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精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた  作者: アイイロモンペ
第3章 夏休み、帝国への旅
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第38話 瘴気の森

 ノイエシュタットを出てから三日が過ぎた。

わたし達は、既に瘴気の森の南回廊を走っていた。


「瘴気の森というのは、空気が澱んでいて気分が悪い場所だった気がするのですが、この中は全くそんな気がしませんのね。

 瘴気の森の中でこうして音楽を楽しみながらお茶が飲めるなんて夢のようですわ。」


 ハイジさんは、優雅にお茶を飲みながら寛いでいる。

昔、魔導王国で流行っていたとされる音楽は、管弦楽団により奏でられた穏やかな曲調のものでゆっくりお茶を飲む時の曲としてピッタリのものだった。


「しかし、本当に瘴気の森まで八日で来たのですね。驚くべき速さです。

この調子だと、今日中に国境を越えられそうですね。」


 トワイエさんが感心して言ったが、実際順調に来ている。

 瘴気の森に入ってから、今のところ魔獣と遭遇していない。

光のおチビちゃん達に近くに寄ってきた魔獣は全て浄化するように頼んであるからだ。

 これも旅が順調にいっている理由の一つになっている。


 瘴気の森を旅するキャラバンの旅程が狂う原因の一番大きなものが魔獣の襲撃だと聞いている。

 強力な魔獣は、撃退するのに護衛を相当数必要とするようで、一度襲撃にあうと撃退する時間に加えて、死傷した護衛の治療や埋葬などで時間を要することになるらしい。



 光のおチビちゃん達は結構な数の魔獣と遭遇しているらしく、瘴気の森に入ってから急激にマナが失われていく。

 それだけの数の魔獣と遭遇するおそれがあるなんて、キャラバンは相当なリスクをおって交易しているんだね。



 そうこうしている間に魔導車は国境を通過し、ほぼ予定通りの日程で帝国へ入る事が出来た。

 国境と言っても、そこには国境を示す石造りの標柱あるだけだ。

 魔獣の襲撃を受ける危険性や瘴気が人の体に及ぼす悪影響から両国共にここに役人は配置していない。


 国境を越えてしばらくすると日没を迎えたため、街道の両脇が少し広くなった場所で野営することにした。

 この街道沿いには、野営するキャラバンのため所々にこのように街道の両側に広場を設けているらしい。



「最初に野営をすると聞かされた時には姫様が居られるのにとんでもないと思いましたが、辺境の宿に宿泊するよりも快適なので安心しました。

 食事も野営とは思えないものを頂けますし、ベッドもその辺の高級ホテルに負けていません。

なによりも、真夏なのに涼しく眠れる事が有り難いです。

こんな魔導具はあることすら知りませんでした。

 ティターニア殿は、本当に良家のお嬢様なのですね。」


 トワイエさんが、鶏肉のローストに舌鼓を打ちながら言った。

 鶏肉のローストは、ノイエシュタットのホテルで下処理と味付けをしてもらったものを冷蔵庫に保管しておいたものだ。

 瘴気の濃い野外で食事をするのは避けたいが、車内で調理をするにはスペースの関係で魔導オーブンと卓上魔導加熱器くらいしか使えない。

 そのため、メインの肉料理はオーブンで焼くだけの状態で持ち込んだ、車内で最初から作るのは加熱器で作るスープくらいである。



 それでも、トワイエさんに言わせると野営というイメージからは外れる豪華な食事らしい。

まあ、メイン料理の下処理と味付けはノイエシュタットの最高級ホテルのものだから悪くはないと思うけどね。



「本当ですわね。

わたくしも、ターニャちゃんが堅焼きパンと干し肉を大量に購入したという話を聞いた時には、この旅の間は干し肉と堅焼きパンかと覚悟していましたわ。

本当に、今回の旅路はよい意味で予想が外れていますわ。」



 わたしが、大量の干し肉と堅焼きパンを買い集めたことは、ハイジさんの耳に入っていたんだ。

まあ、初等部の寮の玄関前に、堅焼きパンと干し肉を入れた木箱を積み上げたから噂になったかな。



 ちなみに、キャラバンが野営するときは護衛の人が夜警をするそうだ。

夜の間も光のおチビちゃん達に近寄る魔獣の浄化を頼んであるので、わたし達は夜警はなしだ。

 もっとも、ソールさんたちは眠る必要ないのだけどね。

そうは言っても、精霊さんでも休憩は必要だよ、主にマナの回復のため。



     **********



 朝、瘴気の森は薄墨色の霞がかかっていて、とうてい清々しい夜明けなどと言えるものではない。

今日は、何事もなければ瘴気の森を抜けてしまう予定だ。



 わたし達は、何事もなく魔導車を進め、間もなく瘴気の森を抜けるというところまで来た。

そのとき、突然、わたしの周りにいるおチビちゃん達がざわめきだした。

ミーナちゃんも気付いたようだ。


「ティターニアお嬢様、前方でキャラバンが大きな魔獣に襲われているようです。

護衛と魔獣が交戦中です。彼らを避けて進むことは出来そうにありません。」


 ソールさんが状況を教えてくれた。すんなりと瘴気の森を抜けることはできないらしい。

ソールさんが魔導車を停めたので、前方の窓ガラスから外を見る。


 うげっ…、そこには巨大な蛇がいた。

わたしは、足のない生き物と足がたくさんある生き物は苦手だよ。

 蛇とか、ムカデとか、ゲジゲジとか、想像するだけでも背筋がぞくぞくする。



「ティターニアお嬢様、キャラバンの護衛の方が劣勢のようですが、加勢いたしますか?」


「わたしが出ます。ミーナちゃん、わたし一人では手が足りないかもしれないので手伝って。」


「あ、はい、わかりました。」



 わたし達は、もう少しキャラバンに近づいたところで魔導車を降りた。



 わたしは、交戦中のキャラバンの護衛に聞こえるように、できる限り大きな声で叫んだ。



「わたしが、その蛇を眠らせます。護衛の方は、その隙に攻撃してください。

ミーナちゃんは怪我をしている護衛の人を治療してちょうだい。

(光のおチビちゃん達お願い、『安らぎの光』、全力でやっちゃって。)」


 次の瞬間、大きな蛇が柔らかい春の陽だまりのような光に包まれる。

蛇の動きがだんだん緩慢となり、終には蛇はその大きな体を大地に横たえた。


「スゲー!!『スリープ』ってこんな大きな魔獣に効くものなのか。」


「それより見ろよ、あの魔法使ったのあんな小さな女の子だぞ。」


「嘘だろう、『色なし』じゃねえか。」



 護衛の人たちの中でざわめきが起こった。いいから早く攻撃してよ。


「蛇が目を覚ます前に、早く止めを刺して。

寝ている今なら、攻撃するのは簡単でしょう。」


 わたしの檄に、護衛の人達が一斉に蛇に攻撃を開始した。

これでもう大丈夫だろう。


 わたしは、怪我人を治療するミーナちゃんのもとへ行き、治療を手伝うことにする。

幸いにして、亡くなった方はいないようだ。



     **********



「お嬢ちゃんのおかげで助かったぜ。危なくやられるところだったんだ。

お嬢ちゃん、凄い魔術師なんだな。

『色なし』が魔法を使えないって言うのは迷信だったんだ。知らなかったぜ。」


 どうやら無事に蛇は倒せたようで、護衛の一人がお礼を言いにやって来た。


「いえ、気にしないでください。

こちらも、先を急いでいるもので、障害となるモノはサッサと排除する必要があったのです。」


 すると、キャラバンの中から、身形のよい男性がやって来た。


「魔獣退治に加勢して頂くのみならず、怪我人の治療までしていただいて有り難うございます。

わたしは、このキャラバンの隊長をしておりますデニスと申します。

このお礼は、どのようにさせていただければよろしいでしょうか?」


「いえ、こちらの護衛に人にも言ったのですが、わたし達も先を急ぐためサッサと障害を排除する必要があったので、加勢しただけです。

礼には及びません。」


「いえ、私どもは商人です。商人は一方的に利益を得ることを良しとはしません。

なにせ、只より高いものは無いとも言いますしね。

何がしかのお礼はさせていただきます。」


「では、お言葉に甘えて二つほどお願いできますか?

 見れば、これから帝国へ行く様子、帝国ではわたし達のような外見の者に対する風当たりが強いと聞いています。

 帝国へ着いたなら、『色なし』に助けられた、『色なし』が魔法を使えないというのは嘘だと広めていただけませんか。

商人の情報網に乗れば、さぞかし広まることでしょう。

 それと、もしオストマルク王国へ行く機会があれば精霊神殿に行って教えに耳を傾けてください。

そこに、真理がありますので。」


「なんと、精霊神殿の関係者でいらっしゃいましたか。

私共が、あなた方に助けられたのは事実ですし、それを広めるのは吝かではございません。

しかし、そんな事でよろしいのですか。」


「ええ、もちろん。

商人の方が帝国内でその話しを広めていただくことで、わたし達のような『色なし』が少しでも肩身の狭い思いをしないで済むようになればと願いますので。」


「わかりました。なるべく広く話が拡散するようにいたしましょう。

それと、私も精霊神殿の教えとやらに興味が涌きました。

王国へ行ったときには必ず立ち寄るようにいたします。」



 さて、話もまとまったところで、先を急ぎましょうかね。

読んでいただき有り難うございます。

ブクマしてくださった方、有り難うございました。

凄く嬉しいです。


評価してくださった方、本当に有り難うございます。

高い評価を頂き大変励みになりました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 昨今の作品は助けたお礼をするのが決まりごとになってる。 [一言] さっさと進みたいと言ってるのにお礼をさせてくれと譲らない救助者。明らかに噛み合わない会話だよね。
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