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精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた  作者: アイイロモンペ
第5章 冬休み、南部地方への旅
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第77話 ポルト公爵領

 ミルトさんがシレッと自分の娘のように言うものだから、ハンナちゃんのことをポルト公爵に説明するのに時間を取ってしまった。


「なんじゃ、可愛い孫が増えたのかと思って喜んだのに…。」


 ポルト公爵が残念そうに呟くと、ミルトさんが言う。


「お父様、お望みであればハンナちゃんを娘にすることもできますのよ。」


 ミルトさん、まだ言いますか。ハンナちゃんはあげませんよ。


「ハンナちゃん、あの人達は放っておいてあっちでお菓子でも食べましょうか。」


「うん、ハンナ食べる!わーい、お菓子だー!」


 呆れた公爵夫人に連れられてハンナちゃんは先に行ってしまった。



     **********



 豪華な応接間に通されたわたし達はミルトさんからポルト公爵へ紹介された。


「これはこれは、帝国の皇后様、皇女様、遠路はるばるようこそお越しくださいました。

 私は、ポルト公爵を賜っておりますギューテ・オストマルクです。隣は妻のカリーナでございます。

 私達はお二人を心から歓迎いたしますので、どうぞごゆっくりご静養していってくだされ。」


 公爵はギューテさん、公爵夫人はカリーナさんっていうお名前なんだ。


「ヴィクトーリアと申します、歓迎いただき有り難うございます。

 なにぶんお忍びですので、あまりお気を使わないでくださいね。」


 ビクトーリアさんと挨拶を済ませたギューテさんは、今度はわたし達の方を見て言った。


「君達が、フローラの病気を治してくれたティターニアさんとミーナさんだね。

 孫の命を救ってくれて本当に有り難う、心から感謝している。

 娘から孫の容態を知らされたときは、仕事を放り出して王都へ帰ろうとさえ思っていたんだよ。

 ところが、病気が治った上に魔法まで使えるようになったと便りがあったので驚いたものだ。

 それが、まだ幼い二人の少女によってなされたと記されていたので信じ難いものがあったのだ。

 こうして、孫の元気な姿を見てやっと信じることができた、本当に有り難う。」


 そう言ってギューテさんは、深々と頭を下げた。

いや、幾ら内輪の席でも王族がそんな安易に頭を上げたらいかんでしょう、しかも小娘に。

ほら、ミーナちゃんが恐縮してしまって、どうしたら良いか分らないって顔になっているよ。



 そんなやり取りを済ませたわたし達は、今後の日程をギューテさんと打ち合わせした。

 最初の三日は旅の疲れを癒すため休息にあて、四日目から二日に一回の割合で治療活動を行うことにした。

 場所は、公爵邸の隣にある精霊神殿の前庭に臨時診療所を設けるんだって。

精霊神殿って王都以外にもあるんだって聞いたら、王族の直轄地には建立されているそうだ。

 精霊神殿の神官の多くはわたし達のような『色なし』で、働く場所が少ない『色なし』にとって貴重な仕事の受け皿になっているってミルトさんが言っていた。



 他の街では中央広場に臨時診療所を設けるのに珍しいなと思ったら、明日港を見に行けばわかると言われた。

 どういうことか聞いたら、ポルトは港を中心に大きくなった街で港に市が立つので、中央広場がないらしい。港街には中央広場がない街が結構あるらしい。


 市は港に面した大通りの道の端に立つため、診療所を設けるスペースが取れないということだ。

 どうせ精霊神殿の奉仕活動と銘打って行うので、精霊神殿の前庭を使えば良いとなったらしい。


 ポルト滞在期間は一応三十日くらいで、この間に何回かは近隣の街にも出掛けて治療活動をするつもりだとミルトさんは言っている。ミルトさんって本当に活動的だよね。



     **********


 

 その日の夕食は、ギューテさん、カリーナさんも一緒に取った。

 海の幸をふんだんに使った料理で、王都から来たわたし達は見たことない料理ばかりだった。


 生の魚が出てきたときは驚いたよ。マリネって言うんだって、白身魚、タコ、イカを薄く切って酢や香辛料で味付けして、オリーブオイルに漬けたんだって。

 生魚は食あたりが怖かったので思わず『浄化』してしまったよ、味はとっても美味しかった。

 タコやイカって魚じゃないのって尋ねたら、ギューテさんはニヤッて笑って、「明日市場で見てきなさい。」と言っていた。あの笑い方が気になる…。


 他に白身魚のムニエルとかも美味しかった。そうそう、学園の食堂で食べたパエリアもあったよ。



 食事の間、ギューテさんがいろいろなことを聞かせてくれた。


 王領と言ってもポルト公爵領ってポルトの町だけなんだって。

ポルト公爵領は、学園の同級生リーンハルト君のフライスィヒ伯爵家の領地にぐるっと囲まれているらしい。

 黄金色の稲穂が一面に続いていたあの土地は、リーンハルト君の家の領地だったようだ。

そういえば、地理の授業でそんな事を言っていたっけ。


 ポルト公爵の仕事は、交易の管理と密輸入の取り締まり、それと一番大事なのが海外から外交使節が来た場合の対応だそうだ。

 外交使節の対応のために王領として王族を一人配置しているんだって。


 ギューテさんは、引退した先代のポルト公爵を引き継いでから、一度も王都に帰っておらずミルトさんやフローラちゃんと会うのはほぼ八年ぶりだといっていた。

 フローラちゃんが生まれて間もなく、ポルトに赴任したらしい。

 ポルトが王都から四十シュタットも離れていて帰るのが大変なことも理由の一つだけど、ポルトに気候に慣れると王都の寒さはとても耐えられないとのこと。


 ちなみに、先代のポルト公爵は王様やギューテさんの叔父に当たる人で、まだ存命だけど隠居の場所としてこの街を選んだそうだ。街外れに館を構えているらしい。




「子供の頃、魔法が使えないため王立学園に入れなくてベソを掻いていたミルトが魔法で人々を癒して回っているなんて夢のようだ。」

 

 少しお酒の入ったギューテさんが、しみじみと呟いていた。

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