↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
72/72

72.この命が尽きるまで

 わたしたちはアメリカのどこかにいたらしい。

 カナタの言葉に従って、彼が伸ばした手を握ると、わたしが一歩も足を動かしていないのに、平地の端に広がっていた森が、どんとんとこちらへ近づきはじめた。


 ぶつかる! と思ったそのとき、わたしたちは木々をすり抜けた。

 まるで3D映画の映像を見ているような気分で、森を抜け、はるか彼方に広がる山脈の内部の暗闇を抜け、太平洋を高速で渡り、新幹線よりもずっと早いスピードで左右を飛び去る景色を目で捕らえきることも出来ず、二十分も経たないうちに、わたしたちは、わたしの家の前に立っていた。


 なぜか玄関の鍵はかけられていた。

 妙なところにあの少女は気を回したらしい。

 土足で家にあがりこむくせに。


 カナタの宇宙人的パワーで鍵を開けてもらい、玄関を開けて、その中に入ると、わたしはやっと、ほっとした。


「ああ、すごく疲れた」


 そうつぶやいて、玄関の壁に寄り掛かる。後ろからカナタがぽんぽん、とわたしの頭をたたいた。


「お疲れさま」


 わたしは壁に向けていた体重を、カナタの方へ寄せてみる。

 彼が軽く背中に手を回し、わたしの体を支えてくれた。


「なに?」と彼が言う。

「ううん、ただこうしてみただけ」とわたしは答えた。


 そして今、若干睡眠不足の残る目で、わたしはカナタの後ろ姿を見ている。

 彼が手際よくベーコンエッグを作る様子を見て、妙な満足感を覚える。

 彼はいま、この状況のことを、どう思っているのだろう。

 わたしはまた、いつの間にか、そんなことを考えてしまう。


 あくまで義務? 仕事の一部?

 もしかすると、そうかもしれない。

 だけど彼はこの四ヶ月でどんどん、人間らしい感情や感覚を身につけている。

 だとすると、わたしに対する気持ちも、きっとそれは、人間に近いものになっていくんじゃないだろうか。


 カナタはその体を自由に作り替えることが出来るという。

 だとすると、わたしと一緒に老いることも出来るんだろうな、と思う。

 ひょっとして、子どもを作ることだって、出来るのかも。


 ふと浮かんできたその考えが急に恥ずかしくなって、わたしはその場で何度も首を振り、その思い付きをどこかに振り捨てる。


「ん? どうかした?」


 視界の端にそんなわたしが見えたらしく、カナタがそうたずねてくる。


「別に、なんでもない」


 早くなる胸の鼓動を感じながら、わたしは改めて心を落ち着ける。

 いや、今はまだ、そんなことは考えなくていい。

 何しろ、もう、わたしたちには、共に過ごす多くの時間があるのだから。

 いまふと思ったこととか、カナタの感情とか、そんなものは、過ぎていく時間の中で、いずれきっと、確かめられることなのだ。


 そう、彼はわたしのそばにいて、ずっとわたしを見守ってくれる。

 この命が尽きるまで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 完結お疲れ様でした。 この先の二人の様子をもう少し見ていたいような、そっとしておきたいような、そんな気持ちです。 このお話ほんと好きです。ありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。