第6話 戦闘開始
「は!」
「そりゃ!」
「このっ!オラァ!」
「ファイアボール!」
あちこちで怒号や悲鳴、武器と魔物の鱗や甲殻がぶつかる音、魔法の詠唱が聞こえる。
「クソッ。キュロスはどうしたんだ?魔物の数が多すぎる。」
そうマスターは言い、目の前の魔物―――厚い鱗を持ったワニ型の魔物―――を切り伏せた。既に何人もの冒険者が倒れた。ある者は魔物の牙に、ある者は魔法の巻き添えに、またある者は混乱した冒険者によって。
「このままじゃ、ペタは魔物に占拠されちまう。この状況を打開する策はないのか?!」
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魔物が街になだれ込む数分前、剣を構えたキュロスは首を傾げた。この魔物の群れに不自然な点がいくつかあったからだ。
「魔物の統制が取れすぎている。まるで優秀な指揮官がいる軍隊のようだ。」
通常スタンピードはダンジョンなどの閉所に溢れかえった魔物が外に出て本能のままに街や人を襲うものだ。ところが奴らは同種の魔物で隊列を組み、武器をもっている個体さえいる。その上、通常なら魔物同士で殺しあって進むにつれて数は減っていく。だが、今回はそんなことが起きている様子はない。通常の何倍もの数を相手にすることになるだろう。
「仕方がない、作戦変更だ。考えている間に攻めてくる。街の被害には目をつぶってもらおう。この街の存亡に関わる。」
たとえSランク冒険者であっても統制の取れた魔物の軍勢を相手取って戦うのは無謀にもほどがある。ここは指揮官を倒して撤退させる―――撤退するかどうか分からないが―――ほうがいい。そう考えたキュロスは門を離れ、魔物の群れの中枢に向かった。
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「ギャアアアアアアス!!」
「うわぁぁぁぁ?!魔物だぁ!」
「た、助けてくれーーー!」
「ひぃぃ、あ、足が竦んで動けない」
冒険者の包囲網を抜けた魔物がペタの住民を襲い始めた。パニックを避けるために住民達を避難させなかったのが仇となった。街が襲われた際に避難先として教会があったがこの非常時に冷静に行動できるものは少なく、多くの住民が魔物の手にかかり、命を落とした。
「皆さん大丈夫ですか!私たちが来たからにはもう安心です。すぐに教会に避難してください!」
そう叫んだのはペタを拠点とするBランク上位のベテラン冒険者チーム、『青の帝王』のリーダーである魔導士、リーン・マクフォースだった。
「本当か?!」
「助かった!!」
住民達は口々にそう言って教会へ避難した。
「一体何がどうなっているの?」
仲間である剣士のルルーシュ・ナスキーが聞いた。彼女たち―――青の帝王はリーンをリーダーとする5人の女子チームである。―――は護衛の依頼で隣町へ行っていて事情を知らなかった。依頼を終えて戻ってきてパーティーハウスで休んでいたがどうにも外が騒がしく不審に思って外に出るとこのありさまだった。
「分からない。でもとても嫌な予感がする...」
「リーダーの勘はよく当たるもんね。女の勘ってやつかな。今まで何度も助けられたけど今回ばかりは外れて欲しいな...」
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門では死闘が繰り広げられていたが、徐々に押され始めていた。
「はぁ、はぁ、はぁ...」
傷を負って動きの鈍った冒険者を確実に仕留めに来るやり方はとても魔物らしいとは思えなかった。
「耐えるんだ。キュロスが来るまで。」
ナヴィは既に限界が近づいていたがキュロスがこの戦いを終わらせると信じていた。だが敵は多く終わりの見えない戦いに心が折れそうだった。その時だった。
「?!」
唐突に魔物達の統制が崩れはじめた。
「よし!今だ!!!畳み掛けろ!!!」
マスターの掛け声で冒険者たちは一斉攻撃を仕掛けその場にいた魔物を全て倒した。
「やった...キュロスがやってくれた。」
確信を持ってナヴィは呟いた。
次回はキュロスの過去が少し垣間見えるかもしれません。
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