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転生へ

作者: 朽木優子

若者の自殺がよく報道されます。日本の若者の死因は自殺だとか。私も若いころは、死にたいと何度も思いましたが、70年余り生きて来て、日常の問題を一つ一つ解決していくことで、生きる充実感を感じられることが分かりました。50代で死んだ親友。美しく才能に恵まれ、経済的にも家庭的にも安定していた彼女は何故死ななければならなかったのでしょうか?自殺しない。転生の準備にいそしむ魂ピョンを通して、自殺しない絶望しないために生きるスキルを探り、この世の楽しみ方を考えます。

中段階にて

ピョンは中段階に降りて来た。

極楽はきょうも退屈だったのだ。

酒池肉林の宴会も、美女の踊りもいつもとなれば飽き飽きだ。

だいたい美味しい食べ物を並べられても、空腹も感じない身にはうんざりするばかり。

中段階は極楽と下界の間にあって、下界に降りる準備をする場所でもある。


下界からは、必死の声が響いて来る。

「子どもの病気が治りますように」

「仕事がうまく行きますように」

「借金が何とか返せますように」


「天帝さんよ あんた何とかしてやったら

あんなことぐらいすぐに解決できるだろう?」

「ああ 出来るよ

だけど そんな願いをいちいち叶えていたら、

下界も極楽と同じになってしまうじゃないか

何の不安もなく、平和で安穏で退屈な世界に」


ピョンはそろそろ下界に降りたいと思っていた。

輪廻転生。前回の人生では使命達成率60%

何とか半分はクリアしたけど、決して褒められる数字ではない。

あのときああしていれば、75はいけたんじゃないか?

こしていれば80は?とか思うことしきり。

再生を願い出たのは大分前だけど、待たされても文句の言えない状況だった。

80以上の達成率なら、すぐに再生に向かえたのに。


使命のテーマは?かくり世の掟。世のため、人のため、未来のため。

一人でもいいけど、なるべく人とつながって、魂のチャレンジ。世界の深化。

それは神ではなく、人間の仕事。


ピョンは今回の使命を「自分らしく生きる」にしたいと思った。

周囲の常識や習慣ではなく、自分の内面を見つめて本当にやりたいこと、やるべきことをやる。そんなことをやってみたかった。


テーマ達成の舞台は?

20世紀の日本。その時代女性は結婚して子供を産み、次世代を育てるということが使命という考え方が主流だった。

そんな中で、仕事に打ち込み、仕事を通して社会に貢献する女性。

仕事は福祉とか、マスコミ、文筆業でもいいだろう。

身体は健康でなくてはならない。知能も平均程度は欲しい。

家族の理解も必要だ。家族だって選べるのだ。

条件は恵まれていればいいというものではない。

むしろある程度の問題があってた方が、ハングリーで使命を達成しやすいという面もある。


登場人物。意地悪な姉さんたちがいなければ、シンデレラは成立しない。

敵役が必要だ。敵役が薄っぺらいと話は戯画化する。

そこには共感可能なリアリティが求められる。


状況。障害、ハードルが必要だ。

穴ぼこや壁があるから、テレビゲームだって面白くなる。

そういうものなしに前にスタスタ歩くだけだったら、すぐに飽きてしまうだろう。


ピョンは様々な側面から、条件を設定しながら次の転生の準備を進める。

さらに2枚の画像を次の生で出会うように送りこんだ。

1枚は、一人の女の子の前にさまざまな道が広がっているズ。道はその先でまた、いくつにも枝別れしている。人生の選択について視覚的に捉えさせ、「どういう道を選ぶのか?」をしっかり考えさせるために、20代の前半に先輩から送られるようにセットした。もう1枚は、一組のカップルから子どもが生まれ、その子がまた、子どもを作って次々と人類が存続していく図。その気の遠くなるような鎖から離れ、自由に生きたいと思わせるため、これは20代の終わりに出会うように手配した。


次の転生のためにいそいそと動くピョンを寂しそうに見つめていたのは、ケイだ。ケイは、前世でピョンの親友だったが当分再生は望めない。自殺したからだ。自殺したものはなかなか再生出来ない。せっかく使命を持って下界に降りたのにそのチャンスを生かせなかった。条件が緩すぎたのだろうか?美人で、頭が良くて、経済的にも恵まれていた。しかしケイは使命を見失った。いや、数少ない瑕疵である不眠症傾向に固執して、己の可能性を狭めて、自動車に飛び込んだのだ。


ケイの状況を見るにつけてもピョンは思う。どんな状況に陥っても絶望はしないと。

常識的に考えれば、無理に思えることを その知力と精神力のありったけを使ってクリアしていく。奇跡だって結構起こるものだ。それを起こすのはぐうたらな天帝ではなく、四苦八苦しながら喘いでいる人間、一つ一つの魂だ。

「絶望の虚妄なるは希望の虚妄なるに等しい」目の前に立ちはだかる壁を着実に乗り越える。

そこに満足感が生まれ、生きる醍醐味がある。

極楽で退屈している魂たちが、何度も輪廻転生を望むのは、その充実感が忘れられないからだ。


生きるためのスキル

ピョンは、次の転生での使命達成率を上げるために何度も転生を繰り返し、下界で生きるための技術、人生ゲームの攻略法を熟知しているシンを訪ね、アドバイスを求めた。


「使命達成するには、大きな目標や野望を持つことではないんだよ」シンはそう言った。

「目の前の問題に向き合って、一つ一つそれを解決していくことさ」

「誰だって出来ることしか出来ないんだ。いま出来ることを確実にやっていく一つ解決されれば、次が見えて来る。一山超えれば見える景色は変わってくるんだよ」


「でも目の前の問題が大きくて、なかなか解けないときはどうしたらいい?」ピョンは尋ねた。

「そのときは因数分解するんだよ」

「因数分解って 中学で数学の時間に習ったあの因数分解?」

「そうだよ 難しいことでも分解して解きほぐしていけば、その原因となっている因子が分かって、それを動かせば答えが見えてくるだろう」

「ふ~ん 因数分解なんて生活には役にたたないかと思ってたけど、違うんだ」

「うん、考え方の問題 頭のトレーニングだね」


シンが特に強調したのは、真摯であること。「一番ダメなのは傲慢だよ。 いい気になると注意力が散漫になる。見落としが出てくる。周囲をしっかり観察して、状況を的確に把握することが大事なんだ」諦めない。ダメならまたやればいい。目の前に現れることは身の丈に合っているから、やがては解ける」シンの話を聞いて、ピョンは少し気が楽になった。

「善いことを積み重ねれば、いい報いがあるの?」ピョンは尋ねた。

「いや、必ずしもそういうもんじゃない。ステレオタイプに善行を選択していると、見えなくなるものもある。真実は善悪の彼岸にあいることもある。大事なのは真実の方だよ」


さらにシンはスキルを授けた。

「強く願い続けていれば、次々と願いが叶うことがある。シンクロシニティとも言うな。

思いつめているとダメだったことが、ふと気が付くと気を抜いたり、他のことに注意を向けた瞬間自然に実現する。かくり世からの贈り物かもしれない」

「かくり世?」

「かくあればいいという古来からの想いが積み重なったイメージのようなものかな

 最初からすべてが決まっているわけではないのだ。その時、その時全力を尽くして現実に対処して使命を全うする。それが生きるということだ。使命が何かわからないときにも、目の前に起きることに一つ一つ向き合っていけば、やがてそれは見えてくるだろう」


「辛い浮世と言われる下界も、視点を変えたら面白いところかもしれない」

ピョンは楽しいこともたくさん起こりうるプログラムを準備しながら、期待を持って次の転生に向かおうとしていた。



自分の思っていることを、こんな形に纏めたのは初めてのことです。日記はしょっちゅう書いてきましたが。年寄の暇つぶしで、人様にお目にかけるようなものではないかもしれませんが、外からの目にさらして見たくて投稿します。何かのヒントやきっかけになれば嬉しいです。

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