第3話 冒険者ギルドにて
何とか街にたどり着いたキュロス達を待っていたのは街に入るための検問に並ぶ長蛇の列だった。
「うわっ、これ何時間かかるんだ?」
「うーん。多分3時間ぐらいかな?」
ナヴィはいつものことのように言った。
「最近この辺は物騒だからね。検問にかかる時間も前より長くなってるし。」
「物騒って何かあったのか?」
「えっと、この辺りに出る魔物が強くなってたり、街中に魔物が入ってきたり、いろいろあるよ。」
「それまずくないか?」
「そうだよね...領主様はこの事件は人為的なものだって考えているみたい。」
確かに門には衛兵が何人か立っているから魔物が誰にも見つからずに街中に入ってくることはあり得ない。それに空気中の魔素が急激に増えでもしない限り魔物が変異することはほとんどない。
「・・・ろす」
誰かが故意に魔素を操作していると考えるのは妥当な判断だ。もしその仮定が当たっているならかなり厄介なことになるだろう。
「・・・キュロス」
それより魔素を操作している何者かの目的は何だろう?この街には何か秘密があるのだろうか。
「キュロス!」
「うわっ!...なんだナヴィか。どうした?腹でも痛いか?」
「どうしたはこっちのセリフだよ。どうしたの?急にボーっとして。」
「なんでもない。少し考え事をしてただけだ。」
「ほんとに?」
「本当だ。」
「ならいいけど。」
そう言ってナヴィは列の方へ歩いて行った。少し嫌な予感がするがとりあえず街に入ろう。
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3時間半後、ようやく順番がまわってきた。
「やっと俺たちの番か。」
「長かったね...」
「さっさと終わらせて街に入るぞ。」
衛兵の前に立って検問を受けようとすると
「もしかしてあんたキュロス・マーベルか?」
「? そうだけど。」
「やっぱりか!俺あんたのファンなんだよ!いやーまさかこんなとこで会えるとは!」
テンションの上がってる衛兵を見てナヴィは
「キュロスって有名人なの?」
「どうやらそうらしい。」
あまり関心がなさそうに返事した。
「あんたの武勇伝にはシビれたね!一番ヤバかったのは山脈に巣くうドラゴンを―――」
「それ以上は止めてくれ。」
「ああ、すまない。年甲斐もなく少し興奮しちまった。」
衛兵は恥ずかしそうに笑った。
「もう一人は・・・ナヴィか。よし、通っていいぞ。」
「えらく簡単だな。」
「あんたの身分は俺が保証する。文句言う奴は俺がぶっ飛ばしてやる!」
「やりすぎんなよ。」
「おう!」
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街に入ってすぐの食堂で遅めの昼食を取りながらキュロス達は今後について話をしていた。
「これからどうするかなんだが―――」
「はむっんぐっごくっぷは~―――ん?なに?」
「・・・これから冒険者ギルドに行こうと思う。」
ナヴィの落ち着きのない食い方には触れずに切り出した。
「ふぁんへ?」
「口の中の物飲み込んでから喋れ。情報を仕入れるなら冒険者に聞く方が早い。それだけだ。」
「そういえばさぁキュロス。」
「何だ?」
「昨日も聞いたけどやっぱりキュロスって何者なの?」
「・・・そのうち分かる。」
キュロスは言葉を濁したがナヴィにはなんとなくキュロスが何者かが分かっていた。だがそれをわざわざ言うほどナヴィの頭は悪くなかった。
「それじゃあ早速冒険者ギルドに行こっか。早い方がいいでしょ?」
「それはそうなんだが...」
キュロスはテーブルの上の皿を見て呟いた。
「金足りるか?」
ナヴィの顔は死人のように青くなった。
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「ちょっと調子に乗って食べ過ぎちゃったなー。」
「あれでちょっとなら店が潰れるだろ。」
もうあの食堂には行けないな。飯代をつけておいてもらったけど店主のこめかみに青筋浮かんでたからな。「二度と来るな!」って言われてもおかしくなかった。
下らないことを考えながら歩いていると冒険者ギルドに着いた。剣が2本交差した間に『冒険者ギルド・ペタの街支部』と書かれた看板が目印だ。ウェスタン風の扉を開け、ギルドの中に入った。基本的に冒険者ギルドには酒場が併設されていることが多い。この街でも入ってすぐの場所が酒場だった。懐かしい感覚だ。依頼の報酬で宴会をしているパーティー、強い酒の臭い、殺気立った視線、その全てが懐かしい。
「なんだぁ?てめぇ。」
案の定1人の冒険者が絡んできた。既に酔っているのか顔が赤くなり足元が覚束なくなっている。
「はっ、ただのガキじゃねぇか。こんなとこに何の用だ?」
20代後半、いや三十路過ぎか?どちらにせよあまり強くないだろう。厄介事を増やしてもしょうがないので無視する。
「無視すんじゃねーよ!!!」
テーブルに拳を叩きつける。その拍子に酒瓶が倒れて床に落ち、割れた。どうやら無視するのは良くなかったらしい。余計に怒らせてしまったようだ。
「俺が誰か知らねーのか?次の昇格試験でBランク中位に上がるネッツ・ライトだ!」
こいつは頭の中が花畑らしい。それかもしくはこの街の冒険者は総じてレベルが低いかどちらかだ。こんなやつ本部じゃDランク上位いや、中位程度だ。どちらにせよ来たばかりの奴に向かって自分のランクを言うとか馬鹿としか言いようがない。
「あんたが誰か知らないし、そんなに強くないだろ。」
そう言い切ると男の顔はゆでだこのように真っ赤になった。
「本当に強いやつなら自分の強さを他人にひけらかすことも、年下を侮ることもしない。」
加えてそう言うと男は言い返せずに悪態を吐いて自分の席に戻った。テーブルの間を縫ってギルドのカウンターに行くと
「若ぇのに言いこと言うじゃねぇか。」
額に十字傷のあるひと際存在感を放つ男が話しかけてきた。
「あいつにはほとほと困ってたんだ。人の手柄横取りするは、ギルドの女職員に手を出すは、問題だらけでよぅ。なまじ頭が回るから余計質が悪い。」
「・・・あんた誰だ?」
「おお、こいつはすまねぇ。ここのギルドマスターのグラマンだ。よろしくな、キュロス・マーベル。」
「マスターもキュロスのこと知ってるの?」
「ん?ナヴィ、お前いたのか。」
ナヴィが会話に口を出して初めていることに気づいたようだ。
「最初からいたよ!で、キュロスって一体何者?」
「なんだお前知らねぇで一緒に居たのか。こいつはな、世界にそうそういねぇSランク冒険者だ。」
「うぇ?!」
ナヴィは驚きのあまり身を乗り出した。
「”元”Sランクだ。」
無駄かもしれないが一応訂正した。