20.相沢さんは恋バナをしたい
なおさらわからない。
雰囲気みたいなもの、と認識しておけばいいのか。
家で、彼と話しているときも時折、こうして言葉の認識に齟齬が出るときがある。
たいていは彼の表現方法の問題だ。このところはずいぶん少なくなったが。
しかし相沢さんは宇宙人ではなく、しかもほぼ、同世代だ。
もう少しわかりやすく話してくれてもいいのではないか。
「つまり?」
「そうですねえ……先生、いつものときはなんというか、こう、まっすぐで、仕事一筋って感じなんですよ。他のことには興味がない、っていうか。顔も真顔がベースっていうか。だけど今日はなんだか、会ったときから表情も柔らかいし、雰囲気違うな、って思いまして」
「要するに相沢さんはわたしのこと、いつもお堅くてくそ真面目な仕事人間だと思っていたんですか」
こちらはかなり打ち解けた気持ちでいたのに。若干ショックだった。
が、相沢さんはえへへ、と笑いながら手を顔の横でひらひらとさせた。
「違いますよ。でも、仕事に行き詰まっているならわかりますけど、順調なときも仕事のことばかり考えていて、気疲れしないのかな、って思ったことはあります」
「そんなこと思ってたんですか」
うん、思ってました、と悪びれずに相沢さんは言った。
そんなに仕事のことばかり考えていたつもりはないが、周りからはそう見えていたのだろうか。
「でも、今は違いますよ。だいたい、ねえ、先生。いまの話だって、前なら、『別にいいことなんて何もないですよ』でおしまいだったはずです。それが、『どうしてそう思うんですか』ですから」
たしかに、そうかもしれなかった。
「何かあったんですね、いいことが。別に、私は聞きませんよ。先生がそれで充実した仕事が出来るなら、私にとってもそれはいいことですから」
はい、とわたしはただそう答えた。
どう答えていいかわからなかったからだ。
相沢さんはその返事を聞いてにっこりと笑い、小さくうなずくと、そそくさと傍らのバッグを手に取った。
それで打ち合わせが終わるのだとわたしも察し、準備をはじめた。
外へ出て、店の前で相沢さんと別れる。
彼女は電車で会社へ戻るので、車で自宅に帰るわたしとは、いつもここで別れの挨拶をかわすのだ。
「先生、相談があったらいつでも連絡ください。私、恋バナとか大好きですから」
相沢さんは最後にそういった。
そうやってにっこりと笑って、手を大きく降りながら数歩後ずさり、それから駅の方へ向き直って颯爽と歩いていった。
恋バナ。恋の話。
それは残念ながら恋バナではないが、もしわたしから本当のことを相談されたら、相沢さんはものすごく驚くだろうな、と想像を膨らませてみる。
いやひょっとすると彼女は、わたしが柄にもない冗談を言い出したと思い、困惑するだけかもしれない。
何しろ宇宙人と同居をはじめたなんて、にわかには信じがたいことだろうから。
なんてことを考えながらわたしは、彼女の後ろ姿を眺めていた。




