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ちぇいんじ!  作者: *Rei*
1/2

プロローグ

 




 最初は小さな歪みだった。



「ねえ……これは貴方がいけないのよ?」


 深夜の路地裏で、二人の男女が向き合っている。

 場所が路地裏ならば、女が壁に押さえ付けられててもおかしくはないだろう。

 それなのに、何故か押さえ付けられているのは、男の方だった。

 街灯がないこの路地裏は、もともと光がないため、不気味な空気をまとっていたが、その男女のせいで、今夜はより一層不気味な空気を醸し出している。

 そんな中、美少女と呼ぶにふさわしい女が、静かに話し出す。

「最初は、そう……見ているだけで満足してたわ」

 女は、過去の思い出を大事そうにゆっくりと話す。

 一方、壁に背を追いやられている男は、そんな美少女を恐怖の対象としか見ておらず、話どころではないようだ。

「だから……貴方にたとえ、好きな子がいても、私は、好きでいられる自信があった……」

 そんな男の態度が、目に入っていないのか、それとも単に気にしていないだけなのか、女はなおも言葉を紡ぎ出す。

「貴方と同じように、同じ空気を吸っている……そう思うだけで、私は毎日が幸せだと思えたわ」

「でもね、足りなくなったの……愛すだけじゃやっぱり物足りなくなったの」

「だって……どんなに私が貴方を愛しても、貴方は振り向くどころか、ちっとも気付いてはくれないんですもの!」

 段々少女の語尾が強くなっていく。彼女の思いの強さが分かる。

「だから……だから私は、貴方が私だけしか見れないように、見れないように」

 次の瞬間、彼女の右手は、高く高く上げられ――

「がッ!?」

 男の腹に向かって振り下ろされた。


「刺すことにしたの」


 その言葉を合図にして、刃が何度も振り下ろされる。

「だって、そうしたら」

 ――ザクッ

「貴方は」

 ――ザクッ

「私だけを」

 ――ザクッ

「見てくれるでしょう……?」


 ――ザクッ




      ∞




「あーあー、殺しちゃったか」

 先程から路地裏に、身を潜めている男が、消え入りそうな声で呟いた。

 偶然にも殺人現場を目撃してしまった、この男。

 普通の人なら、そんな現場を見たら、我を忘れて発狂するか、あるいは、もう少し冷静な人ならば、真っ先に警察に通報するだろう。

 だが、この男はそんな素振りを見せない。

 それどころか、男は、犯人を脅して、何か利用出来ないかと考えていた。

 そんな男が目撃者だったから、この町で事件は起こった。

 だが、もしもこの目撃者が普通の人だったならば――

 もしもこの目撃者がすぐに警察に通報していたならば――


 この話の結末は、もう少し違ったものを迎えてただろう。






 歪んだ愛は、事実をも歪ませる。

 これは、歪んだ愛から作り出された、歪んだ愛の、物語。







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