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精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた  作者: アイイロモンペ
第3章 夏休み、帝国への旅
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第41話 ケントニス皇太子と皇后の治療

「ハイジさん、あなたのお父さんは何なのですか。

いきなり、罪もない侍女の腕を刺すなんてありえないでしょうが。

挙句の果てに訳の分からない理由で怒り出して。

ハイジさんのお母さんに対する治療の許可も貰えないなんて信じられないです。」


 わたしは、帝国皇帝のあまりに理不尽な言動に怒りを抑えることが出来なかった。


「ターニャちゃん、そんな大きな声を出すと部屋の外に聞こえてしまいますよ。」


 ミーナちゃんが、慌ててわたしに声を落とすように言った。

しまった、怒りのあまり声が少し大きかったようだ、誰が聴いているか分らないから気を付けないと。



「せっかく帝国まで来て頂いたのに申し訳ありません。

あんなにお父様が意固地だとは思いませんでした。

しかし、お父様の許可のない者を、お母様の寝室に入れる訳にはいかず困りました。」


 向かいのソファーでハイジさんが肩を落としている。

どうしたものだろうか?



トントントン


 重苦しい雰囲気のリビングに、ドアノッカーの音が響く。

対応に出たソールさんから意外な人物の来訪を告げられた。


「ティターニアお嬢様、皇太子様がお越しになられていますがいかがいたしますか。」


「お通ししてください。」


 ソールさんの案内で、栗毛色の髪をした長身の青年が現れた。


「君達が、王国で一、二の治癒術師さんか。よく来てくれた、私は君達を歓迎するよ。」


ハイジさんに似た優しげな風貌をした青年は、わたし達に歓迎の言葉をかけてくれた。


「私は、この帝国の皇太子ケントニスだ。よろしく、小さな治癒術師さん。」


 気さくに声をかけてくれた皇太子に、わたしとミーナちゃんも挨拶と自己紹介を返した。



     **********



「アーデルハイト、おまえったら帰国早々父上の逆鱗に触れたそうではないか。

何があったか詳しく説明してはもらえないだろうか。」


 ケントニス皇太子の求めに応じてハイジさんは、これまでの経緯を詳細に説明している。


「ターニャちゃんと言ったかな、わが国の臣民を救ってくれたことに心から感謝する。

本来、我々帝室に連らなる者がせねばならぬことを行ってもらい申し訳なく思う。」


 ケントニス皇太子の謝辞には誠実さが感じられ、非常に好感が持てた。

なんで、親子、兄弟でここまで考え方が違うのだろうか。


「しかし、辺境に畑を作るとは、お二人は優秀な治癒術師というだけではなかったんだね。

実のところ、瘴気が濃過ぎて農耕が難しい瘴気の森周辺に村を作るのには私は反対なのだ。

今回のように近くの農村で凶作が起こると、農地を持たない村はすぐに飢餓状態になってしまう。

まさか辺境に畑を作ってしまうとは考えたこともなかったよ。」


「いえ、保存食だけでは不足なので即席で作った農地です。

今年の冬を乗り切るための収穫が見込める分の農地を作りましたが、数年で瘴気に汚染されるでしょう。

『浄化』の術が使える者がいなければ、辺境での農地の維持は難しいかと思います。」


「やはり、そうなのか。

君達が稼いでくれた数年の間に、食糧を増産する手立てを見出さないといけないのだね。」


 ケントニス皇太子は、わたしの言葉にちゃんと耳を傾けている。

子供だからと言って馬鹿にしないところが偉いと思う、普通出来ないよ。



     **********



「疑うわけではないけど、君達が母上の病気を治せるというのは信じて良いのかね。」


 確かに、八歳児が二人で来て病気を治しますと言っても、普通は疑うよね。


「患者さんを見せていただかないと確実なことはいえませんが、おそらく治療は可能かと思います。」


「実は、君達の話は王国にいる駐在員から早馬便で報告書を貰い、つい先日知ったんだ。

その報告書を読んだときには、正直なところ何かの間違いではないかと疑ったのだ。

 その数日後、今度はアーデルハイトから同じ内容の報告と共に母の治療に連れて来ると便りがあった。

 アーデルハイトが私に嘘を付く理由はないので、君達が凄腕の治癒術師というのは本当なのだろう。

 私に同行して、母上の寝室に立ち入ることを皇太子の名において許可する。

私の母上を助けてくれ、頼む。」


「はい、治療に全力を尽くすことを約束します。」



 わたしとミーナちゃんは、ケントニス皇太子に先導されて皇后の寝室へ向かう。

もちろん、ハイジさんも一緒だ。

 途中、ケントニス皇太子に向かって苦言を呈する人がいたが、全てケントニス皇太子が退けた。


そして、皇后の寝室に足を踏み入れた。

わたしもミーナちゃんも一瞬顔を背けてしまった。

寝室がものすごい瘴気に満たされている。


 気を取り直し、室内を冷静に観察すると、テーブル、椅子、ドレッサーから濃厚な瘴気が発散されていた。


「ミーナちゃん、この部屋全体を浄化します。手伝ってください。」


 わたしとミーナちゃんが二人揃って光のおチビちゃん達に、『浄化の光』を行使してもらう。


今までにないほどの光が室内を満たし、瘴気に澱んだ空気がどんどん浄化されていく。

しばらくして、光が収まると息苦しい感じはきれいに消えていた。


「今の光はなんだったんだ?」


「心なしか空気が澄んだ気がします。息苦しい感じがなくなりました。」


 皇太子とハイジさんが呟きを漏らした。


「ひどい瘴気でしたので部屋全体を浄化しました。

瘴気の原因は、テーブル、椅子、ドレッサーの三つですけど、これは何ですか?」


「これは、瘴気の森から切り出した木材で作った調度品だね。

父上が、この漆塗りのような黒い木材が美しいといって作らせたものだ。」


 瘴気の森の木材って初めて見たけど、これは酷い。

こんな酷い瘴気に当てられたら誰だって体を壊すよ。


「この調度品が皇后様の体調不良の原因かもしれません。

まずは、皇后様の容態を見させてください。」


 皇太子に先導されて皇后の横たわるベッドサイドに歩み寄る。

 あれ、少し変だ。


「ケントニス様、皇后様の呼吸が非常に安定していますが、いつもこのような感じですか?」


「いや、数時間前に様子を見に来たときはもっと苦しそうだった。

ここ数ヶ月、このように穏やかに眠る姿を見たことがない。」


 やはりそうか、さっき全力でこの部屋の瘴気を浄化したので、瘴気中毒の症状が緩和したんだね。


「皇太子様、皇后様の症状は瘴気中毒ですね。

先程の浄化で大分症状が緩和されたようです。

念のため、もう少し強く浄化したあと、体力回復の癒しの術を使います。

たぶん、それで完治すると思います。」


 わたしは、光のおチビちゃんにお願いして今度は皇后様を浄化してもらう。

それが終わったら、続いて水のおチビちゃんの出番だ。

 水のおチビちゃんの術が終わる頃には、皇后様の顔色が非常に良くなっていた。



「ああ、ケントニスではないですか。また、見舞いに来てくれたのですか。

心配かけて申し訳ないわね。

でも、今日はなんか気分がいいわ。

久し振りに起き上がれそうよ。」


 治療後間もなく皇后様が目を覚まして、上半身を起こした。


「母上、起き上がって大丈夫ですか?

今、こちらの治癒術師さんが施術したところなのですよ。」


「まあ、そうだったの。

どおりで、気分がよいと思ったわ。

有り難うね、可愛い治癒術師さん。」


 皇后様は、もう大丈夫そうだ。


「ティターニアさん、母上を治療してもらい大変感謝している。

アーデルハイト、ティターニアさんとミーナさんを連れて来てくれて有り難う。」


「ケントニス様、皇后様は瘴気中毒を患われ、一応完治しました。

直接の原因は、瘴気の森産の木材が発した濃厚な瘴気だと思いますが、帝都全体が瘴気が濃いため再び中毒に掛かる恐れがあります。

 何らかの対策が必要です。」


「具体的にはどうすれば良いのだろうか?」


 ケントニス皇太子の問いに、わたしは短期的な対策として瘴気の薄いところでの転地療養を勧めた。

 その間に、内宮から瘴気の森産の木材でできた物をすべて撤去すると共に、内宮の周りを森で囲うように植樹することを勧める。



「転地療養と言っても何処へ行けばよいのか?

瘴気の少ないところなど帝国では山岳地帯しか残っていないぞ。

帝室の離宮などないところばかりだ。」


「では、ヴィーナヴァルトでアーデルハイト様とご一緒に住まわれたらいかがですか?

学園の寮と言っても王族用の部屋でしょう、ご学友を伴っていなければ主寝室が一つ空いているはずですが。」


「たしかに、内宮の整備に数年を要するなら、わたくしが高等部を卒業するまでの三年間、ヴィーナヴァルトへ来るのも良いかもしれないですね。」


 わたしが出した案に、ハイジさんが乗り気になって、皇后様も興味を示した。

ケントニスさんは、皇后が他国へ行くのは如何なものかと思案している。


 ゆっくり考えてもらおう、何と言ってもあの皇帝を説得してもらわないといけないのだから。


読んでいただき有り難うございます。

ブクマしてくださった方、有り難うございました。

凄く嬉しいです。

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