第29話 精霊の森のこと
わたし達の魔導車に同乗して寮へ帰ってきたフローラちゃんを、わたし達の部屋に招待した。
「え、何このソファー、王宮のものよりずっと座り心地が良いのだけど。
これ、どこの工房で作られたものなの?」
リビングに招き入れたフローラちゃんの第一声がこれだ。
ちょっと待って、今日はその説明するために招いたのだから。
「ええとね、わたしが何処から来たのかという今日のお話と関係するんだけど、それは魔導王国製だよ。
ちなみに、魔導王国の王宮の調度品なんだ。」
「え、何でそんなものあるの?」
「だって、わたし、今までそこに住んでいたんだもの。
『何処の精霊の森から来たのか』というさっきの質問の答えがこれだよ。」
「魔導王国の王都って瘴気の森のど真ん中ですよね?」
「今は、精霊の森になっているの。
瘴気汚染のひどいところから浄化していかないと濃い瘴気が周りに拡散しちゃうので、おかあさん達が最初に浄化を始めたのが魔導王国の王都があった場所なの。
二千年かけてやっと、その辺りだけ浄化ができて精霊の森になっているんだ。」
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それから、わたしは、おかあさん達から聞いている限りで、魔導王国のこと、精霊との関りのこと、瘴気を爆発的にばら撒いた事故のことなどをフローラちゃんに説明した。
もちろんミーナちゃんには王都までの旅の最中に説明してあるよ。
「ということで、元々魔導王国で発達していたのは、魔導具を作る技術であって、今の魔法というものはなかったの。
魔導王国では、それまで精霊に頼っていたことを魔導具で模倣したんだって。
それを動かすために空気中の汚染されたマナを結晶化した魔結晶を使っていたんだけど、使えば使うほど瘴気が濃くなるので、精霊と人の関係が悪くなっていったようなの。
精霊は人に知恵を与えすぎたと反省して、人に力を貸すのをやめたそうだよ。
今から二千年前に大規模な魔晶石製造工場で事故があり大量の瘴気がばら撒かれたんだって。
それからなの、人が魔法を使えるようになったのは、瘴気に汚染された人が瘴気に順応して、それを操れる能力を得たんだって。
今、人々は魔力と呼んでいるものは、瘴気そのもので、汚染されたマナの事なの。」
「そうでしたの、知りませんでしたわ。
驚いたのは、人が魔力と呼んでいるのは瘴気と同じモノだということです。
瘴気を何らかの力に変えているって、魔獣と同じじゃないですか。」
「そうだよ、魔獣が攻撃的なのは瘴気で戦う本能が活性化されているらしいのだけど、人も黒髪で黒い瞳の人って乱暴な人が多いよね。
あれって、体の中の瘴気が濃くて攻撃的な性格になっているんだよね。
まだ、理性をもっているから人だけど、理性を失ったら魔獣と同じだね。」
「恐ろしいですわ…。
濃い瘴気にさらされ続けていると人も魔獣みたいになる恐れがあるのですね。」
「そうなったという話は聞かないので、実際にそうなるかは分からないけどね。」
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「ところで、最初の話に戻りますが、魔導王国の王宮にあったものって、無事だったのですか?」
「さっき言った二千年前の、魔晶石工場の事故って破壊したのは工場のプラントだけで、生命が死に絶えたのって、充満した瘴気のせいなの。
だから、食料とか液体とかはダメになったけど、物は比較的無事だったの。
特に魔導具は、魔晶石を動力としてるから元々瘴気には強く出来ているからね。」
わたしの返答にフローラちゃんが前のめりになって聞いてきた。
「じゃあ、たくさんの魔導具が眠っているのですか?」
「たくさん有るみたいだけどあげないよ。これは、誰の頼みでも。
さっき言ったように、多くの魔導具を動かすには多くの魔晶石が必要なの。
魔晶石を使えば使うだけ、瘴気が放出されるから、浄化が追いつかなくなるの。
この国から、精霊の加護が失われてもいいの?」
「なんだ、残念ですわ。
でも、どうしてターニャちゃんは、魔導具をいっぱい使っているのですか?」
「魔導具は、精霊の力を模倣したものだといったでしょう。
魔晶石を使わずに、ソールさんたちの精霊の力で直接動かしているんだよ。
上位の精霊ならこのくらいのことが出来るの。ここには上位精霊が四人もいるから。」
「そうなんですの。何か羨ましいですわ。」
フローラちゃんは、部屋の隅にある魔導空調機を物欲しげに見ている。
これは、自動的に室温を設定温度に調節する機械だ、これがあると室内を一年中快適な温度に保てる優れものだ。しかも、空気浄化機能付だ。
今、この大陸全体の技術水準は二千年前の魔導王国の水準まで至っていない。
この国でも、冬の暖房は暖炉でとり、夏は薄着になって我慢するらしい。
この国の夏を経験したことはないが、相当暑いらしい。
水盥で足を冷やしたり、打ち水をする程度しか涼をとるすべがないそうだ。
このくらいの物なら上げても良い気がするが、おかあさん達から魔導具は絶対に他人に譲るなといわれているからね。
どうしても欲しければ、直接ウンディーネお母さんに強請らせてみよう。
ウンディーネおかあさんは、ここの王族に甘いみたいだから結構簡単にもらえるかもしれない。
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「でも、興味深いですわ、魔導王国の王都。どんなところですの。」
「廃墟」
「は?廃墟?」
「うん、大精霊のおかあさん達が浄化して、清浄なマナを生み出す植物をそこらじゅうに植えているから緑に覆われちゃって凄いことになっている。
正常に機能しているのは王宮だけ。わたしを育てるために整備したんだって。
でも、広すぎてわたしの居住区画と図書館ぐらいしか使ったことがないの。」
「一度行ってみたいですわ。」
「あ、それは大丈夫だと思う。友達を連れてきたら駄目とは言われてないから。」
おかあさん達は、絶対に認めないことは必ず事前にやっちゃ駄目というから、駄目といわれてないことはだいたい許される。
「学園には夏休みというものがあるのご存知ですか?一番暑い時期の一ヶ月くらい休みですの。
そのとき、連れて行っていただけませんか?」
「夏休みって、初めて聞いたよ。わからないから聞いてみるよ。」
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