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精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた  作者: アイイロモンペ
第3章 夏休み、帝国への旅
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第45話 ハンナちゃんの事情

 さて、ハンナちゃんを連れて行くことにしたけれど、服があちこち擦り切れていていかにもスラムの住人という感じだ。

 このままでは、宿泊しているホテルに入れてもらえないかもしれない。


 さっき声をかけてくれた露天商のおじさんに、どこか質の良い服を売っている店を知らないかと尋ねてみた。

 この町でも服は注文で作るため新品の服を手に入れるのは難しいようだ。

でも、おじさんによると街の北側にある貴族街の近くの古着屋には貴族の家から出された質の良い古着があるとのことだった。



 下町の市場から北側までは距離があるので、ソールさんに魔導車を回してもらった。

 裕福な人向けの古着屋だと、ハンナちゃんの格好では店に入れてもらえないかもしれない。

その時は、魔導車の中で着替えられるからね。



 大通りで魔導車に乗り込む、初めて乗る魔導車にハンナちゃんは大はしゃぎだ。

 教えてもらった古着屋に着いたが、やはりハンナちゃんを連れて入るのは歓迎されない感じの店構えだった。

 このため、ヴィーナヴァルトまでの旅の間にハンナちゃんが必要とする服を揃えるようにフェイさんに頼んだ。



 フェイさんが買ってきた服に着替えさせようと、目まで覆い隠すように深く被ったフードを外すと緩やかにウェーブする銀色の髪と透き通るような碧い瞳が露わになった。

 帝国では、精霊をほとんど見かけないため気付かなかったが、この子も『色なし』だったんだ。


 ミーナちゃんやフローラちゃんは、近くに精霊がいたから離れていても『色なし』だと気付いたけどハンナちゃんの近くにはいなかったから気付かなかった。

 手は薄汚れていて白い肌だと思わなかったよ。

治療するときに臭ったので『浄化』しておいたのだけど、手の汚れはよく取れなかったようだ。

 髪も大分痛んで艶がなくなっているし、ホテルに帰ったらお風呂に入れないとダメだね。



「お姉ちゃん?ハンナ、こんな綺麗な服着せてもらっていいの?」


 フリルのついた白いワンピースを着たハンナちゃんが、不安そうに聞いてきた。


「ハンナちゃんのために用意したのだから、遠慮せずに着てくださいね。」


 わたしは、 ハンナちゃんが安心できるようになるべく優しい声で答えるよう努めた。


「わーい!お姉ちゃん、ありがとう!!

ハンナ、こんな綺麗な服着たの初めて、お姫様みたい。」


 ハンナちゃんが溢れんばかりの笑顔で言った。

 うん、喜んでもらえたみたいで良かった。


「ソールさん、ハンナちゃんの前でおチビちゃんが姿を現すことを許可してもらえませんか?」


 ソールさんは頷くと、おチビちゃん達にハンナちゃんに姿を見せることとハンナちゃんを気に入れば力を貸してよいと許可を出した。


「お姉ちゃん、何か急にお姉ちゃんの側に小人さんがたくさん出てきたよ。

その子たち、なーに?」


 あ、やっぱり見えるんだ。


(おチビちゃん、ハンナちゃんの力になってくれる子はハンナちゃんの方に行って。)


 わたしは、おチビちゃん達にお願いする。

 帝国に入ってから瘴気が濃いせいで、おチビちゃん達がわたしから離れようとしないんだ。

わたしが体に纏わせている清浄なマナがお目当てらしい。

 ハンナちゃんも、清浄なマナを放出しているはずなのだが、周囲の瘴気が濃すぎてハンナちゃんの方に行きたがらなかったらしい。



 この魔導車の中は空気が浄化されているので大丈夫だろうと思ったら、二十体以上のおチビちゃん達がハンナちゃんの方へ行ってしまった。



「え、小人さんがハンナの方へ来たよ。

なあに、遊んでくれるの?」



 早速、おチビちゃんとたちと仲良くなれたらしい。

 精霊について詳しいことは、ホテルに帰ってから教えることにしよう。

早くお風呂に入れたいからね。



     ***********



 部屋に戻ると、ハイジさん母子と護衛のトワイエさんがリビングで寛いでいた。

わたし達が連れてきたハンナちゃんを見て、ヴィクトーリアさんが尋ねてきた。


「ティターニアさん、その子はどうしたんですの。見たところ『色なし』の子みたいですけど?」


「わたしも詳しいことはこれから聞くんですけど、お腹を空かせて倒れていたので保護したのです。」


「王国へ連れて行く心算ですか?」


「はい、ここにいても『色なし』では幸せになれそうもありませんから。」


「ティターニアさん達には返しきれない借りが出来てしまいますね。

本来は、帝国で何とかしなければならないことなのに。」


「気にされないでください。『色なし』のことは『色なし』同士で助け合うことが出来ますから。」


 何はともあれ、ハンナちゃんをお風呂に入れてから腰を落ち着けて話をすることにした。



 ハンナちゃんに聞いたところ今までお風呂に入ったことがないということなので、フェイさんに入浴の手伝いをしてもらうことにした。

 なんでも、今までは水かお湯で体を拭くだけだったらしい、もちろん石鹸なんか初めて見たといっていた。



 お風呂から上がったハンナちゃんの容姿は見違えるほど綺麗になっていた。

 ぼさぼさで所々絡んでいた髪は、よく洗った後、毛先を整え櫛でよく梳かしたところ緩くウェーブした艶のある銀髪だとわかった。

 垢がたまって薄汚れていた肌は、抜けるような白い肌であった。

 愛嬌のある丸い目の瞳は、澄んだ碧色をしており湯上りで仄かに紅潮した白い肌に映えている。



「まあ、可愛い!お名前は何というの?お歳はいくつ?」


 ヴィクト-リアさんが、喰い付き気味に尋ねた。


「ハンナ、五歳です。」


 ハンナちゃんは、ヴィクトーリアさんに少し怯えるようにフェイさんの陰に隠れて答えた。



 ハンナちゃんに聞いたところ、ハンナちゃんはオストエンデの近くの農村から出てきたらしい。

 五歳児の話なので、細かいところまではわからなかったが、凶作で農業が続けられなくなった両親は村を捨てて働きに出たそうだ。

 オストエンデよりも帝都に近い街まで行く予定で、乗合馬車を探しに行くからここで待っていなさいと言われて広場に置き去りにされたとのことだ。


 ヴィクトーリアさんは、仕事を探すうえで『色なし』の子を連れていると不利になるので置き去りにしたのではないかと言っている。

 帝国では、宿や食堂などでも『色なし』を連れていると門前払いする処もあるようで、職を探すときも同様だとのことだ。

 実際、ハンナちゃんはフードを深く被って目まで隠していたが、両親から人前でフードを取ったらいけないといわれていたそうだ。


 

 でも、わたし達って、帝国に来てから買い物したりホテルに泊まったりしているけど、一度も不愉快な思いしていないよね。


 その疑問を口にしたら、ソールさんが『色なし』だと客を差別するのは二流以下の店だと教えてくれた。

 高級店は、客の身形や立ち居振るまいを見てお金を持っていると思えば、客自身の外見では差別はしないとのこと。

 逆に下町の市場なんかでは、客の外見なんか気にしていられないらしい。



     ***********



 昨日は、ホテルのレストランで夕食を取ったが、今日はハンナちゃんが気兼ねなく食事できるように、部屋に運んでもらうことにした。


「こんなご馳走食べていいんですか?」


 料理を目の前にハンナちゃんは、上目遣いにこちらを窺って尋ねてきた。

今まで見たことのない種類と量の料理を見て、本当に食べてよいのか戸惑ったらしい。


「お腹いっぱい食べさせてあげるって約束したでしょう。

遠慮しなくていいから、好きなだけ食べなさい。」


 とわたしが言うと、一心不乱に食べ始めた。よっぽどお腹が空いていたのだろう。

 本当は、何日も食事をしていなかった子にこんな量の食事をさせたらいけないのだけど、『癒しの水』で胃腸も元気になっているので大丈夫だろう。

 お腹を空かせた子に粥を与えて、自分達だけ豪華な食事をするなんて虐めみたいなことはしたくないからね。



 ハンナちゃんを王国に連れて行くにあたり、気になることが一つあった。

両親に置き去りにされてから、しばらく面倒を見てくれた男の子に断らずに連れ出して良いのかと。


 ハンナちゃんに聞いたところ、その男の子は三日帰ってこなかったら、誰か他の人を頼れと常々言っていたらしい。

 スラムは治安が悪いので、それがスラムで子供が生きていく知恵なのだろうとヴィクトーリアさんが言っていた。


 その男の子が居なくなってもう五日以上経つらしい。

それで、食料が尽きて表通りまで出てきたそうだ。


 ハンナちゃんは、わたし達についてくるのに問題ないらしい。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「高級店は、(省略)客自身の外見では差別はしないとのこと。逆に下町の市場なんかでは、客の外見なんか気にしていられないらしい。」 逆じゃなくね?
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