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精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた  作者: アイイロモンペ
第3章 夏休み、帝国への旅
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第43話 帝国の魔法部隊

 わたし達は、皇帝の意味不明な怒りを買ってしまい逃げるように帝都を退散することとなった。

十五日もかけて来たのに、帝都での滞在はわずか三日だったよ。

しかも、何処も散策できなかったのが心残りだ。


「本当にごめんなさいね。

遠路はるばる私の治療に来てくれたのに、恩を仇で返す形になっちゃって。

実際に会って感じただろうけど、皇帝は頭がアレだから理屈が通じないのよ。

私は、半ば皇帝のお目付け役として嫁いできたのだけど、私の諫言なんか意に介さないの。

 ケントニスはまともな人間に育てたつもりだけど、ケントニスが引き継ぐまで帝国が持つか心配だわ。」


 皇后様-ヴィクトーリア様というお名前だそうだ-は、既に皇帝のことは見限っているようだ。

現皇帝は、今のザイヒト王子同様、幼少のときから言動に問題があったらしい。


 そのため、年回りの近い貴族の子女から、後ろ盾がしっかりしておりかつ皇帝を諌めるだけの胆力と知性があるものを皇帝の伴侶にと帝国の主だった貴族が働きかけたとのことだ。

 そして、不幸にも白羽の矢が立ったのが、ヴィクトーリア様だった。


 ヴィクトーリア様が嫁いできた頃は帝国一の才女と言われていたが、皇帝が耳を貸さないため自分は全く役に立たなかったと自嘲気味に言っていた。



 ヴィクトーリア様の愚痴を聞く間も魔導車は軽快に街道を走り抜けていく。


「しばらく、帝都から外へ出ていなかったら、本当に帝都の周辺って荒野になっちゃったのね。

私が嫁いできた頃は、この辺は一面の小麦畑だったのよ。」


「皇后様が嫁がれて来られたのは二十年くらい前のお話でございますよね?」


 ミーナちゃんが、何故そんな昔のことを引き合いに出すのかという意味合いで尋ねた。


「私は半ば内宮に軟禁される形で、嫁いできてから一度も帝都の外へ出たことがございませんの。

 私が、外へ出て帝国の実情を把握すると、色々と政治に口を挟むから嫌なんですって。

 その結果がこれとは、本当に情けない皇帝ですこと。

 ティターニアさん、この荒地で食糧生産は難しいかしら?」


「わたしは、まだ八歳ですので詳しい農業のことはわかりません。

ただ、このくらいの荒地なら、ジャガイモ、アマ芋、ソバくらいならまだいけると思います。

土が固く締まっているので人の手で耕すのは難しいでしょうが、土魔法と水魔法を使えば開墾はそう難しくないと思います。」


「兄上が、軍部の魔法部隊を使って帝都周辺の耕作放棄地を再開墾しようと陛下に奏上してます。ですが、陛下は魔法部隊に農作業をさせるのが嫌なようで採り上げてもらえないのです。」


「そうですか、あんな役立たずの魔法部隊などサッサと解体して農作業でもさせた方が有意義なのにそんな事も分りませんか、あの人は。」


 魔法部隊は役立たずですか、ちゃんと運用できれば敵国にとっては脅威だと思うのだけど違うのかな?

 そんな話しをしているとき、わたし達は黒塗りに立派な馬車の一群を追い抜きに掛かった。


「噂をすれば、この馬車って魔法部隊の移動用の馬車よね。何処へ行くのかしら?

相変わらず黒塗りの車体に金箔で部隊の紋章を入れて偉そうな馬車よね。」


 馬車の一群をみたハイジさんが呟いた。


 うん?なんか馬車の窓からこちらを見て慌てているように見えるのだけど。

気のせいか?


 あ、魔法部隊の魔法使いらしき人が、窓を開けて魔法を撃とうとしている。

しかし、魔法使いが魔法を放つよりも、こちらの魔導車の方が圧倒的に早い。

魔法使いが魔法を放つ前に、わたし達は魔法部隊の馬車の一群を完全に置き去ってしまった。



     **********



「えーと、あの人たちは何をやりたかったのでしょうか?」


思わずわたしは聞いてしまった。


「あれが、父上の虎の子の魔法部隊です。

父上は、精鋭部隊と呼んでいますが、軍のお荷物部隊ですね。

本来は、もう少し先の人の少ない場所で、我われを待ち伏せて襲撃する計画だったのでしょう。

こちらの魔導車の性能を彼らは読み違えていたのだと思います。

まさか、こんなに早く遭遇するとは思っていなかったようで、慌ててこちらを攻撃しようとしたみたいですね。

 あれが、わたくしやお母様が、役立たずと言っている所以です。

不意を衝かれた時にとっさに攻撃することが出来ないのです。

さっきの場合、威力が小さくても素早く魔法を撃ち込んでこちらを足止めするべきだったのです。

でも、彼らは一発の威力を高めようとするから攻撃が間に合わなかったのです。」



 わたしやミーナちゃんは普段はやらないが、魔法使いは詠唱なるモノをする。


 威力に高い魔法を使うためにはこの詠唱時間が長くなるそうで、実際の戦場では魔法使いが詠唱している間の護衛に相当数の兵を充てならず、柔軟な用兵に支障をきたすこともあるようだ。

 しかも、魔法の射程が弓兵の矢の射程と変わらないため、大量の矢を射掛けられると魔法使いと護衛双方の損耗が大きくなるらしい。

 ハイジさんは、戦場で帝国の魔法使いを抑えるのは弓兵を揃えれば簡単だといっている。


 ただ、ハイジさんは、低威力の『火の玉』であれば弓よりも早く連射できるので、威力を抑えた『火の玉』で先制攻撃して弓兵を抑えてしまえば魔法使いを活かすことができるとも言っている。

 帝国の魔法部隊が役立たずなのは、そういう運用ができていないからなんだね。

 ハイジさんいわく、戦場では別に敵兵を殺さなくても、戦闘に参加できない程度に負傷させればよいのであって、低威力の『火の玉』だって戦闘不能になる火傷は負わすことができるはずとのこと。

 なのに、帝国の魔法部隊は一撃必殺の魔法を撃つように指導されているらしい。



 何でそんな事になったか?

 何でも、帝国の初代皇帝が、町一個を殲滅できるような魔法を使えたらしい。

 ハイジさんは戦略級魔法と呼んでいるが、それをもって初代皇帝は敵の軍勢を一撃で撃破して帝国の版図を拡げて行ったそうだ。


 初代皇帝への崇拝から、魔法使いは敵を殲滅するために威力の強い魔法を使うべしという偏った考えが軍の中枢の方針だそうだ。

 まあ、皇帝が率先してそれを推奨しているのだから仕方がないか。



 そうはいっても、大陸の西半分の統一を成し遂げた帝国の軍事力は最強である。

 それを支えているのは、騎兵、弓兵、歩兵からなる大陸最大の軍であり、その人海戦術で他国を圧倒したらしい。

 間違っても役立たずの魔法部隊ではないのだが、皇帝はそれを正しく認識しておらず軍部にも不満が燻ぶっているとハイジさんは言っていた。



 まあ、帝国軍の内部のことはどうでもいいよ。


 ともあれ、帝国の魔法部隊が間抜けなおかげでわたし達は襲撃を受けずに済んだ訳だ。


 魔導車は馬車の十倍くらいの速度で走っているので、あの魔法部隊はもう追いつけないよね。

*お詫び

 第40話を飛ばして投稿していることに気付きませんでした。

ご指摘いただき、本日第40話を割り込みで追加投稿し補正しました。

話の欠落に気付かず、本当に失礼しました。

今後この様なことが無いように注意します。

『第40話 皇帝の怒り』が新たに加わっているので読んでいただけたら幸いです。

 また、ご指摘いただいた方、本当に有り難うございます。

(10月10日AM7:00 記)


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