第16話 チーム結成
世界観設定 ①
この世界ではほとんどの獣人は獣に近い姿で生まれますが極稀に人間に近い姿で生まれる者もいます。彼らは人間の体に獣の耳と尻尾を持つので『獣憑き』として迫害されています。彼らは獣人と比べて能力がやや劣るので獣人からは『狭間者』(どっちつかずの半端者)として差別を受けています。また獣人の信仰する宗教には狭間者は家に災いをもたらすとされ生後6年ほどで強制的に家から出されます。
(今幕で登場するナヴィは通常の獣人です。)
試験から一夜明け、キュロスとナヴィは執務室のマスターの机の前に居た。珍しくマスターは不在だった。
「・・・遅い。どんだけ待たせるつもりだよ。」
キュロスたちが呼び出されて早2時間。未だ姿を見せる気配はなかった。
「きっと忙しいんだよ。もうちょっと待と?」
苛立つキュロスをナヴィが宥めている。そしてさらに30分後。とうとう待ちきれず帰りかけた時マスターが姿を現した。
「おうキュロス、ナヴィ。済まんな。待たせちまって。書類を出しに本部に行ってたんだがごちゃごちゃ言いやがるやつが居てよ。」
遅れた言い訳をしながら席に着いた。そしてさらに弁明を続けた。
「そいつがな、『何故これ程までに書類の提出に時間がかかったのですか?釈明があるのなら聞きますが手短に済ませてください。それともあなたが低脳だからこんなに時間がかかったのですか?まあしょうがないですね。あなたのように元冒険者ならおつむが弱くても仕方ないなどと言われてきたんでしょう?クスクス。』とか言って笑いやがってよぅ。腹立ったからぶん殴ってきた。」
ギルドの、それも本部の職員に手をあげるのは完全にダメな冒険者の典型だな。と話を聞いてキュロスはそう思った。
「ああそうだ。忘れるとこだった。お前らのチーム名の話だったな。で、決まったか。」
「うん!決まったよ!名前は―――」
「猫と半妖。」
「うん、そうそう。猫とはんよ――は?」
ノリノリで答えようとしたところをキュロスが横から遮るように言った。
「ちょっとキュロス!チーム名は話し合って『N&Kブラザーズ』にするって決まったじゃん。」
「はっきり言ってダサい。猫と半妖で十分だ。」
バッサリと切り捨てるキュロスにナヴィは崩れ落ちた。
「よーし。チーム名は『猫と半妖』で決定するが問題ないな?」
「ああ、問題ない。」
「あたしの意見は何処へ...」
四つん這いになって放心するナヴィを尻目に手続は滞りなく進み、正式に二人組パーティー『猫と半妖』の結成が決定した。
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「・・・す。・・・きゅろす。・・・キュロス!」
「おわっ。どうした?ナヴィ。食いすぎて腹壊したか?」
「前にもこんなことあったよね...」
チームを組んだときのことを思い出していたら声をかけられていることに気づかなかった。10本ほどあった串焼き肉も全て串だけを残してきれいさっぱり消えていた。
「で、何の用だ?脂とタレでベタベタの顔を見せつけるために呼んだんじゃないだろ?」
「え。そんなに付いてる?」
慌てて口元に手をやると手にもベットリと脂がついた。すぐさまハンカチを出して拭う。
「どう?取れた?」
拭ってはいるが口元も手も生えている毛に広がるだけで全く取れていなかった。脂でテカった毛は何日も洗っていないかのように見えた。
「・・・待っててやるから洗ってこい。これから酒場に向かうんだからそのままじゃマスターに笑われるぞ。」
「は~い。」
全く反省していなさそうな口ぶりで近くの水場に向かった。5分程して何故か全身が濡れ細ったナヴィが戻ってきた。
「一応聞くが何があった?」
「水場で手を洗おうと思ったら頭から落ちた...」
「それは...災難だったな。」
思わず顔がにやけてしまうがすぐさま真顔に戻した。
「今笑ったよね?」
「笑ってない。」
「嘘ついちゃだめだよ。笑ったでしょ。」
「だから笑ってない。」
「いーや。絶対笑ったね。」
「そろそろ酒場に行くか。」
「おーい、キュロス君?無視しないで。」
絡んでくるのが鬱陶しいので放置しておく。酒場に行っていい感じの依頼を探そう。後ろでナヴィが何かしゃべっているが気にしない。
「無視すんにゃー!」
怒ったナヴィがキュロスの後頭部に完璧な飛び廻し蹴りを食らわせた。怒りからか猫獣人の訛りが出た。その飛び廻し蹴りは熟練の武闘家も真っ青なほどの会心の一撃だった。ドゴンと重いものがぶち当たる音が辺りに響く。その様子を見ていた群集は背すじが凍った。なぜなら飛び蹴りを食らったはずの男は倒れるどころかビクともせず、振り返ると女のうなじを引っ掴んだからだ。
「え。ちょ待って。悪かった。悪かったって!だか―――」
そしてそのまま投げ飛ばした。
「うにゃぁぁぁぁ!!!」
およそ人間には出せない速力で投げられたナヴィは真上に吹っ飛ぶ。そのまま10mほど舞い上がり落下した。ナヴィは考えなしに蹴りを入れたことを後悔した。同時に今ここで死ぬという直感から走馬灯が見えた。周りにいた群衆も哀れな彼女は地面に叩きつけられつぶれた蛙のようになると思った。
ボフッ
間の抜けた音とともにキュロスはナヴィを受け止めた。
「どうだった。束の間の空中散歩は。」
悪い笑みを浮かべながら聞くが答えは無かった。代わりに生暖かいものが流れるのを感じた。ナヴィは羞恥から顔を真っ赤にしていた。
遂にチームを組んだキュロスとナヴィ。彼らの冒険はこれからです。チーム結成から現時点までの2か月間はどこかで書こうと思います。
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