第4話 元Sランク冒険者キュロス・マーベル
「そんなに謙遜しなくてもいいだろ。」
「今の俺は資格停止中だ。謙遜してる訳じゃない。」
「そんなことよりあたしはキュロスの武勇伝が聞きたいなー。衛兵の人が言ってたけど聞きそびれちゃったし。」
暢気にもナヴィが呟く。
「おーし、話してやる。まずは山脈に巣くうドラゴンを斬ったときの話だ。あれは2年前のことだ。」
ナヴィの発言に気をよくしたマスターは話し始めた。
「2年前、世界中を旅していたキュロスは山脈の麓にある冥府の森にほど近い小さな村にいた。その村は毎年年頃の娘をドラゴンに生贄として捧げていたんだ。なぜなら生贄を捧げなければ村を滅ぼされちまうからだ。その年の生贄になるはずだった娘の家に一宿一飯の恩があったキュロスは生贄の代わりにドラゴンの元へ向かった。そしてドラゴンに向かってこう啖呵を切ったんだ。―――『俺が代わりに生贄になってやる。ただし俺を殺せたらの話だがな!』―――怒り狂ったドラゴンはキュロスに向かってブレスを放った。だがキュロスはひらりと身を躱すと相手の懐に入り込んで前脚を斬り落としたんだ!そして返す刀でもう一方の前脚を斬りつけ体勢が崩れたところにとどめの一撃で首を斬り落とした!」
「ドラゴンの鱗って並みの剣じゃあ傷一つつかないのにどうやって?」
「とある職人が作った最高の一品らしい。それとこの話は嘘じゃないからな。実際に一緒に行った奴が見た話だ。そいつは自信を無くして冒険者を辞めちまったらしい。」
「それでその村はどうなったの?」
「生贄を要求する悪しきドラゴンが倒されたことを知った村人達は3日3晩宴を開いて祝ったんだと。それと村人達からキュロスに倒したドラゴンの鱗で作ったペンダントと手甲が贈られたそうだ。」
「へぇー。すごいね、キュロス!」
「別にすごくなんかない。実際はドラゴンじゃなくてワイバーンだし、村人の娘が生贄にされた事実もない。話に尾鰭がついているだけだ。正直に言ってただのワイバーン討伐がドラゴンを退治して村も英雄になった話に変わった理由が分からない。」
キュロスは冷静に答えたが誰も話を聞いていなかった。
「次の話は――」
「人の話を聞け。」
「キュロスが仲間たちと華々しくデビューした時の話だ!」
「おい、無視か。」
「8年前、キュロスが11の時のことだ。故郷の村から出てコレニアム王国のパラの街で冒険者になったキュロス一行はとんでもない記録を打ち立てたんだ。」
「記録?」
「冒険者になる前に適正試験をやるだろう?」
「ああ、あれね。」
「試験の出来次第で初めのランクが決まるんだが、普通は良くてEランク下位だ。だがキュロス達は試験官を圧倒した。キュロス達は前代未聞のⅭランク下位からスタートしたんだ。」
「え?!ほんと?!」
「マジの話だ。試験官をやったやつに聞いたんだがバケモンみてぇに強かったそうだ。一緒に試験を受けた新人は茫然としてたってよ。」
「ふぇ~、ほんとにキュロスはすごいな~。砂漠で出てきた魔物も瞬殺だったし。」
「ただ不思議なのは3年前の事件のことだな。」
「!」
「なんなの?その事件って。」
”3年前の事件”という単語が出た瞬間キュロスは大きく顔をしかめ、立ち上がると何も言わずにギルドを出て行った。
「あ、キュロス!どこ行くの?」
「ほっといてやれ。あれはきつい事件だ。聞きたくねぇのも分かる。」
「そうなの?」
「簡単に説明するが3年前とある依頼を受けたキュロス達が街を出た後しばらく帰ってこなかったんだ。不思議に思っていると血まみれのキュロスが既に息絶えた仲間2人を担いで戻ってきた。事情を聞いてもキュロスは何も答えなかった。唯一分かったのは町を出た後の記憶が曖昧だったってことだ。『何かでけぇ魔物に襲われた気がするし、何もなかったような気もする。気づいたときには仲間が死んでいた。』事件から少し経ってそう答えたらしい。」
「そんな...」
「俺だったら耐えられねぇ。仲間を全員失って自分だけが生き残って、しかも何があったのか覚えてねぇときた。気が狂っちまっても誰も責めやしねぇだろう。」
「そんなことがあったんだ...」
「そんでもってこの話で一番謎なのはキュロスの記憶がねぇことじゃない。元々キュロスのパーティーは4人だった。だがキュロスが担いでいた仲間の死体は2人だけだった。つまり残りの1人はどこかに消えちまったんだ。」