第13話 オストマルク王立学園入学試験
いよいよ今日は、オストマルク王立学園の入学試験の日、わたし達は試験の始まる少し前に会場に着くようにやって来た。
余裕をもって来ようと思ったが、ソールさんが、早く行くと暇をもてあました柄の悪い者に絡まれるかもしれないからぎりぎりに行った方がよいと言ったので従うことにした。
柄の悪いのって、黒髪黒目が至高とか言っている連中のことだよね。
えっ、今まで何やっていたかって?
ミーナちゃんの試験勉強を応援してた。
入学試験は、読み書きと簡単な計算、それから基本的な魔法が使えれば合格と聞いていたんで楽勝と思っていた。
でも、普通の子は初等国民学校で初めて読み書き計算を習うんだって。
上流階級の子は、学園入学前に家庭教師を付けて、読み書き計算まで出来る様にするらしい。
だから、ミーナちゃんは王都までの旅行中もずっと勉強してたんだけど、まだ足りないってことで十日間ずっと勉強していた。
わたしとミーナちゃんが、受験番号の書かれた席に着くと、
「おいおい、『色なし』が試験を受けに来るなんて、この学校も質が落ちたな。」
とこちらに聞こえるように大きな声で話す奴がいた。
ああ、ソールさんが言ってたのってこういうことね。
たかが簡単な読み書き計算ができる程度で入れる学校に質が落ちるも何もないだろう。
「ええ、全くでやんす。我々高貴な血筋の者が『色なし』と机を並べるなんて気分が悪いでやんす。」
で、こういう腰巾着がいるわけだ。
まあ、こういう奴らは無視するに限る。もうすぐ試験も始まるし。
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試験官が、試験用紙を持ってやって来た。
騒いでる奴らも静かになって試験開始である。
思っていた以上に簡単な問題だった。
絵に描かれている物の名前を書けとか抜けている場所に入る適切な言葉を選べとか、計算も本当に簡単な足し算引き算とかばっかりだった。
これなら、ミーナちゃんも問題なく解答しただろう。
ただ、一問だけ不思議に思った問題があった。答えは簡単なんだけど。
問題 この国を建国した初代王の名前と身体的特徴を述べよ。
解答 ヴァイスハイト女王 身体的特徴 白銀の髪、薄い碧眼、白い肌
なぜ、建国王が『色なし』だってことを再確認させる問題を出すのだろう、馬鹿な奴の神経を逆なでするだけだと思うんだけど。
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筆記試験が終ったら、魔法実技だ。
ミーナちゃんと一緒に実技試験の会場に移動する。
「ミーナちゃん、筆記試験どうだった。」
「ターニャちゃんやみんなのおかげで、全部出来たよ。思ったより簡単だった。」
うん、よかった。ミーナちゃんも全部出来たようだ。頑張った甲斐があったね。
実技試験は一人ずつ行うようだ。わたし達の順番は結構最初の方だ。待たなくて良いね。
実技試験の内容は、水桶に水をいっぱいに注ぐ、燃種に火をつける、離れた蝋燭の火を風で消す、小石を土魔法で砕く、の四つの中から制限時間以内に一つ以上出来れば合格というものだ。簡単だね。
「魔法の実技試験は、『色なし』には出来まい。恥をかく前に帰ることだな。」
さっき大声を上げていた奴が、わたし達の前にやってきて言った。
大きなお世話だ。
「お気遣いなく、こちらは問題ありませんので。」
ここで喧嘩を売ってもしょうがないので、とりあえず無難に流した。
ミーナちゃんが隣でおろおろしている。
わたしの順番のひとつ前がさっきからわたし達に絡んでいる男の順番らしい。
「ヴェールトロース伯爵家の嫡男ブリュード様が格の違いを見せてやる。よく見ておくことだな。」
伯爵家の息子なんだ。自分の名前に様を付けるなんて、イタい奴だ。
ブリュードは、「大地を潤す水よ、我が意に従いここに顕現せよ、ウオーター!!」と叫びながら水桶に水を注いだ。
恥ずかしい、あのくらいのことであんな大げさなセリフ吐くの?しかも、肩で息しているし。
更に、ブリュードは、「大地を揺るがす偉大な力よ、我が意に従いこれを破砕せよ、クラッシュ!」
と叫びながら、小石を砕いた。
だから、何でいちいち叫ぶの?大体、小石一個砕くのに大地を揺るがす力はいらんだろうが。
ブリュードは、大分消耗したようで、肩で息をしながら、ドヤ顔で言った。
「どうだ、俺は二属性持ちだぞ。ヴェールトロース伯爵家の嫡男ブリュード様の実力を思い知ったか。」
いや、実力を見せるのは試験官に対してであって、わたし達にではないでしょうが。
いよいよわたしの番である。
わたしは、おチビちゃん達に最小限のマナを渡しながら、わたしが指差して「えい!」と合図したら、
行動に移してとお願いした。
まずは水桶だ。
わたしが、「えい!」という合図で水桶を指差すと空間から水が溢れ出し一瞬で水桶が満たされた。
試験管が目を丸くしていたので、「これでよろしいですか?」と聞いたらしきりに顔を上下に振っていた。
ブリュードがこちらを見て呆然としている。
わたしは、同じ要領で、燃え種に火をつけ、蝋燭を風で消し、小石を粉砕した。
気が付くと周囲が沈黙している。試験官も茫然自失のようだ。
それもそうか、魔法が使えないはずの『色なし』が全ての課題をいとも簡単にやってのけたのだから。
「試験官、実技試験の試技全て終りましたが、これでよろしいでしょうか?」
試験官が何も言わないので、一応確認してみた。
「ええ、結構です。大変よく出来ました。」
と我に返った試験官が返答してくれた。
次は、ミーナちゃんの番だ。
知り合った翌日から、欠かさず精霊さんと練習を重ねてきたミーナちゃんには、簡単すぎる課題だった。
わたしと同様に、全ての課題を難なくこなした。
ただ、練習期間が短かったせいかマナの制御が甘く、水は水桶から盛大に溢れ出すわ、小石は粉みじんになるわで、威力過多の結果となった。
試験官は、呆然となるのを通り越して、怯えた目でミーナちゃんを見ていた。
これで、試験は全て終わりだ。受験者が少ないので、明日合格発表らしい。
実技試験が終わった者から帰ってよいらしいので、わたし達は早々に帰ることにした。
わたし達は知る由もなかった、わたし達が帰った後試験会場が騒然としたことを。
この日、オストマルク王国に魔法が使える『色なし』が二人も現れたという情報が流れ、周囲を大いに混乱させた。
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