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第66話 学園祭④ 嬉しくない再会

 学園祭二日目、わたしとミーナちゃんはルーナちゃん達と一緒に屋台を巡る約束をしている。

 ラインさんが、昨日のお礼に屋台でご馳走してくれると言うのでお言葉に甘えることにしちゃった。


 講堂前広場の北部地区の屋台が集まる一角で、ルーナちゃん、ラインさんと合流する。


「おはようございます、ターニャちゃん。今日はラインさんとご一緒ですか?

そういえば、昨日はラインさんの出店をお手伝いしていたそうですね。

チューリップをその場で咲かせて販売していたと聞いていますわ。

昨日から、学園中がその噂で持ちきりですわよ。」


 北部地区のまとめ役の一人であるエルフリーデちゃんが、声を掛けてくれた。


「おはようございます、エルフリーデちゃん。

そうなんだ、昨日のお手伝いのご褒美で、今日はラインさんがご馳走してくれるって。」


「まあ、よろしいですわね。楽しんできてくださいね。」



 エルフリーデちゃんに見送られて、わたし達四人は他の地区の屋台が集まる方へ歩き出した。

わたし達が向かうのは、南部地区の生徒が出している屋台だ。

 北部地区同様に、南部地区の屋台が集まっている区画があるとのことだ。

 なんでも、地区ごとに有力な家の生徒が協力して学園祭に来たお客さんの気を引きそうな屋台を出すようにしているんだって。



 ラインさんの話では、毎年南部地区の屋台は貴重な香辛料を使った料理をだすので、一度食べてみる価値があるとのこと。


 北部地区の一角から見てほぼ広場の対角に南部地区の屋台が集まる場所があった。

そこに近付くにしたがって、食欲をそそるいい匂いが鼻をくすぐる。

たしかに、今まで嗅いだことにない匂いだ、これが香辛料の香りなんだね。



 ラインさんのお勧めは、鶏肉を壷釜の中で焼いた料理らしい。

その屋台を見ると、でっかい壷が置いてあり、その壷の中に長い鉄串に刺した鶏肉を入れている。

 壷の底に火のついた炭が入れてあり、その炭の熱で焼くらしいよ。

 同じく壷釜の内側に貼り付けて焼いた薄いパンと一緒に食べるらしい。


 ラインさんが屋台の生徒に四つ頼むと、よく焼けた鶏肉を鉄串から外して薄焼きのパンに挟んで渡してくれた。


 ラインさんは、飲む物がないと食べ難いだろうと一緒にラクという飲み物も買ってくれた。


 テーブル席を取って早速食べてみる。

 一口齧ると香辛料の香りとピリッとした辛さが口の中に広がる。

辛いといっても、そんなに酷い辛さではなく味覚のアクセントになるような程よい辛さだ。


 なんでも、この鶏肉は塩や香辛料を入れたラクの中に漬け込んでから焼いた物で、香辛料の辛さとラクの酸味が程よい加減になっているそうだ。


 結構ボリュームがあり、これ一つでだいぶお腹がたまってしまった。


 次の料理は少しお腹を空かせてからにしようということで、バザーを見て回ることにした。



     ***********



 バザー会場となっている中等部前の広場に向かって歩いていると、なにやら不愉快な声を掛けられた。


「ああああ!そこの『色なし』、おまえ、あの時、俺に何をした!」


 

 同じくらいの年齢にみえる男の子がわたしを指差してなにやら叫んでいる。

 誰だ、こいつ?どこかで見た覚えがあるんだけど。


「若様、はしたないですよ、公衆の面前でそのような大きな声を出されて。」


 侍女が男の子をたしなめている。この侍女さんははっきり覚えているよ。

できの悪い若様に容赦なく暴言を吐いていた毒舌の侍女さん。

 そうそう、初めて王都に来たとき途中で野盗から助けた貴族の主従だよ。


「ああ、思い出した。

たしか、そう、アロマオイル家の『少々頭が足りない若様』だ。」


「何がアロマオイル家だ、アロガンツ家だよ!アロしかあっていないじゃないか!」


 『少々頭が足りない若様』の部分は否定しないんだ、自覚があるのかな?


「それで、アロガンツ家の若様がわたしに何か御用ですか?」


「おまえ、あの時俺になんかやっただろう?

そのせいで、魔法がうまく使えなくなって、この学園の入学試験に落ちてしまったじゃないか。」


こいつも受験生だったのか。同級生にならなくてよかった、落ちてくれて有り難う。


「え、私が何かやりましたか?

わたしの従者が、野盗に捕らわれて薄汚れていた皆さんを浄化魔法で綺麗にしただけではありませんか。

ねえ、侍女さん、何か体に不具合などありましたか?」


わたしは、あの時は何もやっていないよ。

ソールさんが少し強めにこの子を浄化しただけ。


「いえ、私はあの時サッパリして気分が良かっただけです。

何処も、不具合なんてありませんでした。

あの時は本当に有り難うございました。」


「ほら、侍女さんはこう言っていますよ。」


「うぬぬぬ…、だが確かに俺はあれから魔法がうまく使えなくなったんだ。」


「若様、若様が学園の入学試験に落ちたのは、若様の能力が不足していたせいです。

人のせいにするのはやめた方が良いですよ、見苦しい。

 だいたい、若様は勉強が嫌いで、努力が嫌いで、そんなんで受かるわけないでしょう?

 それに、若様は魔法が使えなくなった訳ではないじゃないですか。

 王立学園の魔法実技は魔法を巧みに操れば大した魔力がなくても合格できる試験だそうですよ。

 なにをやるにも力任せで魔力の制御を疎かにしてたツケが回ってきただけでしょう。」



 相変わらず容赦ないな、この侍女さん。



「だがな、俺は、この『色なし』に会ってから自慢の黒髪と黒い瞳の色が茶色っぽくなってしまったんだぞ。肌の色も心持ち薄くなった気がするし。」


「確かに、若様の色が少し薄くなったことは否定しませんが、そんな事をこのお嬢さんができると?

そんな魔法があるとは聞いたことがございませんし、こんな小さな子がそんな奇跡みたいなことをできると思いますか?」


「うぬぬぬ…。」



 実際にはどうにかできるんだけど、そんな事を正直に言うこともないしね。黙っていよう。

 アロガンツ家の若様は侍女のお小言に何も言い返せないようだし。



     **********



 結局アロガンツ家の若様は、侍女に引き摺られるように立ち去っていった。


「あれ、何だったのかしら?」


 事情を知らないラインさんが首をかしげている。


「ああ、気にしないで。

虫の居所が悪くて誰かに八つ当たりしたかっただけみたいだから。」


 ラインさんは興味がなかったようで、それ以上は追求してこなかったよ。


 その後は何事もなく、屋台やバザーと見て楽しんだ。


 そうそう、野菜とお肉をたくさんの香辛料で煮込んだ料理が美味しかったよ。

ライスの上にかけて食べたんだ。

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