第20話 サロンにて ②
まだ、サロンでのお茶会は続いている。
ここ、頼めばお茶とお茶請けのお替りができるんだって嬉しいね。
ミーナちゃんは、貴族の人たちに緊張しているらしくお菓子に手を付けていない。勿体ないね。
あたふたとしながらも頑張ってみんなからの質問に答えている。
ミーナちゃん、こんな美味しいお菓子食べる間がなくて気の毒だなと思っていたらエルフリーデちゃんから声がかかった。
「ターニャちゃん、毎朝魔導車で校舎まで通っていますよね。ターニャちゃんがどこのお姫様かって噂になっているのご存知ですか?」
え、初等部は学生寮と校舎の間が離れているので、歩いて通学する人はいないと聞いていたんだけど違ったのかな?
「ええっと、どうして噂になっているの?」
「わかりませんか?今年の新入生で、校内に魔導車を持ち込んでいるのはターニャちゃんだけですのよ。しかも、二台も。」
「そうなの?家の者から、この国の貴族の家なら持っているって聞いたんだけど。」
「ええ、当家にも一台ありますが、父が仕事で使っていますの。
特に領地と王都を往復しないといけない場合に速度の速い魔導車が必要となりますので。
とても、学校で学ぶ子供のために遊ばせておく余裕はございませんわ。」
でも、うちは人間が私だけだから、魔導車使うのわたしだけだしね。
それに、旅の途中に野宿するために魔導車が二台必要だった訳だし、そんな風に見られているとは思ってもいなかったよ。
そういえば、旅の途中で野盗から助けたアロガンツ家の侍女の人がそんな事言っていたっけ。
「それにあんなきれいな魔導車、ボクは初めて見たよ。まるで新品みたいで驚いたよ。」
実際新品の状態で保存されていたものだからね。
「ティターニアさんのお母様も凛としていて素敵でしたわ。それに入学式のとき貴賓室にいらしてでしょう?
あの場所は王族の方しか入れないのですよ。
ティターニアさんはご存じなかったかもですが、あの時陛下自らが貴賓室にご案内したのです。」
レーネちゃんが、うっとりとした顔で言った。ウンディーネかあさんは格好良いからね。
でも、王様が案内してたんだ気付かなかった。それは目立つね。
「で、ターニャちゃんはどこのお姫様なんだい?」
マイヤーさんがストレートに尋ねてきた。
「わたしは、お姫様じゃないよ。ついでに言うと貴族ですらない。」
「ティターニアさんのお母様を見て平民だという方はいませんわ。
それに、国王陛下が自ら応接する平民などそれこそありえませんわ。」
「わたしは、王族でも貴族でもないと言ったけど、平民だとも言ってないよ。
貴族とか平民という階級は、人がたくさんいるから成り立つんだよね。
ミーナちゃんだけには話したけど、わたしが住んでいた場所にはわたしの家しかなかったんだ。
どこの国にも属さない人里はなれた場所なんだよ。だから、階級自体がないの。
今回初めて勉強しに外の社会に出てきたの。生まれて初めてお話した外の人はミーナちゃんだし。
だから、みんなもいろいろなことを教えてくださいね。」
「にわかには、信じられませんわ。そんな事があるなんて。
一族の家名はなんというのですか?」
「家名?名乗ったことないから知らないよ。あ、そういえば。」
わたしは、この間からペンダントのようにクビからぶら下げている指輪を、ごそごそと取り出した。
確か、これに書いてあった。
おかあさん達が、必要になったらこれを名乗りなさいって忌々しげに言っていたんだ。
「えっとね、ゼンターレスリニアール家だって。」
エルフリーデちゃんの顔色が変わった。この意味をわかったのはエルフリーデちゃんだけみたい。
「ターニャちゃん、それ本当のことですか?」
「うん、だってこの指輪に、『ティターニアをゼンターレスリニアール家の正当な継承権を有するものとして認める』って刻んであるもの。」
といって、指輪を光らせてみた。
「ターニャちゃん、無理に聞き出してしまってごめんなさい。それは、他では言わない方がいいわ。
それと、みなさん、今ターニャちゃんから聞いたことは誰にも言ってはダメよ。
ターニャちゃんの言っている事に嘘はないわ。」
「どういうことなの?他言無用はいいけど、理由くらい説明して。」
マイヤーさんは、事情を知りたいといっている。
「ターニャちゃんの家名が広がるとターニャちゃんが厄介ごとに巻き込まれる恐れが高まるのよ。
それに、あの一族は歴史上魔法に最も精通していた一族、古代魔法を秘かに受け継いでいても不思議ではないわ。
魔導車にしたって、家名を聞いた今なら何台持ってても驚かないわ。
だって開発した一族なんだから。隠れ住みたくなるのもわかるわ。」
「魔導車を開発した一族って……、あっ!」
マイヤーちゃんも感づいたようだ。
他の人は気付かないようだ。八歳児だもんな、この二人が知っていた方が驚きだよ。
侯爵家クラスになると、相当教育が進んでいるのだろうか?
その後、エルフリーデちゃんの指示で、わたしの素性は詮索しないこと、他人に尋ねられても何も話さないことになった。
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女の子はお喋りが好きだ、まだお茶会は続いている。
ミーナちゃんは少し打ち解けたようで、お茶やお菓子に手を付けながらお喋りする余裕が出てきたようだ。
わたしは、恥ずかしながらお菓子の食べ過ぎで眠くなってきた。
「ターニャちゃんがさっき説明してくれた話だけど、ザイヒト殿下の黒髪、黒目、褐色肌って一番魔力が多い人の典型って言っていたよね。
でも、あの殿下、土をろくに耕せないでへとへとになっていたよ。本当に魔力が多いの?
あれなら、魔力が少ないって言われているボクの方がもっとうまく耕せるよ。」
「魔力は多いんだと思うよ。でも、使う魔法の選択と使い方が間違っていたと思う。
『クラッシュ』って石とか硬いものを破砕する魔法だよね。多分、相当魔力を使うのじゃない。
しかも、力いっぱい魔力を注いでいたよ。
本来は柔らかいものを攪拌するような魔法を選ぶ方が良いし、『クラッシュ』しか知らないのなら、注ぐ魔力を減らして範囲全体を均一に破砕するように広げて使えば良かったんだ。
あの殿下は、威力の強い魔法をより強く使う練習しかしてこなかったんだと思う。
土を耕すのにあんなに強い魔法使う必要全くないのに、他の魔法を知らなかったんだよ。」
「ああ、そうか、午前中の授業でウートマン先生が言っていた、国によって重視される魔法が違うというやつだね。」
わたしとルーナちゃんが魔法実技の時の話をしているとリリーちゃんが心細げに言った。
「あれで、あの殿下は納得したでしょうか?まだ、不満そうな顔していましたけど。
あの殿下が部屋の中で攻撃魔法を使おうとしたとき凄く怖かったです。
なんか、聞くところによるとあの殿下はあちこちで問題を起こしているようですけど。
もう来なければ良いのですが。」
たしかに、あの殿下は諦めが悪そうだよね。また絡まれるのは嫌だな。
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