第58話 買い物
帝国への旅を無事に終えたわたし達は、王宮でミルトさん、ヴィクトーリアさん親子と別れて学園の寮に帰って来た。
ミルトさんから王宮へ泊まっていけと言われたが丁重にお断りした。
何で近くに部屋があるのに王宮なんて息が詰まりそうなところに泊まる必要があるの。
ちゃっかり、フローラちゃんも一緒に寮に帰ってきてしまった。
フローラちゃんは、「王宮にいたらお母様に色々とつきあわさせるのでサッサと寮に帰りたかった。」と言っていた。
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翌朝、学園の事務に行き、ハンナちゃんの食事をわたし達生徒と一緒に取れるように頼み込んできた。もちろん、所定の食費は支払ったよ。
昨日の夕食と今朝の朝食は、寮の食堂の人にお願いしてハンナちゃんの分も作ってもらった。
夏休みは、今日を含めて残りあと四日だ。
結局、夏休みのほとんどを帝国への旅に費やしたことになる
帝都には三日しかいなかったのにね。
もっとも、うち十日間はこの国の中で病気や怪我の人を癒して回ってたんだけど。
今日最初にやらなくてはならないのは、ハンナちゃんの服を揃えることだね。
オストエンデの街で間に合わせに買った服しかないので、今回は不足が無いように一式揃えるつもりだ。
昨日のうちにフローラちゃんから王室御用達の仕立て屋の名前と場所を聞いておいたんだ。
フローラちゃんが服を作るときは仕立て屋さんの方から王宮に来るので、実際に行ったことはないらしいが場所は聞いていたそうだ。
中央広場から王宮へ向かって伸びる目抜き通り沿いの一等地にその仕立て屋はあった。
立派な店構えで、ミーナちゃんが気後れしていたが、わたしは気にせず店の扉をくぐった。
店内に足を運ぶとパリッとしたスーツを着た女性店員さんが応対に出てきた。
「いらっしゃいませ、お客様。今日は何をお求めでしょうか?」
付き添いにソールさんとフェイさんがいることもあって、店員さんは子供のわたし達にも丁寧だ。
わたしは、ハンナちゃんを店員さんの前へ出し、この子の服を下着から一式揃えて欲しいとお願いした。
「一式というのは、一枚ずつという意味ではなく代えの服も含めてという意味ですよね。
それと、普段着と外出着を両方ということですね。
あと、季節はどうしますか、今ですと夏物と秋物がご入用かと思いますが冬物はどうしますか。」
わたしは、とりあえず夏物と秋物を普段着、外出着とも不足が無いように作って欲しいと返答した。
「失礼ですけど、こちらがどのようなお店かご存知ですか?
どなたかの紹介状とかお持ちでないでしょうか?」
わたしの注文内容を聞いて、店員さんが尋ねてきた。
「いいえ、紹介状はもっていないです。
わたしは王都のお店を知らないので、フローラちゃんにどこか良いお店がないかと聞いたら、このお店が良いと言うので訪ねて来たのですが。」
「フローラちゃんというのは、どちらの方ですか?
当店のお客様でしょうか?」
何なのだろうか、このお店って紹介状がないと服を仕立ててもらえないのかな?
フローラちゃんは何も言っていなかったけど。
少しわたしが考えている間に、ハンナちゃんが言った。
「フローラちゃんは、お姫様!」
「えええ!
フローラちゃんというのは、フローラ殿下のことですか?」
店員さん、そんな大きな声を出したらはしたないよ。
そんなに大げさに驚かなくても…。
「はい、フローラ殿下からいつもこのお店に仕立てを頼んでいると聞きました。」
「そうでしたか、では当店が王室御用達の店だということはご存知だったのですね。
実は、先程のご要望の内容ですと、最低でも金貨五十枚にはなってしまいます。
使う生地によってはそれ以上になってしまいますが宜しいでしょうか?」
なるほど、お金の心配をしていたのか。
確かに、王室御用達の店と知らないで来て、いきなり金貨五十枚とかいわれたら困っちゃうよね。
「はい、大丈夫です。
もし、心配でしたら前金でお支払いすることもできますが。」
「いえ、服は仕立てる途中で変更があったりするので、幾らかの前金を入れていただいて、お渡しのときに清算とさせていただきます。」
その後、奥に通されハンナちゃんのサイズが隅から隅まで採寸された。
そして、たくさんのデザイン画を見せられて、欲しい服を決めていく。
さすが王室御用達のお店だけあって、子供服もバリエーション豊富だったよ。
冬服は、わたしとミーナちゃんの服もここで作ってみよう。
ハンナちゃんを挟んでわたしとミーナちゃんが両脇からデザイン画を覗き込む。
あれがいい、これがいいとやっているうちに結構な枚数になった。
素材は、ブラウスと夏物のワンピースはシルク、上着とスカートそれに秋物のワンピースは上質のウールにした。デザインは基本ハンナちゃんが気に入った物を選んだ。
普段着は多めに、外出着は程々にした。
結局、王族の服のようなゴテゴテとした装飾がない分多少安いようで、概算で金貨四十枚となり前金として金貨二十枚を置いてきた。
ソールさんがその場で金貨二十枚をカバンから取り出したときに、店員さんは少し驚いていた。
こういう店の支払いって普通はどうするのものだろうか、今度誰かに聞いてみよう。
仮縫いの段階で一旦体に合わせて確認するという。
またお店に来る必要があるのかと聞いたら、なんと学園の寮まで来てくれるそうだ。
学園に通う貴族の子女にも顧客がいるらしく、学園の寮にも結構出入りしているらしい。
冬服を注文したいときは、使いの者を出して呼びつけて欲しいと言われた。
どうやら、このお店で買い物をするときは、既に取引のある人の紹介状を貰ったうえで、紹介状を携えた使いを出して家まで来てもらうのが正解らしい。
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仕立て屋さんで結構時間を取ったため、お店を出たときにはお昼時を過ぎていた。
お昼に何を食べようかと話をしていたら、ミーナちゃんがせっかく外に出てきたのだから屋台の揚げ鳥が食べたいといった。
寮で出される貴族風の気取った食事ではなく庶民的なモノが食べたいとミーナちゃんが強く主張した。
寮のご飯も美味しいけど、そういうのもいいよね。
鳥料理はヴィーナヴァルトの名物だものね。
あのスパイシーな衣に包まれた揚げ鳥、表面がパリッとして中がジューシーで本当に美味しかった。
わたし達は、中央広場の屋台で揚げ鳥と揚げ芋を買って、中央広場にあるベンチに座ってお昼にした。
ミーナちゃんが揚げ鳥を一口かじって、相好を崩して言った。
「うん、美味しい。私はこの味が一番好きだな。
ターニャちゃんにお世話になっている身で申し訳ないけど、私はお貴族様のご飯よりこういうご飯の方があっているんだ。
どう、ハンナちゃん、美味しいでしょう?」
「うん、ハンナ、これも好き!すごく、おいしいよ!」
そうだね、ヴィーナヴァルトの揚げ鳥美味しいよね。
ハンナちゃんも気に入ったようで何よりだ。
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