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精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた  作者: アイイロモンペ
第5章 冬休み、南部地方への旅
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第81話 人と精霊

 テーテュスさんと話を終えた後、わたし達は港町の観光を切り上げて逗留先の別荘に戻って来た。

 ヴィクトーリアさんとハイジさんに精霊の話をしないといけないからね。


「精霊ってお伽話の中の存在かと思っていたのですが、本当にいるのですか?

 私には、先程のテーテュスさんやフェイさんたちが精霊だといわれても人にしか見えないのですが…。」


 ヴィクトーリアさんが困惑気味に尋ねてきた。


「お母様、私はフェイさんたちが精霊と聞いて今までのモヤモヤっとしたものが晴れた気分です。

 幾つか疑問に思っていていたことがあったのです。

 帝国に向かう旅の途中でターニャちゃんの年にそぐわない見識について聞いたことがあって、『二千五百年前にヴァイスハイト女王が仕込まれたことと同じ教育を受けて育ってきたから 』という答えが帰って来たのです。

 その時は、幼少の時から帝王学を教えられているという意味なのかなと漠然と思っていたのです。

 ターニャちゃんはどうみても平民には見えないので、どこぞの高貴な人がお忍びで学園にいるのだと思い深くは詮索しなかったのです。フローラ王女とも対等に話をしていましたし。

 文字通りヴァイスハイト女王を育てた方に教育を施されたのですね。

 あと、ハンナちゃんなんですが、よく誰もいないところに向かって話しかけているのです。

 ハンナちゃんは、『小人さんが色々教えてくれるの』って言っていたのです。

 子供特有の一人遊びかと思っていたのですが、今思うとそのあと急に魔法が上達したような気がします。

 本当に精霊に魔法の使い方を教えてもらってたんだと考えれば腑に落ちるのです。」


 ハイジさんは、今までの疑問が晴れてすっきりしたという表情で、ヴィクトーリアさんに話していた。



 そう言われても今一つピンと来ないヴィクトーリアさんの前でフェイさんが突然消えて、また現れるということをやって見せた。

 さすがに、ヴィクトーリアさんもこれには驚き、フェイさんが人ではないことに納得していた。



     **********



 ヴィクトーリアさんがとりあえず納得したのを見て、ミルトさんが改めてヴァイスハイト女王とオストマルク王国の歴史を説明した。

 もちろん、隣国の皇后であるヴィクトーリアさんは知っていたよ、でも神話だと思っていたようなので確認のためだと思う。


 ミルトさんの精霊とオストマルク王国の関わりについての話は続く。


 オストマルク王国に関して言えば、建国からしばらくの間は、荒地を開墾したり、水路を作ったりと精霊は積極的に力を貸してくれた。

 しかし、何百年か過ぎた後、当時の王の前に現れた精霊が次のように言った。


『今まで人に力を貸しすぎたのは失敗だった。私達は人に力を貸すのをやめることにした。

 これからは人は自分の力だけで生きていかなければならない。

 これから直接力を貸すことはないが私達はいつでも見守っているので、今まで教えてきたことを忘れるでないぞ。』


 そう伝えて消えた後、精霊が力を貸してくれることがなくなったが、当時の王は自分達の何が間違っていたのか理解できなかった。

 ただ、王は精霊に言われたとおり精霊神殿に残されている精霊の教えを愚直に守って政を行い、子供達にもそうせよと伝えた。

 今の王に至るまでそれは伝えられてきたが、精霊の教えを守ってきたおかげでこの国が精霊の加護の下にあり今まで旱魃や冷夏がなかったと、最近再び現れた精霊によって知らされた。



     ***********


 ミルトさんがここまで話したところで、フェイさんが話を引き継いだ。


「人に力を貸したのが失敗だったというのはこの国のことではなかったのです。

 ただ、この大陸の全ての人との関わり合いを断ったのでそういう言い方をしたのですね。」


 フェイさんは、そう前置きをして説明を続けた。



 当時から、精霊はわたし達のような形質を持つ一部の人にしか認識できず、故に精霊の力を借りることができたのはごく僅かな人たちだった。


 この国のように、精霊の力を借りることができるのが王であれば問題なかった。

王が直接精霊と言葉を交わし、精霊の意に沿わないことはしなければ良かったので。


 だが、その国の王は精霊が見える人間ではなかった。

 その国の王は精霊に強い意思があるということを理解していなかった。

 その国は大陸の中央にあり、その周辺は小さな国が多数あり争いが絶えなかった。

 その国の王は精霊の持つ力を争いの道具として使おうとしたが、精霊と心を交わす者は精霊の力を争いに用いることを拒んだ。精霊が争いに力を貸さなかったからだ。

 王は言うこと聞かない精霊に苛立ち、配下に精霊の力を人が行使できないか探れと命じた。

 精霊の力の源泉が大気中のマナにあることを突き止めた王は、誰もがマナから力を引き出せるようにせよと命じた。

 永年の研究の成果として王は大気中のマナを魔晶石として結晶化する技術と魔晶石を用いて超常の力を使える道具を手に入れた。

 最初は、着火のような簡単な魔導具だったがやがて、火の玉を飛ばしたり、石礫を飛ばしたりという争いに使える魔導具を作り出すに至り、これを争いの道具に用いた。

 その国の王は、魔晶石と魔導具の製造技術を独占しその力で大陸の中央部を支配下に置くことに成功した。

 その国こそ魔導王国である。



 精霊は、人間が大気中のマナを濃縮し結晶化したことに驚くと共に危機感を感じた。

 魔晶石は大気中の穢れたマナを濃縮したものであり、魔晶石が消費されるときに濃縮された穢れも大気中に放たれるものであったから。

 精霊はそれがどんなに危険なものかを精霊と心を交わす人に伝えたが、それが王の耳に届くことはなかった。

 やがて、魔導王国は隆盛を極め数多くの魔導具が作られ、それに伴い大量の魔晶石が生産、消費されるようになった。


 それに伴う大気中の穢れの増加から精霊が魔導王国を忌避するようになった。

 そして、大精霊たちが人に力を貸しすぎたことを悔い、人と距離を置くことを決めた。



 精霊たちが人の前に姿を見せなくなったのち程なくして魔導王国は大規模なマナの濃縮工場を稼動させ、この事故による深刻な瘴気汚染で国が滅びることになった。


 この瘴気汚染により多数の人命が失われると共に、動植物に突然変異体を生じ魔獣が発生し、瘴気を発する植物が生まれた。

 瘴気を発するようになった植物は、人知の及ばない繁殖力で魔導王国を覆いつくし今の瘴気の森を生み出すに至った。

 瘴気汚染の影響は生き延びた人にも生じ、突然変異で穢れたマナを操れる人が生まれた。

現在の魔法の始まりである。



 それが、約二千年前の出来事。そして、この二千年の間にこの大陸では穢れたマナを扱える人間が大多数になってしまった。

 この間、精霊たちは瘴気の森に集まり、瘴気の浄化に勤しんでいる。


 説明の最後にフェイさんは、最後にこう付け加えた。


「本当は、今でも私達精霊は人の世界に干渉するつもりはないのです。

 でも、生まれてからずっと精霊の森で育ってきたターニャちゃんを人の世界へ送り出すにあたり、付き添うものが必要だという判断から私達が出てきたのです。

 ターニャちゃんが人の世界で孤独を感じないように、ターニャちゃんと同じ能力を持つ人間を見つけては保護してきましたが、太古の昔のように人に肩入れするつもりはないのです。

 だから、今回精霊が加護を与える人間はごく少数に留まると思うし、たぶんターニャちゃんの存命中だけのことになると思います。

 この国の王族の皆さんには、ウンディーネ様がそう説明しているはずです。」



     **********



 話を聞き終えたヴィクトーリアさんが言った。


「先程、ミルト皇太子妃が、オストマルク王国が精霊の加護の下にあると言ったのは、精霊が人の世界に干渉しているということではないのですか?」


「この国が太古の精霊の教えを愚直に守ってきたので結果として精霊の加護があると言うことです。

 具体的には、この国の王族は王都の東に広がる精霊の森を長きに亘って守ってくれました。

 あの森は数多の精霊の棲家になっています。

 精霊は棲みよい場所を加護の下に置き守ろうとします。

 結果として王都ヴィーナヴァルト周辺は清浄なマナで溢れ、これにまた精霊が引き付けられ集まってきます。

 他にも、この国では、精霊が棲みやすいようにいたるところに広い森が残されています。

 この国に精霊の加護が与えられているのではなく、精霊が棲みやすい環境を整えているので結果的に精霊の加護が生じているのです。」


 ヴィクトーリアさんの問いにフェイさんはそう答えた。


「では、森をほとんど切り払い人の住む街の周辺に緑がほとんど残っていない帝国には精霊の加護はないということですか?」


 以前、ウンディーネお母さんが大陸の西部を精霊に見放された土地と言っていた。

わたしも行ってみたが、帝国ではほとんど精霊を見かけなかった。


「人のいない山の中なら帝国にも精霊の棲家はありますが、人里の周辺に精霊が住める場所はありませんでしたね。

 当然加護を与える精霊がいないのですから、精霊の加護はないですね。」



 ヴィクトーリアさんは誤解しているかもしれないけど精霊の加護のある土地の方が少ないんだよね。

 実際は、この国でも全ての土地に精霊の加護があるわけではないんだ。

 精霊の加護がつくような大きな森が国全体にうまい具合に点在しているので、国全体が加護で覆われる感じになっているみたいなんだよ。

 これは、ウンディーネおかあさんの入れ知恵かもしれない。



「では、もしかして、ティターニアちゃんが帝国で一生懸命木を植えていたのって精霊の棲める森を作るためだったのですか?」



「いえ、あのくらいの広さじゃ精霊はいつきません。

 あれは少しでも瘴気を浄化して、清浄なマナを増やせるようにと思ってしただけです。

 あれが何十年、何百年もかけて広い森になれば精霊の棲家になるかもしれませんがすぐには無理です。」


 わたしの返答を聞いたヴィクトーリアさんは少し残念そうだった。

 テーテュスさんも心配していたし、帝国の瘴気は早いうちにどうにかしないといけないのだと思う。

 でも、おかあさん達は瘴気の森の浄化で手一杯みたいだし、どうしたら良いんだろう?

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