第1話 出会い
「暑い…」
じりじりと照りつける太陽を睨みながら男は呟いた。
「暑すぎる…このままじゃ干からびちまう。」
そう言って手元の水筒を振ったが、生憎中身は空だった。つい先ほど全て飲んでしまったのだ。魔道具でもない限り水は有限だ。砂漠越えをするならしっかりと準備するべきだった。
「…け…て」
遠くから声が聞こえた気がした。周りを見渡しても誰かがいる気配はない。あまりの暑さに幻聴が聞こえたのかもしれない。男はそのまま歩こうとした。
「助けて…」
また聞こえた。どうやら本当に危険な状態かもしれない。脱水症状で意識が薄れるのを感じる。このまま倒れて砂漠の砂になるのかもしれない。
「誰か助けて!!」
後ろの方から声が聞こえた。さっきよりずっと近くだ。不思議に思って振り返るとそこには猫の獣人が魔物に追われていた。その魔物は数分もしないうちに獣人に追いつくだろう。関係ないと切り捨てるのは容易いがここで助ければもしかしたら水を分けてくれるかもしれない。そう思った男はふらつく足で近づいて行った。
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「クソッ、今日は厄日だ。」
猫の獣人は悪態を吐きながら魔物から逃げていた。本当なら今頃依頼を終えて街に戻っている頃だ。この辺りのオアシスに生えている薬草を採取して街に戻るはずがいきなり現れた魔物に殺されそうになっている。途中で薬草を落とすし、武器も無くすし、挙句の果てにもうすぐ魔物に殺される。これで厄日じゃないなら神さまを恨んでやる。
「誰か助けて!!」
叫びながら走っていると前方に誰かがいた。あいつに押し付ければ、逃げられるかもしれない。
「誰か助けて!!」
もう一度叫ぶとそいつも気づいたようだ。ゆっくりこちらに振り向き、近づいてくる。そいつはかなり身長が高く、二振りの剣を腰に帯び、急所のみを守るプレートアーマーを身につけていた。
・・・
・・・
・・・今一瞬あいつ笑ってなかった?ていうかあいつフラフラじゃん。あんなんで大丈夫か?
「助けてください!魔物に追われてるんです!」
とりあえず感じた違和感は置いといて今は押し付けるのが先だ。さもか弱い乙女のように振る舞う。
「OK」
男はそう返事をすると魔物の方に向かっていった。
よし押し付けることはできた。あとは任せてこのまま逃げよう。そう思ったその時
「グギャアアア」
魔物はそのまま生き絶えた。
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何が起こったか分からないままポカンと口を開けていると
「大丈夫か?」
先ほどの男が近寄ってきた。
「……え?あ、うん。大丈夫。」
呆然としていて近寄ってきたことに気づかず少し間の抜けた返事をした。
「ところで少し聞きたいんだけど。」
質問されてハッとする。もしかして魔物を押し付けたことを怒っているのか?いや絶対怒っているに違いない。魔物を押し付けるなんて冒険者失格だ。もしかしたらギルドに報告されて資格を停止されるかもしれない。そんなことを考えていると、
「水を少し分けてくれないか。」
水筒の蓋を開け逆さにして振りながら言う。
「は?」
「いやだから水を分けてくれ。」
こいつはアホなのか?そんな小さな水筒に入る量はたかが知れている。
「水を分けるのはいいけど、すぐになくなるよ?」
と、水筒を指差して答えた。
「いや大丈夫だ。」
何が大丈夫なのか。ここから一番近いオアシスでも二時間以上かかる。街までなら一日はかかるだろう。いや、もしかしたらあの水筒は魔道具かもしれない。見た目は小さくても容量を増やす魔法がかけられているかもしれない。だとしたらなんとかもつだろう。
「分かった。分けたげる。その水筒貸して。」
水筒を受け取って調べたがなんの変哲もないただの水筒だった。これでは入る量は少なく、街まではもちそうにない。どうするつもりなんだ?
「こんなただの水筒でどうやって街まで持たせるつもりなの?」
「我慢する。」
「あんた砂漠を舐めてんの?」
「こんだけでオールシア王国のパラの街から来たんだ。一番近い街までなら持つだろう。」
「でたらめ言うな!」
「いや本当のことだ。」
深くため息を吐きながらこう思った。
『何なんだこいつ。』