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精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた  作者: アイイロモンペ
第3章 夏休み、帝国への旅
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第52話 王女の夏休み

 学園に入って初めての夏休み、私は王宮で暇をもてあましていました。

 本当は、ターニャちゃん達に色々教えてもらおうと思っていたのですけど、ターニャちゃん達はアーデルハイト殿下の願いで帝国へ行ってしまいました。

 私も、王族なんて立場じゃなければ行ってみたかったのですけど、帝国。



 ターニャちゃんがいないから、精霊の術が上達しないかというとそんな事はありません。

 幸い私の傍にいてくれるルナさんに、精霊の術の使い方やコツを教えていただけるし、実際に練習を見てアドバイスもしていただけるので、術の練習は毎日欠かさず行っています。

 ルナさんの評価では、今なら結構大きな怪我も治せそうだし、雨ぐらい降らせそうだとのことです。

私も、結構上達したと実感しています。

 毎日の練習には、お母様も参加しておりルナさんが目を見張るくらい上達しています。

 ルナさんが言うには、お母様に協力してくれる精霊との相性が抜群に良いことに加え、少ないマナを効率的に使うことに長けているらしいです。



 私が、朝の練習を終えて自室で寛いでいると、お母様がやってきて唐突に言いました。


「フローラ、明日から遠方へ出かけます。今日中に用意しなさい。」


 寝耳に水でした。


「えっ、どこへ?」


 とっさのことに私の口からでた言葉はそれだけでした。



 お母様の話を聞くと、精霊神殿の前で行った治療活動は大変評判が良かったとのこと。

なので、私が夏休みの間に、王都以外でも王家と精霊神殿の評判を上げておこうと言うことらしいです。

 『黒の使途』を信仰する人が増えている西の地方へ、人々の治療を行う旅をするとお母様は言いました。

 どうやら、『黒の使途』に対する牽制が旅に目的の一つのようです。



 仮にも皇太子妃が王都を長い時間空けても大丈夫なのかと思いましたが、今まで公務の調整とかに時間を取っていたらしいです。

 結構前からお爺様やお父様と打ち合わせをしていたようで、今日やっと調整がついたのこと。

で、善は急げということで明日出発と、できれば私にも事前に教えて欲しかったのですが。



 王都から西へ向かう一番大きな街道沿いに活動するので、荷物は着替えぐらいで良いらしいです。

宿泊も食事も各町の領主館にお世話になるそうです。



     **********



 明け方七時、まだ眠い目をこすりながら、王都を出発します。

 え、朝七時でそんなに眠いのかですって。

王族が出かけるとなると仕度に時間が掛かるのです。

今日は五時に起こされてしまいました。



 今日は、街道沿いに二つ目の街で治療活動を行います。

ウンディーネ様から賜った新しい魔導車なら、二時間の距離です。

凄いですね、馬車なら二日かかる距離ですのに。

 その代わりと言っては何ですが、それだけの速度を出すためには街道が空いている時間に出ないといけないということで、早朝の出発となりました。



 今回の旅は、行きは街道沿いに王都から数えて偶数番目の町で治療活動をし、二十番目の町で折り返して、帰りは奇数番目の町で治療活動をする予定です。

 途中休日は二十番目の町で一日取るだけという強行軍になるようです。



 魔導車の中は空調が効いていて涼しい上に、殆ど揺れや騒音を感じないというのが救いです。

ソファーも柔らかくて、目的地まで優雅にお茶を飲んで寛げるなど夢のようです。

 これが馬車ですと、暑いし、揺れるし、お尻は痛くなるしで乗っているだけで疲れてしまい治療活動なんか絶対にできません。



 午前九時、今日の目的地に着くとまずは、この町の領主に挨拶です。

なんといっても、今日の宿と食事をお世話になるのですから、挨拶は大事です。


「ようこそいらっしゃいました。皇太子妃殿下、フローラ殿下、お立ち寄りいただき光栄の至りでございます。

 今回は、わが領民に治癒の施しを賜れるという慈悲に心から感謝申し上げます。」


 領主から歓迎の言葉をいただき、お母様が皇太子妃としての挨拶をします。

そして、一言付け足しました。



「民の治療のあと、もしご希望があれば、今日の宿泊のお礼に頭部の治療を施しますがいかがですか?」


 ああ、この領主、髪の毛に不自由してますね。


「王都で評判の髪の再生術ですか?

皇太子妃殿下のお慈悲を賜れるのならば是非お願いします。」


 あれ以来、お母様は王都の貴族の間で支持者を増やしています。

中高年の男性貴族にとって髪の悩みは深刻なようです。



     ***********



 領主の騎士団の人にも手伝ってもらい町の中央広場の一角に治療用の天幕を設置します。

天幕の準備が終わると、早お昼前です。


 お母様が、王族らしくない大きな声で街行く人たちに呼びかけます。


「精霊神殿の奉仕活動で治癒術を施します!

無償で行いますので、病気の方、怪我の方、お気軽にお立ち寄りください!」


 王都からついてきた近衛騎士は、神殿前の治療活動の時もお母様が呼びかけをしたので驚かなかったけど、領主の騎士の方々は吃驚していました。

 まあ、高貴な人は、大きな声を出さないとか民に直接声を掛けないとかが常識ですから。



 王都のときと同様に、最初は遠巻きにこちらを見るだけで誰も寄って来ません。

 最初はこんなモノなので、のんびり待ちましょうと構えていました。


 すると、子供同士で追いかけっこをしていたのか、広場で走り回っていた男の子の一人が勢いよく転びました。

 広場は石畳なので転ぶと痛いです、特に膝を打つと擦り剥いたりして酷く痛いです。

 案の定、男の子は膝を押さえて泣き出してしまいました。



 私が動き出すより早く、お母様が男の子に駆け寄りなにやら宥めていています。

そして、水を出して傷口を洗い流すと、癒しの術を用いて痕も残さず傷を治療しました。


 男の子は傷が治っていく様子に驚いていましたが、痛みが取れると


「おばさん、有り難う。もう痛くないよ。」


と言って立ち上がりました。そして、友達と一緒に走り去って行きました。



 以前、神殿前で行ったときと同じで、これが呼び水となって次々と患者さんが訪れるようになりました。


 今回は、怪我や病気の程度が軽い患者さんをお母様が担当し、程度の重い患者さんをルナさんの指導の下で私が担当しました。


 幸い、今回は瀕死の患者さんとか腕が取れかけた患者さんとかがいなかったので助かりました。


 患者さんが途切れたときには既に夕方になっていました。


 天幕の撤去は騎士さんたちに任せて、領主館に引き上げます。


 お母様は、領主さんの髪の毛の治療です。

王都でだいぶ経験を積んだので手馴れた様子で育毛を行っていました。

この町でもお母様は支持者を一人増やしたようです。



     **********



 二日目以降も、だいたい同じような感じで旅は進みました。


 どの町でも、病気や怪我をしても創世教の治癒術を受けるお金がない人が結構いるようで、私達の治療活動はきわめて盛況でした。


 そして、十日後、休みなく治療活動を行った私はへとへとに疲れていました。



「さあ、これで折り返しよ!

一日休んだら、気合を入れて頑張りましょう!」


 なんで、お母様はあんな元気なんでしょう?


 気勢を上げているお母様を見て、げんなりしている私に聞き覚えのある声が掛けられました。



「あれ、フローラちゃん、それにミルトおばさまも、こんなところで何しているの?」

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