが、お前一人で来なければ街に仕掛けた爆弾を作動させるなんて言うんだからよ』
「仕方ないか……さっさと終わらせて、爆弾を解除するか」
『俺達でも爆弾の捜索は続けている。頼んだぞ』
「おう!!」
仲間との通信を切り、郊外にある採石場へと到着する正。
そこにいたのは……
「やっと来たか! アルファレッド!!」
「スペードオーキッド! お前か、俺を呼び出したのは!!」
そこにいたのは最後の敵幹部。
銀色に輝く、露出のある鎧に紫のマント。
水色のリップに青い髪。
腰に差した剣を既に抜いている。
「今日こそお前を倒し、我が僕にしてやろう」
「こっちこそ、今日こそお前を倒し、お前の組織を潰す!! 行くぜ!! 変身!!」
正からアルファレッドは変身。
そのまま専用武器のアルファソードを構える。
「行くぞ!!」
二人きりと採石場で、激突が起きた。
「やぁっ!!」
「せやっ!!」
二人の剣がぶつかり、火花が散る。
力ではレッドが上だが、技ではオーキッドの方が上だった。
そのためオーキッドは切り結ぶのを嫌い、レッドは距離を離されないように攻め続ける。
「ちっ!!」
「こんなツタ!!」
「遅いわ!!」
オーキッドの腕から伸ばされたツタを切り飛ばして迫るレッド。
だがオーキッドは反対の腕からもツタを伸ばし、レッドの体を絡めとる。
「しまった!?」
「そのまま締め殺してあげるわ」
「なんの……これしき!!」
強引にツタを引きちぎって脱出するレッド。
「なんて強引な……でも!!」
「お前を倒して平和を取り戻す!! 今まで犠牲になってきた人々のためにも!! お前達によって怪人に改造され、我々の手で倒された人々のためにも!!」
レッド達が今まで倒してきた怪人の中には、拐われた人達が改造されて作られたものもあった。
幹部達もそうだった。
「私にも負けられない理由があるのよ」
「ほざけ!」
「首領様は貴方を倒せば貴方を私にくれると言ったわ。お前を倒し、生涯飼ってやるわ!」
「それはごめんだね!」
オーキッドのハイキックを腕でガードし、剣を薙ぐレッド。
「ちっ……やはりリーダーだけあって強い!」
前髪を切られながらも躱すオーキッド。
「仕方ないわね……オーキッドシャワー!!」
花弁を模したエネルギー弾を放ち、レッドを攻撃するオーキッド。
「ぐっ……うがっ!」
殺到する花弁に吹き飛ばされるレッド。
「これでトドメよ。足がなくても死にはしないから……オーキッドブルーム!!」
蘭の形をしたエネルギーと共に剣を構えて突撃するオーキッド。
今受ければ無事では済まない。
でも痛みで身体が動かない。
(こ、ここまでか……)
レッドがそう思った時だった。
『行ってらっしゃい』
(美蘭さん!! まだだ……まだ)
愛する人への想いがレッドを立たせる。
「ここじゃ終われないんだ!!」
立ち上がり、剣を構え、彼も必殺技を放つ。
「アルファストライク!!」
すれ違いざまの一閃。
「っ……くぅっ」
剣を落とし、膝をついたのはオーキッドだった。
「よし、これで幹部は」
全員倒した、と振り返るレッド。
だがその目に映ったのは
「な、なんであなたが……」
「は、はは……ここまで、だね」
「美蘭さん!!」
最愛の恋人の姿だった。
「そう。君の恋人の正体は敵組織の幹部のスペードオーキッドだったの。君に近づいて、君を籠絡してこちらに引き込むか、暗殺するのが目的だったの。でも、それももう終わり」
「ま、待って!! 美ら」
「……騙してて、ごめんね」
レッドから正に戻った彼の手が美蘭に届く寸前だった。
彼女の身体は光の粒子となって天へと昇っていった。
「あ、あぁ……うっ、くぅ……びら、ん……さん……」
そのまま蹲り、嗚咽を漏らす正。
「うわあぁぁぁぁぁっ!!」
直後、慟哭が採石場に響いた。
「おーい正〜。今日も休みかー? みんな心配してんぞー。連絡くれよな」
「どうだった?」
「ダメだ。全く音沙汰なしだ……これで三日だぞ。ちゃんと飯食ってんのかなぁ」
正が最後の幹部を倒して三日。
基地に彼の姿は無い。
最愛の人を自分の手で討ってしまった事で、彼の心は深いダメージを負っていた。
「……正くん、どうなっちゃうんだろう」
「……次が見つかるまではレッドでいられるとは思うけど、次が見つかったら交代だろうな」
「交代って」
「おいブルー、今そんな事を言わなくても」
レッドがいないだけでチームの仲はぎこちなくなっていた。
そして、それが奴の狙いだった。
「……こんな時に。行くぞ」
新たな怪人の出現を知らせるアラームが鳴り、レッド以外の全員が出動するのだった。
「……」
恋人を失って三日。
正は家に引きこもっていた。
お揃いで買った歯ブラシやマグカップ。
一緒に座ってテレビを見たソファー。
美蘭がお気に入りだと言っていた犬のクッション。
全てに幸せな思い出があり、今では辛い現実だった。
「どうして……どうして……」
さっさと自分の目的を果たしていればこんな事にはならなかったのに、と心の底から思うほどに正は参っていた。
自分がやられれば良かったんだと思うと同時に、平和を守ったのだと思う彼の心はグチャグチャになっていた。
と、そんな時だった。
「守義さ〜ん。郵便で〜す」
一通の郵便が届いた。
(……誰からだ。レッドクビって通達か?)
そんな事を思いながら差出人の名を見る正。
そこにあったのは美蘭の名だった。
急いで封を開け、中に納められている便箋を取り出す正。
そこに書かれていたのは
『お仕事お疲れ様です。正くんがこれを読んでいるという事は多分、私はこの世にいません。あなたに倒されていると良いなって、そんな事言ったらダメだね』
可愛いが綺麗な文字で書かれた美蘭の言葉だった。
『初めはあなたを利用するつもりで近づいた事、ずっと謝りたかった。気付けば心の底から本当にあなたを好きになっていました。叶うのならば組織を裏切って共に逃げたかった。あなたの組織に保護してもらいたかった。でも私達怪人は強化手術の代償で、定期的に特別な酵素を投与しないと身体を維持できないようになっていたの。だからそれも叶わなかった』
そこに書かれているのは後悔と謝罪、そして共に過ごして楽しかった日々についてだった。
『そんな時でした。あなたとの間に子どもができたのは。多分これは、神様からの罰なんです。赤ちゃんには申し訳ないと思いました。いっときの快楽のために怪人になった私には、誰かと幸せになる権利なんてなかったんです』
「そんな……そんな事ないよ」
『出張も全部嘘です。本当に、悪い女でごめんなさい。でも、正さんと過ごしたこの半年は本当に楽しかったです』
「俺だって……楽しかった……」
『どうか首領を倒してください。彼の弱点は胸にある赤い宝玉の下の青い宝玉です。それを破壊すれば彼は倒れます』
そしてまさかの告発だった。
もう自分のような存在を作らないためにもと。
それは美蘭ができる、せめてもの贖罪だった。
そして、最後の便箋となった。
『最後に正さんにお願いがあります。どうか、普通の人間の女性と幸せになってください。私の事は忘れて、素敵な人と出会って、幸せになってください。それが、私の最後の願いです』
『追伸。きっと正さんの事だから、私を倒した後に落ち込んでいると思います。一週間分のご飯を作って冷蔵庫に入れておきました。ちゃんと食べて、平和を取り戻してください。では、さようなら』
読み終わるなり冷蔵庫に向かい、ドアを開けて中を確認する。
そこにあったのは
『これを食べて元気出して!! 平和のためにファイトファイト!!』
と書かれた紙が貼られた複数のタッパ。
それには正の好物だけが入れられていた。
「ば、バカ……美蘭さんの、バカ……これ食っちまったら、もう食えねぇじゃねぇか」
崩れ落ち、泣く正。
静かな室内には正の嗚咽と冷蔵庫のピピッというドアを閉めてくれという電子音だけが鳴っていた。
「っ、こいつ……強い!?」
「まさか首領さん直々に来るとはな」
「諦めるかよ!!」
場所は変わって市内。
レッドを除くヒーロー達はなんと、現れた首領と交戦していた。
「ふん、まとめ役がいなければ烏合の衆。下す事は容易い。貴様全員連れ帰り、新たな怪人として洗脳してやろう」
「そんな事!!」
「やらせるかよ!!」
「ぬんっ!!」
背後から飛びかかったゴールドとシルバーを念動力で吹き飛ばす首領。
禍々しく、ゴツゴツとした体表に鋭い爪。
血のように真っ赤な目に捻れたツノを生やした頭。
背中のマントは先がボロボロになっている。
「さぁ、トドメだ!!」
倒れるヒーロー達目掛けて取り出した剣を向ける首領。
だが
「……ほう?」
首領の前に彼が現れた。
「お、お前!!」
「もう、良いのか?」
ブルーとグリーンが思わず尋ねると彼は頷く。
「……もう、平気だよ」
「ったく、おせぇんだよ」
「お前昼カレーだったな?」
「あ、着いてる?」
「その様子ならもう、平気そうだな……さっさとアイツを倒すぞ」
「あぁ、変身!!」
アルファレッドへとそのまま変身する正。
こうして、正義と悪の最後の激突が起きた。
「ハッハッハ!! なんだ、レッドが来てもその程度か!!」
数分後、レッド達は膝をついていた。
「クソッ……」
「弱点がこの青い宝玉だと分かったのは褒めてやろう。だがそれがどうした? 届かねば意味がないわ!!」
体を反らせながら高らかに笑う首領を唇を噛みながら見るレッド達。
そんな彼等に首領は手を向ける。
「まずは貴様からだ。レッド! 我が洗脳波動を受けるが良い!! はぁ!!」
そのまま洗脳波動を飛ばす首領。
その波動はレッドを飲み込み、洗脳……
「なに!?」
できなかった。
「……なにが」
その事に戸惑う首領とレッド。
ただその時だった。
「……美蘭、さん?」
「なに? まさか裏切ったのか!? スペードオーキッド!!」
いないはずの彼女の存在を確かに感じたレッド。
「ふざけるな……最後の最後まで役立たずな女め!!」
今はもういない彼女に対して文句を垂れる首領。
そんな彼をよそに立ち上がり、駆け出すレッド。
その手にはしっかりと剣が握られている。
「な、く、くるな!!」
「これで終わらせる!!」
駆けるレッドから赤い蘭の形をした複数のエネルギーが放たれる。
それはクルクル回りながら首領に迫り、その花弁で切り裂く。
そして
「アルファブルーム!!」
「グアァァァァァッ!! おのれおのれおのれ!! おのれぇぇぇっ!!」
レッドの一撃を受け、青い宝玉を砕かれ力を失う首領。
そのまま彼はボロボロと、水をかけられて砂の城が崩れていくようき肉体を崩壊させ、やがて消えてなくなった。
「……終わった……これで、終わったんだ。やったよ。美蘭さん」
空を見上げて呟く彼の表情は、どこか少しだけ明るかった。
「パパ〜」
「こらこら蘭子。走ると転ぶぞ」
首領を倒して五年。
正は一人の女性と出会い、交際。
そのまま結ばれた。
今では娘も生まれ、今年で三歳になる。
その娘が、帰宅した正を出迎える。
平和になり、ヒーローの出番は激減。
時々災害での救助や犯罪組織を取り締まる事ぐらいにまで減っていた。
それでもヒーロー達はいざという時のために鍛えて続けている。
「おかえりなさい。お疲れ様」
「ただいま。蘭子、良い子にしていたか?」
「うん!!」
「よしよし」
駆けてきた蘭子を抱き上げる正。
「ご飯、できているよ」
「愛美さん、いつもありがとう」
花が好きな彼女と出会ったのは美蘭とよく散歩に行っていた公園だった。
新しく前を向き始めていた彼に愛美はいろんな花の花言葉を教えた。
その中で、蘭の花言葉も教えた。
『種類によって変わりますけど、蘭の仲間の花言葉には純粋な愛っていうのがあるんですよ』
そういう話もしたのだ。
ちなみにだが娘の蘭子の蘭は花の蘭だ。
大切な人に純粋な愛を向けられる子になって欲しいと願いを込めてつけられたのだ。
「今日はも手伝いしたんだよー」
「そうなのか? 偉いな〜」
「えへへ〜美味しくなーれってしたんだよ」
「そっかそっか。じゃあ今日のご飯も楽しみだよ」
「ほらほら、手を洗って来て? ご飯にしましょう」
愛美に言われて手洗いうがいを済ませ、着替えてテーブルに着く正。
「じゃあ、手を合わせて……」
「「「いただきます!!」」」
その日の夜ご飯は、正の好物のカレーだった。
前を向き、新しい幸せを掴んだ正。
そんな彼等を、花瓶から蘭が見守っていた。
お読みくださり、ありがとうございます。
こういうの好きなんですよ。
恋人が実は敵だったとか……それで主人公が病むのとか好きなんですよ。
今回は友人と話をしていて偶然生まれました。
あの時話をしていた友人達に感謝です。
読んでくださり、本当にありがとうございました。
……やっぱりハッピーエンドが好き。