第32話 アーデルハイトの悩み ①
今日は、『清めの日』でお休みだ。
ちなみに、この大陸では、一週間は『光』、『火』、『水』、『木』、『風』、『土』、『闇』、『清』、『癒』の日の九日で、『清めの日』と『癒しの日』がお休みだ。
王都の中をゆっくり見ていなかったので、今日はミーナちゃんと王都巡りに出かける予定だった。
なのに、現在わたしの前には、フローラちゃんとアーデルハイトさんがいる。
ここは、初等部の寮のわたしの部屋のリビングルームだ。
「フローラ殿下、今日はお時間をお取りいただき、感謝いたします。」
「いいえ、私もアーデルハイト殿下とは一度お話をしてみたかったのでお気になさらないで下さい。
ターニャちゃん、今日はお部屋を貸していただいて、有り難うね。」
そう、先日、アーデルハイトさんが後日フローラちゃんとお話がしたいと言っていた『後日』が今この時のようだ。
わたしも、フローラちゃんから昨日いきなり、「部屋を使わせて欲しい」と言われて困ってしまった。
何でと聞いたら、フローラちゃんの部屋よりわたしの部屋の方が調度品が豪華なので、帝国に対して見栄を張りたいらしい。さいですか。
王族同士のお話は、どちらかの部屋でやって欲しいと思ったが、フローラちゃんが王室御用達のお菓子を手土産に持ってくるというのに釣られ、つい「良いよ」と言ってしまった。
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「あら、貴女にはご挨拶していませんでしたね。わたくしは、アーデルハイトと申します。
気安くハイジと呼んでいただいて結構ですわ。
貴女でしたわね、わたくしの愚弟が直接迷惑をかけたのは。本当にごめんなさいね。」
「あ、いえ、お気になさらないで下さい。
お初にお目にかかります。
わたしは、ティターニアと申します。ターニャとお呼びください。」
「まあ、礼儀正しいのね。うちの愚弟とは大違いだわ。
それに、わたくし、拝見しましたわ。貴女、まだ小さいのに凄い治癒術師なのですね。
先週の休日に中央広場を散策しておりましたら、偶々お見かけしましたの。
今日は、もう一人の方はいらっしゃらないのね。」
「ええ、王族の方々の前に顔を出すのは恐縮すると申しまして、私室で休んでおります。」
「そうでしたの、気を使わせてしまって申し訳ないわ。よろしく言っておいてね。」
「はい、そう伝えます。では、わたしも席を外しますので御緩りとお話くださいね。」
挨拶も済ませたし、王族の話に同席するなど面倒なので、わたしもサッサと退席しよう。
「そんな事言わずに、一緒にお話しませんこと。
わたくし、貴女とも是非お話してみたかったのですよ。
フローラ殿下から貴女の部屋でお話しすると聞いて良い機会だと楽しみにしていたのです。」
「そうですよ、ターニャちゃんもここで一緒にお話しましょう。
それと、アーデルハイト殿下、私のことはフローラとお呼びください。私もハイジ様と呼ばせていただきます。」
しまった逃げそびれた、退室できる雰囲気ではないよ。
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「先日は愚弟が無礼な振る舞いをして申し訳ございませんでした。
それと、愚弟の他にもこの国に迷惑をかけている帝国の者がいるようでそれも謝罪します。」
ハイジさんの話を聞くと『黒の使徒』というのは帝国の国教で、帝国人の宣教師がこの国のあちこちで問題を起こしているらしい。
先日の精霊神殿への嫌がらせも『黒の使徒』の宣教師の指示で動いていたようだ。
「『黒の使徒』は帝国の初代皇帝を神の子と崇める事により、帝国の支配を正当化する目的で帝国が国教にしたものなのです。
帝国が、瘴気の森以西の統一を進める上で、思想上の武器として『黒の使徒』は創設から帝国が関わっています。
最近、『黒の使徒』の動きが変なのです、勝手にこの国に来て活動しだすし、帝国国内でも創世教に喧嘩を売るし。
連中が何を考えているのか全く分かりません。兄上も頭を悩ましているらしいです。」
『黒の使徒』は、帝国が新たに占領した地域で反乱が起きないように洗脳するのが主な役割で、オストマルク王国への宣教は認めてないんだって。
また、帝国領内でも創世教が治癒術師を独占しており、皇帝もおいそれと創世教に手が出せないらしい。
帝国政府が後ろ盾となっている『黒の使徒』が公然と創世教に喧嘩を売ると、いざというときに帝国政府に治癒術師が協力してくれない恐れがあり困るのだそうだ。
「見境なくあちこちに噛み付くなんて、ザイヒト殿下みたいですね。」
「ターニャちゃんは手厳しいのですね。
でも、実際、わたくしもそう感じているのです。
まだ八歳なのだから無知なのは当たり前です。
でもあんな傲慢で攻撃的な性格なのはどうなのでしょう。
偏った考えを頑なに信じて他を受け入れようとしないのです。
まるで悪い洗脳教育を受けているような感じがします。」
ザイヒト殿下の教育係に『黒の使徒』の信者でもいて唆されたのかな?
「兄上からの手紙の情報なのですが、最近帝国全体が変な様子なのです。
殺伐としているというか、殺気立っているというか。
最近になって反乱も増えているようですし。」
「それは、新たに征服した地域の統治が上手くいっていないだけなのでは?」
フローラちゃんの言う通りだね。
帝国は、武力で強引に周辺の国を支配下に置いたらしいから不満を持つ者は多いだろう。
でも、何で八歳児と十二歳児がこんな話をしているの?もっと、子供らしい話はないの?
聞かされている私の身にもなってよ……。
「それが、恥を晒すようで言い難いのですが、ここ最近に反乱を起こしているのは全て父が重用していた貴族や将軍なのです。
身内の悪口は言いたくないのですが、父は露骨にえこひいきをするのです。
父は、気に入った人物にはとことん甘いので、重用した者から反乱を起こされる理由がないのです。
兄上からの手紙でも、鎮圧後にどうして反乱を起こしたのかを尋問しても確たる理由が掴めない様なのです。
何というか、血気にはやった?発作的に戦いたくなった?というぼやっとした感じなのです。」
「ハイジさんのお父様、帝国皇帝はどのような人物を好んで重用するのですか?」
「それは、はっきりしています。
黒い髪、黒い瞳、濃い褐色の肌の人物ですね。
それで、強い魔力を持ち、魔法の使い方が巧みであれば、出世間違いなしです。」
フローラちゃんの質問に対するハイジさんの答えはある意味予想通りだった。
なんか、オチが見えたよ。
「それって、ザイヒト殿下そっくりですよね。」
「フローラさんもそう思いますか。実はわたくしも、その点が気がかりだったのです。」
フローラちゃん、その話は何処まで明かすつもりなんだろう?
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