第7話 汚物は浄化よ
ミーナちゃんを仲間に加えた翌日、わたしたちは王都に向けて出発した。
ノイエシュタットから王都までは馬車で一ヶ月かかるんだって、この魔導車ではどのくらいって聞いたら頑張れば三日あれば着くって。
ドンだけ速いんだ魔導車。
でも、でこぼこ道をそんなスピードで走ると流石に揺れがひどいので、快適な速度で走ると大体六日くらいだって。
「ターニャちゃん、昨日私の怪我を治してくれたとき、私にも出来るようになるっていったよね。
あれ、どういうこと?」
そうだ、あれから精霊さんのことについて詳しい説明をしてなかったよ。
「ごめんね、もっと早く説明すればよかった。
あれはね、精霊さんの力を借りてしたんだよ。
どんなことができるかは、精霊さんが教えてくれるから、精霊さんの言葉によく耳を傾けてみて。」
「え、精霊さんとお話ができるの?」
「うん、ミーナちゃんが今見えている精霊さんとはお話できるよ。
むしろ、精霊さんの方が話したがっているよ、よく精霊さんの声を意識してみて。」
「あっ、聞こえた!聞こえたよ!!遊んでって言ってる。」
もう話せるようになったんだ。良かったね。
「じゃあ、昨日の『癒しの水』だけど、ミーナちゃんの周りにいる精霊さんの中に水の精霊さんがいるんだ。
その子にミーナちゃんのマナをほんの少し分けてあげて、それで『癒しの水』を使って頂戴ってお願いすればいいの。」
「マナ?」
あっ、そうか、わたしは物心ついたときから、おかあさんにマナについて教わってきたけどミーナちゃんは知らないんだ。
「ミーナちゃん、手を貸して、今からミーナちゃんにわたしのマナを送るから感じ取って。」
わたしはミーナちゃんの手をとって、自分に中のマナをミーナちゃんに送り込む。
「何かもぞもぞしてくすぐったい。」
「それがわたしのマナだよ。ミーナちゃんの体の中に、わたしのマナとは別に、同じようなものがあるのわからない。」
わたしは、送り込むマナを少しずつ減らしながらミーナちゃんに尋ねた。
「あっ、これかな?なんかある。」
「じゃあ、それを指先のほうに集めてみて、指先から搾り出す感じで。」
ミーナちゃんは、最初マナを集めるのに苦戦していたが、しばらくするとコツを掴んだようで、指先からわずかなマナを放出することに成功した。
「凄いよ、ミーナちゃん!もうできたんだ。じゃあ、それを精霊さんに上げて、何かお願いをしてみよう。うーん、怪我しているわけではないから『癒しの水』は意味ないから、そうだ車の中を明るくしてみよう。ミーナちゃん、光の精霊さんに車の中を明るくしてって頼んでみて。」
「わかった、やってみる。シャインちゃん、この中を明るくして。」
ミーナちゃんのお願いに呼応して、薄暗かった車内がぱっと明るくなった。
「凄い…、これ私がやったの?」
「そうだよ、上手にできたじゃない。
ミーナちゃんの周りには、光の精霊さん、水の精霊さん、風の精霊さん、火の精霊さん、土の精霊さん、緑の精霊さんがいるから、殆どなんでもできるよ。
火も出せるし、水も出せる、怪我も治せるね。
でも、覚えておいて、精霊さんは殺生が嫌いだから、他者を攻撃することはできないからね。」
「信じられない…。凄く嬉しいよ!別に人を傷つけるような力なんか要らないよ。」
「ところで、ミーナちゃん。精霊さんに名前付けたの?」
「うん、名前が欲しいって強請られたから、みんなに付けたの。」
こらおチビちゃん達、そんなに物欲しそうに見ないの。
やらないよ。チビちゃん達何人いると思っているの。名前考えるのも大変だけど、覚えられないよ。
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それからしばらく、わたしとミーナちゃんは、マナのこと、精霊のことについて色々お喋りして過ごしていた。
「お嬢様、前方に魔獣がいるようなんですが。」
突然ソールさんが言った。
「え、魔獣って瘴気の森にしかいないんじゃないの?」
「ええ、基本的にはそうなんですが、ときおり突然変異で発生することがあるんです。」
ちょうど良い機会だからミーナちゃんにも見てもらおう。
「ソールさん、その魔獣はわたしが対処してもいいかな?
ミーナちゃんにも見せたいから。」
「お嬢様がなさりたいというのであれば、お任せしますが。
狼の魔獣のようですが、お嬢様に対処できますか。」
「任せてよ、行こう、ミーナちゃん。」
わたしは、ミーナちゃんを連れて魔導車から降りた。
「ミーナちゃん、あれが魔獣だよ。
魔獣ってのは、瘴気を体に溜めすぎた獣が変化した姿なの。
体の中に魔晶石ができて、そこに蓄えられた瘴気で体が強化されたり、魔法が使えたりするの。」
「ターニャちゃん、大丈夫なの?」
「平気、魔獣への対処の仕方を見せるから良く見ていてね。」
(土の精霊さん、このマナを糧に、あの魔獣を拘束して)
わたしが土の精霊さんにお願いすると、魔獣の足元がいきなりぬかるみ魔獣の足が沈み込む、直後堅く固結し完全に魔獣の足を拘束した。
「 光のおチビちゃんいくよ!! 全力全開、浄化の光!!!」
わたしの体から、大量のマナが吸い取られる感触が伝わる。ああ、疲れる。
次の瞬間、魔獣がまばゆい光につつまれ、光が消え去るとそこに魔獣の姿はなかった。
わたしは、魔獣がいた場所に歩み寄ると、しゃがんで足元に落ちている石を拾い上げる。
まばゆく輝く透明な結晶体である。
「綺麗…、宝石ですか?」
「これは、かつて魔晶石であったもの。
魔獣には、魔晶石ができるって言ったでしょう。
魔晶石って瘴気が体内で濃縮されて固結したものなの。
魔晶石は黒っぽい濁った色なんだけど、魔晶石に含まれる穢れを浄化しちゃうとこうなるの。
これは、純粋なマナの結晶体なんだよ。
いろいろなエネルギー源に使えるけど、人に渡すとろくでもないことに使うから絶対に渡さないんだって。
ところで、魔獣の対処の仕方わかったかな?
光の精霊さんに頼んで浄化してもらうのだけど、結構マナを持って行かれるから気をつけて。」
「はい、わかりました。
でも、凄いですね浄化すると魔獣って消滅しちゃうんですね。」
そう、凄いの、でもそれだけに大量のマナを消費するんだよ。
もう疲れた、後は魔導車の中で寝ていよう。