第8話 敵の切り札
「有り得ない!有り得ない!なんでだよ!どうやったらこんなことができるんだ!?」
指揮官は瞬く間にでほぼ全ての魔物を殺したキュロスを見て途轍も無く動揺していた。1000を超える数の魔物を無傷で―――正確には鳩尾に剣が刺さっているが―――殺すなんて人間ができることを軽く凌駕している。
「グッ、いってぇな。」
キュロスは冷静に刺さっている剣を抜いた。辺りに血が飛び散ったがその量はあまりに少なかった。よく見ると刺さっていたはずの場所には小さく傷がついているだけだった。その小さな傷もすぐに塞がり血塗れでなければそこに剣が刺さっていたとは思わなかっただろう。
「は?なんで傷が治ってるの?」
彼女は怪物を見る目で言った。
「俺は半妖だ。この程度の傷で俺は止まらない。」
キュロスはそう言い放つ。
「それよりお前は何者だ。何の為にペタを攻めた。」
彼女の正体と目的を尋ねた。
「言うわけないでしょ。」
「だよな。じゃあお前を拘束して尋問する。」
その時辺りに不穏な気配が立ち込めた。
「なんだ?」
「こんなことは想定してなかったけど、万が一の時の為に奥の手ぐらい用意してるわよ!」
突如地面がひび割れ、辺りが薄暗くなり、そこかしこから得体の知れない肉のような物が迫り出した。それらは一箇所に集まると姿を変えまるで神話に出てくるかのようなドラゴンに変わった。
「全てを滅ぼせ!ドラゴンゾンビ!」
そう命じると彼女は影に吸い込まれ姿を消した。
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街の中で暴れ回る魔物を倒したペタの冒険者達は突然辺りが暗くなるのを感じた。
「おいおい、一体どうなってんだ!?」
「きっと滅びの日が来たんだ!」
「そんなわけねぇだろ!違うよな?」
混乱する冒険者を見てギルドマスターは異変を感じ取った。
「まさかキュロスがやられたのか?いやあいつに限ってそんなことはないか。きっと敵さんがやけになったか奥の手を出してきたな。」
マスターの予感は当たり、咆哮が響き渡った。
「ひぃ!ドラゴンだ〜!」
「もうダメだ!助からねえ!」
「逃げるぞ!」
「逃げるってどこにだよ!」
「ドラゴンから逃げ切れるとでも思ってんのか!?」
「分かんねえよ!とにかく遠くだ!」
その時だった。
ドガァァァン!!!!!!
門に向かって勢いよく特大のドラゴンブレスが放たれそのままペタを貫通した。門を吹き飛ばし、街を破壊し、運悪く範囲内にいた生物は例外なく灰になった。住民の2割がこの一撃で死んだ。その中には戦える冒険者も多く含まれていた。残った戦闘要員は襲撃開始時の3分の1になってしまった。
「クソッ、動ける奴は住民の避難を優先しろ!とにかく住民を救うんだ!!」
マスターが呼びかけると冒険者達は一斉に動き出した。
「ドラゴンはキュロスがやってくれる。俺たちはキュロスが戦いやすいようにしてやるんだ。」
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「さて、どうするかな。」
キュロスは腕を組み胡坐をかきどうやって倒すか考えた。今回の相手はただのドラゴンではなくドラゴンゾンビだった。その点が対処法を難しくしていた。アンデットであるため疲労した所を一気に叩くことは難しい。また痛覚によってひるませることも望めない。現実的なのは大技を放った隙に魔力供給器官を破壊することだが、今のブレスが最大だとしてもほとんど隙が無かった。次にあれをやられれば間違いなくペタは消滅し、地図から消えることになるだろう。となれば―――
「考えてる時間はないな。」
ドラゴンゾンビは次のブレスを準備していた。これ以上考える時間も余裕もない。作戦は決まった。あとは実行するだけだ。そう自分に言い聞かせて心を落ち着けるとキュロスはスキルを発動した。
「妖怪化。」
全身に薄く靄がかかり、額に角が生える―――元々キュロスの額には小さな瘤があったが前髪で隠れていて分からなかった。―――。髪の色が黒から銀に代わり、筋肉が隆起する。経過を見ていなければ誰か分からないだろう。だがその優しく落ち着いた目は妖怪化する前と全く変わっていなかった。先ほどの魔物を一瞬で倒した時も妖怪化していたがあまりにも速すぎて誰も気付かなかった。
「やるか。」
世界最強格が本気で戦いを始めた。
リーンの嫌な予感はこのことだったんですね~。
もう少しでペタ攻防戦は終わりです。
ちなみにキュロスのイメージは『仁王2』の主人公だったりします。今回はもう一つネタがありますので探してみてください。
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