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第64話 学園祭② 閑古鳥の鳴くお店

 白身魚の揚げ物を堪能したあと、もう一つの目玉だという焼き蟹も食べることにした。

だって、ここでしか食べられないんだよ。食べるっきゃないでしょう。


 この屋台は、生の蟹を金網の上に乗せて炭火で焼いて売っている。

蟹の他にも大きな貝柱を貝殻を皿にして一緒に焼いていた。


 味付けにはイシリと呼ばれるイカに塩を加えて醗酵させた北部独特の調味料を使っているらしい。

イシリが焦げると香ばしい良い香りがする。思わず屋台に吸い寄せられちゃった。


 

 焼き蟹は一つ大銅貨五枚で、足が一本又は胴体の半分のどちらかを選べるとのこと。

胴体半分の方が食べる場所は多いけど野外では食べ難いため足の方が人気だそうだ。

 焼き貝柱も一つ大銅貨五枚とのこと、結構良い値段するような気がするけどこれでも破格の安さなんだって。


 わたしもミーナちゃんも、蟹足を一本と貝柱を一つ買って広場に設置されたテーブルセットに座って食べた。


「蟹って初めて食べましたけど、甘味があって美味しいですね。

イシリっていう調味料の味が蟹の身の旨みを引き立てています。」


ミーナちゃんも焼き蟹がすごく気に入ったようだね。

わたしも焼き蟹を一口齧る。

うん、ミーナちゃんの言う通り凄く美味しいや。


 続いて大きな貝殻の上に載った貝柱をほお張る、プリップリの弾力がある食感が面白い。

そして、強い甘みと旨みが口の中いっぱいに広がった。


「ミーナちゃん、貝柱も美味しいよ。

プリップリの食感が面白い、今まで食べたことのない食感だよ。」


「あ、本当に弾力性のある貝柱ですね、味も凄く美味しい。」



 まだ早い時間なのにだいぶお腹いっぱいになってしまった。

食べてばかりじゃ体に悪いので今度はバザーを見て回ることにした。



     **********



 中等部の校舎前の広場、こっちへ来たのは初めてだ。

中央の広場からここへ来るまでの道の両側にも屋台や出店があってそれなりに賑っている。


 さて、このバザーの広場、屋台のような物の上に商品を並べたしっかりした出店もあれば、地べたに直接敷き物を敷いて商品を並べている者もいて結構カオスな状態になっている。


 それでも、かなりのお客さんがいてみんなそれなりに繁盛しているみたいだね。



 そんな中で、閑古鳥が鳴いているお店があった。

お客さんが一人もいない出店の向こう側に見知った顔がある。


「ルーナちゃん、何やっているの?

たしか、初等部の生徒はバザーには参加していなかったと記憶しているけど。」


「従姉妹がやっているお店の店番だよ!

お客さんが誰も来ないから屋台で何か食べ物でも買って来るって言って、いなくなっちゃた。」




 ここは、ルーナちゃんの隣の領地でルーナちゃんのお母さんの実家でもあるブルーメン子爵家の出店だとのこと。

 学園祭の屋台や出店は、貴族の子女がお金を出して平民の生徒がお店を運営することが多いらしい、平民をこき使うわけではなく実際問題として貴族の子女は料理ができない子がほとんどだという事情によるそうだ。

 出店でも、貴族の子女では接客が難しそうなのでやっぱり運営は平民の生徒がやることが多いようだ。

 ある意味適材適所なのかな?



 で、この屋台は、ブルーメン子爵家の名産品である花の球根を売っているらしい。

 ルーナちゃんの実家であるアルムート男爵領と並んでこの国の最北に位置するブルーメン子爵領は小麦の栽培に適さないため花卉栽培に力を入れているとのことだ。

 北部では切り花の一大産地で、エルフリーデちゃんの領地へたくさんの切り花を出荷しているらしい。


 

 ただ、切り花を王都まで運ぶのは無理だ、ということで球根を販売することにしたそうだ。

実際、この屋台で売っている球根は、普通のお店で買うのに比べて破格の安さだそうだ。

 あくまで、ブルーメン領の特産品を王都で知ってもらうために、赤字価格で売っているんだって。

チャリティーだからできることだって言っている。


 だけど、お店が地味なんだよね。

だって、球根が並べてあるだけでどんな花が咲くかわからないんだもん。

これが、鉢植えで花が咲いていれば買っていく人も多いのだろうけど。

 季節は秋、ここにある球根は花期は春から夏のモノらしい。

花なんか望むべくもない。

ここにあるチューリップなんかは、今が植え付け時なんだって。


 そういう訳で、地味なお店になることが最初からわかっていた。

 そのため、北部出身の平民の生徒はみんな屋台の方の運営に行ってしまい誰も手伝ってくれなかった。

 ブルーメン領から来ている平民の生徒が一人もいないため、無理に頼むことはできなかったようだ。

 しかたなく、子爵令嬢自らお店を出したが、案の定、閑古鳥が鳴いてしまったとのこと。

暇を持て余した子爵令嬢は従姉妹のルーナちゃんに留守番を押し付けて買い物に行ってしまったそうだ。



 しばらくルーナちゃんとお喋りをしていると、ルーナちゃんの従姉妹が両手に食べ物を抱えて帰って来た。


 ルーナちゃんがわたしとミーナちゃんを紹介してくれた。

 ルーナちゃんの従姉妹の名前はラインさん、中等部の三年生で十四歳だそうだ。



「ハァ…、困りましたわ。

 せっかくお父様にお願いして、貴重な球根を大量に送ってもらったのに一つも売れなかったと言うのは申し訳ないですわ。

 それに、今年の学園祭、ブルーメン領からは孤児院への寄付が無いことになってしまいます。

せめて、お花の一つでもあれば、お店が華やぐのですが……。」


 焼き蟹の足を齧りながらラインさんがため息混じりに呟いた。

その姿は少しヤサグレていて、とても貴族の子女の仕草には見えなかった。



 えっ?

 それは、わたしに対する振りですか?

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