表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/72

09.何者ですか

 わたしはもう、怯えていて、彼の方を見ることができなかった。

 そのときまた、彼の言葉が聞こえた。


「こっちを見て」


 その声を聞いたとたん、わたしの感じていた、恐怖が消えた。

 不思議な気分だ。

 おかしいと考えながらも、わたしは彼の方を見た。

 その目を見たとたん、またあの妙な魅力がわたしを捉えた。

 抵抗しがたいその目の力に、わたしの意志は操られかけた。


「さあ、外へでてきて」


 そうしようと、車のドアを開きかけた手を、わたしはぐっと意志の力で押さえた。


「いやです」


 そう言うと、彼はわずかに意外そうな顔をした。

 それから、もう一度口を開いた。


「お願いだから、外へ出てきてくれ。見せたいものがある」

「……見せたいって、何を、ですか」

「証拠だ。もちろん、怖いものじゃない。君に危険はない」


 わたしはそれには答えなかった。

 判断に迷い、どう答えていいかわからなかった。

 ただ、アクセルを踏みこむ足から力は抜いた。

 どういうわけか、いま、この車は動かない。エンジン音もしない。

 その理由、あるいは原因は、よくわからない。


 わからないが、もしもこの、目の前の男が、その原因だとすれば?

 もしそうだとすると、結局のところわたしは、彼の言うことを聞かなければならなくなる。

 他に逃げるすべはないからだ。

 ひょっとすると、彼は車の鍵をこじ開け、わたしを車外に引っ張り出すことだって可能かもしれないからだ。


 やがて彼が言った。


「それを見てくれれば、君はぼくのことを、信じてくれるはずだ」


 わたしはじっと、ガラス越しに彼を見た。

 自分の意思をあらためて確認してみる。

 先ほどのような怪しげな力は、もう感じていなかった。

 おそるおそる、わたしは車のドアを開けた。


 外は、かなり冷え込んできていた。

 ドアに隠れるようにしながら、わたしは彼にたずねた。


「それで、何を見ろと?」

「これを」


 そうとだけ言って、彼は車のボンネットの方へと戻った。

 わたしは、ためらいながらも、その後について行った。


 そうして、彼は手でわたしの車を指し示した。

 その部分を見て、わたしは自分の目が信じられなかった。

 つい先ほどまで、彼にぶつかったと思われるその部分は、果たして修繕が可能かどうか疑わしいほど、へこんでいた。


 なのに今、その部分には、衝撃を受けた形跡は存在しなかった。


「どうして」

「説明はしない。君たちには理解できないだろう。単純に、エネルギーの問題なのだけれど……ただ、証拠にはなる」


 わたしは目を彼に戻した。

 手品師。いいや、手品だとしても、いずれにせよ、すごい。


「何者ですか」


 そう聞いたわたしは、すでに彼に興味を抱いていた。


「さっきも言ったとおり、君たちのいう、宇宙人だ」


 わたしはじっと、彼のその目を見た。やはり、彼は笑い出すことはなく、こちらの反応を眺めていた。


 わたしは、一度、うなずいてみせた。

 実際のところ、宇宙人か、そうでないかはまだわからない。

 けれど、彼の話を聞く価値はありそうに思えた。


「もう一度車に戻って、ぼくの話を聞いてもらいたいが、いいかな」


 先ほどまでの妙な会話を思い出すと、若干の抵抗がある。

 それでもわたしはうなずいてみせた。


「ええ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ