第6話 王都に向けて出発!!
ソールさんの思惑通り、ミーナちゃんがお友達になってくれた。
わたしも、初めての人間の友達ができて嬉しいよ。
ソールさんは、ミーナちゃんが王都の学園に入るために必要なものがあるから役場に行くと言う。
ミーナちゃんは一緒に行く必要があると言われたので、わたし達も付いていくことにした。
だって、ここにいても退屈だもん。
役場の大きな建物の中に入ると、カウンターで仕切られたこれまた広い部屋になっていた。
ソールさんは、住民課という看板がぶら下がっているカウンターの中にいる女の人に声をかけた。
「この子の親が亡くなったんだが相続手続きがされていないようなので、相談に来たのだが。」
彼女は、ミーナちゃんから、しばらく両親の名前や住所などを聞き取ったのち、こう回答した。
「ミーナさんの場合、ご両親の他に扶養してくださる人がいないようなので、ご両親の財産を国が処分して、そのお金で養育院に入っていただきます。
養育院は、いわゆる孤児院とは違い就業可能な年齢になるまで十分な教育を受けることができます。本人の頑張りにもよりますが、養育院を出るときには高等国民学校の卒業資格まで取得可能です。
この間の食費、学費その他の費用は、ご両親残した資産の売却代金を当て、残金があれば養育院を出るときにミーナさんにお返しします。
このようになりますが、よろしいでしょうか?」
「ミーナさんには、我々が後見人になって、王都のオストマルク王立学園に通ってもらう心算なのです。
ついては、財産の信託制度があるはずなのですが、ミーナさんに説明していただけますか。」
「そうですか、国の信託制度は、知っている人が少ないので利用する人はあまりないのですけど。
ミーナさんのご両親が残した土地、建物を国が預かって、国の責任においてこれを賃貸に回します。その賃料から維持費と国がいただく管理手数料を差し引いたものをミーナさんへお支払いするかたちになります。
他人に貸してしまうので、ミーナさんは住めなくなりますが、その分安定した収入が得られます。」
ミーナちゃんは、両親と一緒に暮らした家に住めなくなるのが悲しいみたいだったけど、わたしと一緒に王都へ行くと決めていたので、家を国に預けると決心しました。
「最後にもう一つ。ミーナさんの市民権証明書を発行してください。
オストマルク王立学園は市民権がないと入学できないので証明書の提出を要するのです。」
「はい、わかりました……。
あの、差し出がましいようですが、オストマルク王立学園は、入学審査に魔法があったはずでは?
ミーナさんが、入学するのは、難しいのではございませんか?」
この人は、ミーナちゃんの心配をしてくれたみたいだ。今まで会った他の人みたいに、ミーナちゃんを侮辱しているわけじゃないようだ。
確かに、ミーナちゃんの、色素の薄い金髪、やや透明感の強い碧眼、わずかに黄色味がある白い肌は、わたしと同じ『色なし』の特徴である。
ちなみに、色なしと差別されるのは、わたしやミーナちゃんみたいな魔法を全く使えない人間だ。
でも、ぱっと見には魔法が使えるかどうかはわからない。
だから、外見で差別されるのだが実際に境界は曖昧だ。
髪の毛の色でいえば、わたしのような銀髪はアウトは明瞭だが、金髪は微妙なようで『誰が見ても美しいと思うような濃い金色はセーフ、ミーナちゃんのような殆ど色素のない金髪はアウト、じゃあその間は?』ということになる。瞳や肌の色にいたってはもっと境界が微妙だ。
だから、多少なら魔法が使えるのに、『色なし』の忌子として迫害される子もいるらしい。酷いね。
そんなことを考えていたら、ソールさんから声をかけられた。
「お嬢様、こちらの女性の袖口がインクで汚れているようですが。」
ああ、わたしに精霊の力を使って汚れを落として見せろと言うのね。
(水のおチビちゃん、このマナを糧に汚れを落として、清めの水)
わたしは、彼女の前に出て、袖口を指差す。
一瞬彼女の袖口が水で覆われ、すぐに消え去った。
「えっ?洗浄魔法?こちらのお嬢さんが使ったのですか?」
「いかがですか。我々が指導すれば、ミーナさんだってこのくらいはすぐ出来るようになります。」
「はっ、差し出がましいことを申して失礼しました。市民権証明書ですね。すぐに用意します。」
**********
全ての手続きを終えてミーナちゃんの家へ戻ったソールさんは、ミーナちゃんに荷造りするように言った。
その際に、衣食住全てこちらで用意するので、思い出の品と大事なものだけ持っていくようにと言っていた。
ミーナちゃんは、お気に入りの服と両親に買ってもらったぬいぐるみの他、おかあさんがお気に入りだったという服とアクセサリーを鞄に詰め込んだ。
残していくものは役場が処分することになっている。本当に大事なものは持ったのだろうが、他の物もミーナちゃんにとってはかけがえのない両親との思い出の品なんだろう。
ここは、友達のため一肌脱ぎますか。
「クロノスお姉ちゃん!ちょっと助けてー!」
大きな声で呼びかけると、いつのまにかふわっとした雰囲気の美女がわたしを抱きしめている。
時空をつかさどる精霊クロノスお姉ちゃん、時間と空間に干渉できる凄い精霊さんなんだって。
でも、ちょっと変わっていて、『お姉ちゃん』と呼びかけないと応えてくれないうえに、ほかの精霊さんは頭で念じれば応えてくれるのに、クロノスお姉ちゃんは声に出さなければ応えてくれない。
大きな声で、お姉ちゃんと呼ばれるのが気持ち良いのだって。
「ターニャちゃんが呼んでくれるなんて嬉しいわ。私、何でも叶えてあげるわよ。」
「クロノスお姉ちゃん、この家の中にあるミーナちゃんとその両親の持ち物をわたしの家の空き部屋に運んで、お願い。」
といって、わたしは、抱きつくクロノスお姉ちゃんにマナを注ぎ込む。
クロノスお姉ちゃんたら遠慮することなくわたしのマナを吸い取った。つ、疲れる。
わずかな時間が経過した後、部屋の中に残されたのはゴミと薄汚れた男物の服だけだった。
「クロノスお姉ちゃん、有り難うございました。とっても助かったよ。
ミーナちゃん、この家にあったものは、わたしの家に預かったから心配しないでいいよ。」
「ターニャちゃん、有り難う。凄く嬉しい。
クロノスさんですか?本当に有り難うございました。」
「いいの、いいの、気にしないで。私はターニャちゃんに呼んでもらえて嬉しかったから。
久しぶりにターニャちゃんのマナも堪能したし。
じゃあ、また何かあったら遠慮なく呼んでね。」
**********
その後、わたし達は、ミーナちゃんの服を買いに行った。オストマルク王立学園は貴族やお金持ちが多いから、それなりに良い服装をしないといけないんだって。面倒くさいね。
最後に役場に行って、ミーナちゃんの家の鍵を担当のお姉さんに預けた。
ミーナちゃんは今晩からわたし達と一緒だよ。
今晩からは、ミーナちゃんと一緒にご飯が食べられるね。一人でご飯は寂しいもんね。
そして、明日はいよいよ王都に向けて出発だ!!
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