第61話 クラーラちゃんと昼食を
お昼休み、今日はクラーラちゃんと初等部の食堂に来ている、もちろんミーナちゃんも一緒だ。
全寮制の王立学園では、朝晩は寮の食堂で、昼食は学園内の食堂でとるんだ。
もちろん昼食代も入学時に一括して支払った学費に含まれており、食事を取るときに代金を支払う必要はないよ。
さすが貴族が通う学園の食堂だけあって、サロンルームへのお届けもしてくれる。
凄いサービスだとは思うけど、少し冷めてしまうのが残念なんだ。
エルフリーデちゃんのグループと一緒にお昼を食べるときはたいていサロンへ配達をお願いしている。
昼食はセットメニューのみで、メイン料理とスープ、サラダ、パン、デザート、ドリンクがセットになっていて、メインは日替わりで三種類くらいの中から選べるから飽きることがないんだよ。
今日、クラーラちゃんと食堂にやってきたのは、さっきの授業で聞いたライスという穀物を使った料理を食べるためなんだ。
食堂でメニューを良く見るといつも頼んでいる日替わりセットの下に南国セットというセットが書いてある。
クラーラちゃんの話では、南国セットは注文する人が少ないので日替りで一種類しかないそうだ。
なになに、今日の南国セットは、海鮮パエリアとスープ、デザート、ドリンクか。
海鮮パエリアってどんな料理か知らないが、ライスの料理らしいからこれにしよう。
三人全員が南国セットを注文したら、注文があまりないため作り置きはしてないので半時ほど待つと言われた。
全然構わないよ。なんといってもお貴族様の行動にあわせて時間割が組まれているのでお昼休みが二時間もある。半時くらい余裕で待てるよ。
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「そういえば、夏休み中、皇太子妃やフローラ姫と一緒に地方に行って治療活動していたでしょう。
巷では、ちっちゃな三人の聖女って評判になっていますよ。
そうそう、可愛い聖女見習いって子の噂もありましたわ。」
「聖女なんて言われたら恥ずかしいです。
それに、私達が一緒だったのは帰り道の十日間だけです。
でも、まだこの十日ほどのことなのにもうクラーラちゃんの耳に入ってるんですか。」
ミーナちゃんは、フローラちゃんの前ではあまり喋らないのに、クラーラちゃんとはちゃんと話すんだ。やっぱり、王女さんと話すのはまだ緊張するのかな。
「それは、家は商人ですから彼方此方からお客様がいらして茶飲み話に色々聞かせてくれるのですよ。
このところ、西部地区からのお客さんの話題はもっぱら皇太子妃様と小さな三人の聖女の話で持ちきりですよ。
特に、フローラ姫はわかるけど、他の二人は何者かって凄い噂になっていますよ。」
たしかに、王族と親しげに話をしながら、一緒に治療活動をしている子供をみたら何者だろうかという関心はもたれるよね
まあ、だからと言ってどうこうする訳ではないのだけど。
「ところで、帰りの十日だけ一緒だったって、夏休みの他の期間は何をしていたのですか?」
「怪我人や病人を治して、荒地を開墾して、魔獣を倒していた。」
「ターニャちゃん、それじゃ何のことかわからないよ。」
珍しくミーナちゃんに突っ込まれた。でも、夏休み中ってこれしかしてないよね。
ミーナちゃんが、帝国へ行ったことをクラーラちゃんに説明してくれた。
「えー、夏休み中に帝国まで行って帰って来たんですか?
しかも、三十日くらいで?
ターニャちゃんが使っている魔導車って本当に凄い性能なんですね。」
今のミーナちゃんの話で喰い付くところってそこなの?
皇帝の怒りをかったこととか、魔獣を退治したこととか結構ショッキングな話をしたよね。
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そんな話をしていると結構すぐに時間は過ぎて待望の南国セットが運ばれてきた。
パエリアというのは、エビ、貝、魚の切り身などの海鮮とタマネギなどの野菜をライスと一緒に炊き込んだモノらしい。
味付けに使われたニンニクの香りと魚介の香りが相俟って、食欲をそそる良い匂いとなっている。
口に含むと魚介の旨みと野菜の甘味が口いっぱいに広がった。
ライスという穀物が魚介や野菜から出た旨みを吸って溜め込んでいるらしい。
所々にできたライスのおこげが香ばしくって良いアクセントになっている。
クラーラちゃんの話では、ライスというのは小麦みたいに粉にしてパンに加工する物ではなく、こんな風にそのまま料理するのが普通らしい。
何も味付けしないで炊いただけの物をおかずと一緒に食べたり、炒めて味付けしたりしても美味しいらしい。
精霊の森では、果物以外は殆ど味のしない物を食べていたので、わたしには何を食べても美味しく感じるけどパエリアは本当に美味しかった。
「ライスって初めて食べたけど美味しいですね。
それに、このパエリアって料理、繊細な味なのに見た目が素朴な感じでお貴族様の料理のような気取った雰囲気がないのがいいです。
このエビとか手で掴んで食べるしかないですものね。」
ミーナちゃんには、味以上に気取らない雰囲気が良かったみたいだ。
スープは音を立てて飲んだらいけないとかフォークとナイフを音を立てずにうまく使って食べろとかいうのは庶民育ちのミーナちゃんには気疲れするモノなのかも知れないね。
わたしは、人の世界のマナーなんて知らなかったから、貴族のマナーでもこういうモノなんだって受け入れているよ。
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食事が終わって、セットメニューについてきた南国フルーツのミックスジュースを飲んでいると、
「ところで、ターニャちゃん、ミーナちゃん、秋の学園祭って知っていますか?」
とクラーラちゃんが尋ねてきた。
当然、わたしもミーナちゃんも知らなかったのでクラーラちゃんが教えてくれた。
学園祭とは、字の如く学園をあげてお祭りをするモノで、本来は高等部の研究発表会から始まったモノらしい。
高等部の研究発表会を始めたものの地味で父兄すらろくに見に来なかったらしい。
そこで、生徒が屋台をやったり、バザーをやったりしたて見学者の呼び込みをしたことから、今のようなお祭りになったらしい。
今では、王都の秋の風物詩らしい。
とはいえ、わたし達初等部の子供には研究発表なんかできないし、屋台で料理なんかもできないのでどうするのか。
子供は元気なのが一番ということで、親元を離れて生活している子供の元気な姿を父兄に見せるため、初等部の生徒は運動会をするらしい。
「貴族の子女が走り回ったりしてはしたないって、父兄に顔を顰められるんじゃない?」
わたしが、素朴な疑問を口にすると、クラーラちゃんから否定の言葉が返ってきた。
むしろ、貴族の父兄の方が興奮気味に自分の子供を応援するとのこと。
毎年、貴族の使用人が朝早くから応援するのに良い場所を取るのに争っているとのことだ。
実は、運動会という行事は一般市民の通う国民学校の初等部でもあるそうだ。
やっぱり、子供の元気な姿を見られる行事は、父兄に人気があるんだね。
で、王立学園初等部ならではの種目を作ろうということで、普通ではない種目が色々とあるらしい。
「障害物競走?」
わたしは、種目名を聞いてそのままオウム返しに聞き返してしまった。
だって、障害物を乗り越えて早くゴールに着いた方が勝ちってヤツでしょう。
何が珍しいの?
「普通、障害物競走って何人かで走って、障害を乗り越えて一番最初にゴールした人が勝ちっていう競争ですよね。
この学園の障害物競走は、一対一のマッチレースで、一チーム二人で参加するの。」
「え、チーム対抗なの?」
「一人が走者で、一人が対戦相手のコース上に魔法で障害物を作って相手の妨害をするのよ。」
「障害物競走の障害物をその場で生徒が作るの?
直接相手を攻撃するわけじゃないんだよね。魔法による攻撃は法律で禁止なんだから。」
「そう、直接対戦相手を攻撃するのは反則で、あくまで障害物を作って妨害しなければならないの。
妨害担当の子には、すばやく効果的な障害物を作る魔法の技術が求められるの。
走者は、障害物を乗り越えてもいいし、魔法で障害物を壊してもいいの、とっさの機転が求められるの。
この学園らしいって、一番の人気種目なんだよ。」
この障害物競走、クラス対抗でトーナメントなんだって。
だから、毎回同じ障害物を作ると対策されて決勝まで進むのは難しいらしい。
妨害担当の子は、何通りも障害物作成の魔法を用意しておいて、手の内は少しずつ出すようにしないといけないらしい。
結構難しいね。
運動会の話をしていると午後の授業の予鈴が鳴った。
話を切り上げて三人で午後の授業に向かう廊下でクラーラちゃんが言った。
「そうそう、学園祭の締めくくりにパーティがあるらしいから、パーティドレスが必要なんだって。
そろそろ用意しないと間に合わないわよ。」
な、なんだって…。
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