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精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた  作者: アイイロモンペ
第3章 夏休み、帝国への旅
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第56話 怪我をした男の子

 フローラちゃんと合流して治療活動を始めてから五日が経った、わたし達はヴィーナヴァルトまであと五日の町まで来ている。


 今日も朝五時に起きてこの町までやって来た。

毎朝五時起きは厳しいよ、フローラちゃんがふらふらに疲れていたのがよく分ったよ。


「さあ、今日も頑張りましょう!」


 ミルト皇太子妃は今日も元気いっぱい、気勢を上げている。

この人見た目はか弱そうなのに体力あるな…。


「おー!」


 ハンナちゃんが、こぶしを上げてミルトさんに応えた。

 いや、ハンナちゃん、ミルトさんにあわせなくてもいいから…。


 ハンナちゃんのこういう仕草に大人の人達は心が癒されるそうで、ハンナちゃんはわたし達一行のマスコットのようになっていた。


 ヴィクトーリアさん親子には、領主館でお休みになるようにミルトさんから言ってあるみたいだけど、思うところあるのか合流後の初日から治療現場を見学している。



     **********



 いつものように男の患者さん用の天幕で治療をしていると、


「ごめん!!息子が大怪我をしたんだ順番を譲ってくれないか!」


子供を抱えた男の人が、あせった様子で大きな声をあげて天幕に飛び込んできた。



 怪我をしたのが子供ということで、列に並んでいた人も快く(かは分らないが?)順番を譲ってくれた。


「うわーん!とーちゃん痛てーよ!死じゃうよ!」


 わたしより少し年上に見える男の子が、父親の腕の中で泣いている。


見ると前腕が折れてあさっての方向を向いている。

それと、二の腕にも何かに引っ掛けたようなざっくりとした裂き傷がみられる。


 父親の話では、この子が木登りをしていた木から転落したらしい。

着地の仕方が悪かったようで前腕を折ったみたい。

幸いにして頭は打っていないらしい。

裂き傷は途中の枝に引っ掛けてできたようだ。



 折れ曲がった腕を元の位置に戻すのは、子供のわたしの力では無理だ。


「おじさん!私が添え木をしますから、おじさんはその子の腕を引っ張って元の位置に戻してください。」


わたしの指示に従い父親が力をこめて折れた腕の位置を修正する。


「ぎゃあ!!痛てーよ!!」


子供は悲鳴を上げるが、わたしはすかさず添え木をあてて腕の位置を固定する。


そして、水のおチビちゃん達にお願いして『癒し』を施す。


 水のおチビちゃん達の出番は続くよ、骨折が治ったら次は裂き傷だ。

裂き傷の中に異物があるといけないので水を出して傷口を洗い流してから『癒し』を施す。

最後は、念のため男の子が痛いという場所と頭に『癒し』を施しておく、打撲も痛むからね。


 ついでに、木から落ちたせいか凄く汚れていたので『浄化』もしておいたよ。



 怪我が全て治り、痛みも引いたので、やっと男の子が泣きやんだ。


「おまえ、凄いな!まだちっちゃいのに凄い魔法使いなんだ。

おまえ、『色なし』だろう、俺の周りの大人たちは『色なし』は魔法が使えないって言っていた。

何で『色なし』なのにおまえは魔法が使えるんだ?」


「『色なし』は、魔法を使えない人が多いのは確かだよ。

でもね、『色なし』のみんなが魔法を使えないわけじゃないんだ。

最初にこの国をつくった王様は『色なし』だったんだよ。

初代の王様は、怪我や病気を治すだけじゃなくて、日照りのときに雨まで降らせた大魔法使いだったんだよ。」


「そうなんだ、全然知らなかった。

 でも、とーちゃんは、人があたりまえに使えるはずの魔法が使えないのは『色なし』が神様に見捨てられたからだって言ったぞ。

 『色なし』は忌子で呪われているから、一緒に遊んじゃダメって、とーちゃんが言っていた。」



 わたしが、父親の方を見るとバツの悪い顔をしている。

結構王都の近くまで来ているんだけど、この辺りでもそういう人がいるんだ。

そういう考え方は、帝国に近い西の地方に多いと聞いてたんだけど。


「じゃあ、そういう間違った考えは直そうね。

 こうして、『色なし』でも魔法が使える人がいるのだから、忌子なんて言ったらダメだよ。

 もし君が『色なし』を差別する子だって事前に知っていたら、わたしは君を治してあげなかったかもしれないよ。

 そうしたら、君は一生手が不自由になったかもしれない。

 わたしは、『色なし』だからって虐められたこともないから君を治療してあげるけど、もし治癒術師が『色なし』だからという理由で君に虐められていた子だったら君を治してくれると思う?

 あとね、君の友達にだって、木登りができない子がいるでしょう。でも、木登りができないからって仲間はずれにはしないよね。

 それと同じで、『色なし』だって魔法が使えないという理由で仲間はずれにするのはおかしいと思わない?

 だから、これからは『色なし』の子が近所にいたら、仲間はずれにしないで親切にしてあげてね。

 『色なし』は魔法が使えない忌子だということは、嘘だとわかったんだからできるよね。

他の友達にも教えてあげてね。」



 わたしが、男の子をそう諭すと父親は益々バツの悪そうな顔になったしまった。


 しょうがないな、こういうことを言うのはわたしではなくミルトさんの役目なんだけどね。


「この国では、人の外見で差別をしたらいけないことになっています。

最近になって、帝国からの影響で『色なし』を差別する風潮が出てきています。

今回、女性用の天幕で治療している王族のお二人がこのような治療活動を始めたのはそのような風潮を払拭するためです。

王族のお二人も『色なし』なのですよ。

わたし達を見てもらえば分るように『色なし』が魔法を使えないというのは間違いです。

『色なし』の使う魔法は、誰もが使えるのではない代わりに普通の魔法より遥かにできることが多いのです。

しかも、大人になってから使えるようになることもあります。

現に、皇太子妃殿下は最近になって魔法が使えるようになりました。

もしかしたら、今あなた方が差別して虐げている『色なし』の子供の中に将来の大魔法使いがいるかもしれませんよ。

 ですから、これからは『色なし』だからといって不当に差別をするのはやめてもらいたいのです。

この国では、人を外見で差別することをはっきりと法律で禁じているのですよ。

 帝国のほうから入ってきた、『色なし』は神に見放された忌むべき存在だなんていう、妄言に惑わされないようにお願いします。」


 並んでいた患者さんから、パラパラと拍手が聞こえてきた。

分かってくれる人はいたようだ。


 まあ、実際は精霊が許さない限り、これ以上精霊の術を使える人は増えないのだけど。

 それでも、わたし達がこうして術を使って見せることで、近所に住む『色なし』も魔法が使えるようになるかもと思えば無下には扱えなくなるよね。

 

 それよりも、子供のわたしが偉そうなことを言ってしまって恥ずかしい…。

ミルトさんがここに居てくれれば良かったのに。

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