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終極の鐘  作者: 个叉(かさ)
月の王子と青灰色
20/37

夕月1


「これ、返しにいくだけだから」


彼女は言い聞かせるように、呟く。

彼女は大きな眼鏡を持ち上げて、いい場所に調整する。歩く度揺れる毛束と少し残るそばかす。それらは彼女のシンボルでもある。彼女はポケットから手を出した。手に握られているものを、青空に透かしてみる。

別に催促ではない。これは義理のようなものだ、リリーは思う。しがみつくようなおろかでみっともない真似はしない。さっさと渡して、さっさと帰るのだ。救護室に。というのも、イエライの部屋に行くと、イエライはデイジーの部屋に行ったというのだ。不可抗力である。

別に迷惑がかけたいわけではない。むしろ、その逆で迷惑はかけたくない。皆、リリーのことを腫れ物には触らぬよう扱い、にべもない中、イエライだけは違っていた。リリーはイエライの裏表ない親切に、素直に感謝している。


獣に襲われたあの日、ベラはリリーをつれていった。だが、さっさと部屋に帰ってしまったのだ。実際、リリーが救護室にたどり着けたのは、ある兵士のおかげだ。後から聞いた話だが、その兵士はデイジーが手配したらしい。デイジーは、ベラが途中でリリーを放り出すとわかっていたのかもしれない。ただの偶然かもしれない。怪我をして以来、デイジーはリリーを避けていたから。


リリーはベラが苦手だ。

重労働や面倒な仕事の時にはいないのに、助けがいらないときに限って、彼女はいつもリリーのそばにいた。そして、無理やり仕事を取ってしまう。ベラがいる時は王族が相手の催し物の時ばかりで、仕事をしないレッテルを貼られたり、居心地が悪くなることが殆どだ。気付いたらいつも先回りされている。

最近一番驚いたのは、彼女には一切話していないことが筒抜けだったことだ。リリーには、友人がいた。その友人は、侍従の知り合いから紹介されて働いていた。その侍従が不正を働いた時、友人は荷担していた疑いをかけられた。濡れ衣と分かっても、彼女は城には戻れなかった。その友人のことを、ベラは何気なく話した。催し物の最中で、よりにもよってアリストロの前だった。

リリーは催し物からは外されるようになった。「あの人が不正をしてたなんてしらなかったの」、ベラはそういって菓子折りを持ってきた。友人は不正をしていないと説明したが、ベラにはあまりわかって貰えなかった。

自分の後輩で、今は第三王子付きになっている同僚は、ことの顛末をしっていた。以降、ベラはどんな小さくても王族の会合等に呼ばれるようになっているらしい。友人によると、ベラの親切心には心を許さない方がいいとのことだ。あれは本能なのだから、関わらないのが一番だと。もともと、ベラは妙に問い詰めるきらいがあったので、今後も関わるつもりはない。

この前は、快気祝いをしようと声をかけてきたので吃驚した。勿論丁寧にお断りした。なぜなら彼女はデイジー部屋付きの侍女みんなでやろうといってきたからだ。

いま、リリーは立場上微妙だ。デイジーから戻ってくるなといわれている。その中で、お祝いだなどと、快気兼お別れ会にしか扱われないだろう。その上、その誘いをする際には、散々最近の部屋の様子など、リリーには理解できないことを並べ立てられた。あれを、理解していると複数人で話題にされ続けたら、疎外感しかない。


けれどその全てをイエライに話すつもりはない。人は人によって態度を変えるものだ。リリーにとっての悪人は、全ての人にとっての悪人ではない。それでいいと思っている。イエライの知る必要のないことだ。


回廊が、なんだか騒がしい。

最初は歓声だと思っていたのが、近づくとそうではなかった。はじめからではなかったのかもしれないが、今聞こえるのは、悲鳴に近い。

大きな音が響いて、振動が足元に伝わる。デイジー様の部屋が近づくに従ってだ。悪い予感に、リリーは気づかない振りをした。


人だかりが出来ている。

そしてちらほら、逃げ惑う人がうろうろしている。どこへ逃げるか迷っているのか。その人混みの中に、リリーは信じられないものを見つけた。

金の髪に、小さな背中。

そこに飛びかかる影が見えて、リリーは駆け出した。




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