第18話 闖入者と魔法実技
「誰だか知らないけど危ないでしょう!火事になったらどうするのよ!!」
わたしは、マナをごっそり吸い取られ肩で息をしながら、闖入者を叱りつけた。
こいつの家では、部屋の中で無闇に火属性魔法を使ってはいけないと教えてないのだろうか?
「「「「いやいや、怒るポイントはそこじゃないから!」」」」
なにか、わたしの方に突っ込みが入ったんですけど?
「ティターニア君、有り難う、助かったよ。
さて、そこの君、ティターニア君に感謝するんだな。
この国では、正当防衛のときを除き人に向かって攻撃性の魔法を撃つ事は重罪とされている。
ティターニア君が君の魔法を止めてくれなかったら、君は退学処分では済まないところだったよ。
君自身はまだ八歳なので罪には問われないが、保護責任者は監督不行届きで厳罰、君は国外退去となるところだった。
今回はティターニア君のおかげで未遂で済んだので、学園内で留めておくことにできる。」
「人に向かって攻撃魔法を使ってはいけないだと?われは皇族だぞ。無礼打ちにも魔法は使えんというのか?」
「人に対する攻撃魔法の使用禁止は、王族にも貴族にも適用される。
そもそも、わが国に無礼打ちというものは認められていません。
君がそんな事をすると大問題になりますよ。注意してください。
君の保護責任者は、そんな事も説明していないのですか?」
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そこへ血相を変えた中年の騎士らしき人物と侍女服の女性が飛び込んできた。
「こちらに、わが国の殿下がお邪魔していないだろうか。
私はヴェストランテ帝国より留学中のザイヒト殿下の保護者を勤める騎士のケンフェンドと申す。
先ほど、授業を放棄して飛び出して行ったと連絡を受けて探しているのだが。」
「先程から授業妨害をされて困っているのだが、お探しの殿下というのはこの少年だろうか?」
ウートマン先生は、ケンフェンド卿に闖入者を差し出しながら言った。
ウートマン先生は、ケンフェンド卿にこれまでの経緯を説明しているようだ。
説明を受けているケンフェンド卿の顔色がどんどん悪くなっていく。
「大変申し訳ないことをした。こちらの監督不行届きはわびる。
だが、退学処分だけは勘弁してくれんか、一国の王子が入学後一週間で問題を起こして退学では体面が悪すぎる。
殿下には反省するようにきちんと教育するので穏便に済ませてくれ。」
ケンフェンド卿は、ペコペコと頭を下げてウートマン先生の謝っている。
横にいる殿下は、依然として不満そうな顔をしており、反省の色は見えない。
「ケンフェンドよ、わしが、何を反省せねばならんというのだ。
この学園は、偉大なる帝国の王子であるわしより、この『色なし』の方が優秀だといっているのだぞ。
こんな侮辱されて黙っていろというのか。」
あ、ここでそれを言うか。せっかくケンフェンド卿が執り成していると言うのに。
「十年前に留学してこられた皇太子殿下も、今中等部に在籍している第一皇女殿下も非常に聡明な方でしたが、ザイヒト殿下は少し毛色が違うようですね。」
ウートマン先生が呆れ顔で言った。ケンフェンド卿はバツの悪い顔をして言った。
「重ね重ね、殿下が失礼な事を言って申し訳ない。唯一つ、釈明させてもらえないか。
殿下はまだ幼い。多様な価値観というものが理解できないのだ。
わが帝国では、強力な魔法が使える者が尊敬されているし、国がそのように誘導している。
だから、強力な魔法を使える黒髪、黒目、褐色の肌の者は尊敬されるし高い地位にいる。
反面、魔法が使えない『色なし』は神の恩寵のない者として、最底辺におかれ忌避されている。
生まれてからずっとそういう価値観で育てられたザイヒト殿下には、『色なし』の下に置かれたことが我慢できなかったのだと思う。
こればかりは、口で言って聞かせてもなかなか理解できないのではないかと思う。
実際に、そちらの方が魔法を使って見せれば、殿下の価値観も多少変わると思う。
本当にそちらのお二人が、殿下よりも魔法を使いこなすというのであれば、是非見学させてはもらえないだろうか?」
おっと、こちらに飛び火したぞ。ウートマン先生は少し考えた後返答した。
「そちらの希望を聞く必要はないのだが、百聞は一見にしかずとも言うし、彼女らの魔法を見ることで考え方が変わる見込みがあるなら見学を認めても良いか。
まだ、八歳児だ、心を入れ替えればこれから良い方向へ育つかもしれんからな。」
午後の魔法実技は、ザイヒト殿下が見学するらしい。
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さあ、魔法実技の時間だ。
本当は、今日の魔法実技の時間は、ウートマン先生がこの国で重要視されている土魔法と水魔法を用いて荒地を開墾する模範を示す予定だった。
しかし、ケンフェンド卿のたっての願いで、わたしとミーナちゃんが魔法を使って見せることになってしまった。
「ザイヒト殿下には見学してもらう心算だったが、殿下も同じことをした方が二人との違いがはっきり自覚出来ると思い、殿下にも参加してもらうこととした。
課題は各自の前にあるロープで囲まれた土地を耕し、種を蒔いて、水やりをすることだ。
競争ではないので、一人ずつ、一作業ずつ順番にやってもらう。
ミーナ君から順番にやって見せなさい。」
順番は、ミーナちゃん、わたし、ザイヒト殿下となった。
課題の土は、雑草が生えた固い土で、魔法の練習用の土地だけあって実際の畑には向いてない。
ミーナちゃんは精霊さんに指示を出したあと、課題の土地を指差し「えい」と一声かけた。
すると、ロープの中の土から草と小石が除けられ、土の攪拌が始まった。
しばらくすると攪拌が収まり綺麗に耕された土地が出来上がった。
うん、ミーナちゃん、完璧だね。マナの使用も最小限だし、全然疲れてないね。
周りの人は呆気にとられている、あっという間だったものね。何が起きたか理解できなかったかな。
次はわたしの番だ。
わたしは、見ている人に解り易い様に敢えて口に出すことにした。普段はしないよ、恥ずかしい。
「土よ目覚めろ、石を砕き、草を取り込み滋養となし緑を育む豊かな土になれ。」
土が攪拌され小石と雑草も取り込まれるが。小石は砂粒より細かく磨り潰され、雑草は活性化した土の微生物により分解される。攪拌が終ったときにはふわっと柔らかい黒土が目の前に現れた。
「凄い、今すぐ畑として使えそうな土だ。今の魔法は、小石の破砕と雑草の発酵分解を同時に行ったのだね。」
わたしの耕した地面の土を触ったウートマン先生が呟いた。
ウートマン先生の呟きを耳にした周囲がざわついた。
最後にザイヒト殿下だが、土を魔法で耕すという知識はなかったらしく、石などを砕く『クラッシュ』という魔法で土を砕いていった。
指定された範囲を終えたときは、息も絶え絶えだったが、小石も雑草も除けられてなく、土も均等に耕されたとは言い難い出来であった。
「これは、耕したとは言えませんね。試験だったら不合格です。」
ウートマン先生の冷たい一言がザイヒト殿下に投げかけられた。
ザイヒト殿下は悔しそうな顔をしたが、言い返す元気は残っていないようだ。
ザイヒト殿下はここでリタイアだそうだ。
わたしとミーナちゃんは、続けて風魔法を使って耕した土に均等に種を蒔き、種の上に薄く土をかぶせた。
最後に、種を流さないように、如雨露のように優しく、均等に水をあげて課題は終了だ。
今回は、ミーナちゃんもマナの使い方が絶妙で、水のやりすぎて種を流すようなことはなかった。
「はい、二人とも良く出来ました。課題としては完璧ですね。
ミーナさんの小石と雑草の除去は良く気が付きましたね、最初はそれに気付かない人が多いのです。
ティターニアさんの、分解して土の養分にしてしまうという発想は、あまり思い至らないです。
ケンフェンド卿、見学されていかがでしたか?」
「いやあ、脱帽ですね。
これほどまでに魔法を使いこなすとはさすが最優秀クラスです。
しかも、あれだけのことをして全然疲れた様子がないのも凄いです。
ザイヒト殿下もあれだけの魔法を見せられれば文句の付けようもないでしょう。
良いものを見せていただき有り難うございました。」
ケンフェンド卿は満足のようだが、ザイヒト殿下の方は悔しそうな顔のままだった。
少しは大人しくなれば良いんだけど、嫌だよちょくちょく絡まれるなんて。
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「見事な魔法実技でしたわ。二人ともわたくしには真似のできないレベルでした。
実は、お二人が入学試験の実技が満点だったというのに半信半疑だったのです。
ですから、今までどう接したらよいか困っていたのですが、魔法がお上手だというのは本当だったのですね。
無視していたみたいでごめんなさいね。
わたくしはエルフリーデと申します。これから仲良くしてくださると嬉しいですわ。」
女子貴族グループのリーダー、アデル侯爵家のエルフリーデ様が声をかけてきた。
やっぱり、今までわたし達の存在に戸惑っていたんだ。
「はい、これからよろしくね、エルフリーデちゃん。わたしのことはターニャって呼んでね。」
これから、クラーラちゃん以外の子とも仲良くなれれば良いな。
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