第99話 刃物で刺されると痛い…
「イタタ……。」
刃物でブッスリとやるのはやめて欲しい。
八歳の子供とはいえわたしも女の子だ、傷が残ったらどうしてくれるんだよ、まったく。
気が付くとベッド横の椅子に腰掛けたミーナちゃんが、ベッドにうつ伏して眠っている。
ずっと付いていてくれたんだね。
あれからどの位の時間が経ったのだろうか?
窓の外がほのかに明るくなっているから日の出前なのかな?
眠っているミーナちゃんを起こさないように気をつけてゆっくりと上体を持ち上げたのだが、眠りが浅かったのかミーナちゃんが目を覚ましてしまった。
「ターニャちゃん気が付いたの、よかったぁ!なかなか目を覚まさないんで心配したのよ。
賊に刺されたって言うから、ターニャちゃんまで死んじゃうかもって思ったらわたし怖くって…。」
わたしに抱きついたミーナちゃんの目からポロポロと涙が零れる。
「心配かけてごめんね、ミーナちゃん。わたしはもう大丈夫だよ。」
刺されてからそんなに時間は立っていないらしい、刺されてのが夕方で今は翌日の夜明け前だそうだ。
わたしは恐る恐る刺された横腹を見る、良かった傷跡一つ残さず治っている。
水のおチビちゃん、良い仕事をしてくれたね。あとでたっぷりご褒美を上げなくては。
グゥー…
お腹の虫が鳴いた、ミーナちゃんと顔を見合わせ思わず噴き出してしまった。
晩御飯を抜いたせいか凄くお腹がすいてるんだよ…。育ち盛りなんだから仕方ないじゃん…。
ミーナちゃんが、厨房は朝食の準備を始めているはずだから何か貰ってきてくれるといって部屋を出て行った。
**********
ちょっと早めの朝食をとったわたしがミーナちゃんとリビングルームへ行くと、公爵とミルトさんがお茶を飲んでいた。
二人とも今日は随分早起きなんだなと思いつつ、「おはようございます。」と声をかけた。
「ターニャちゃん、もう起きて大丈夫なの?何処か痛いところは無い?」
ミルトさんがわたしの両肩に手を置き尋ねてきた。
「傷跡一つ残さずに治っているのでもう大丈夫ですよ。
ご心配おかけしました。」
そう答えるとミルトさんは安堵の表情を浮かべた。
わたしが倒れたとき、傍にいた公爵がわたしを抱き起こしたそうだ。
わたしのわき腹の辺りの服が破れ、大量の出血があったので慌てて公爵邸まで搬送したらしい。
担ぎこまれたわたしを診た医者が、何処にも刺し傷が無いので首を傾げたらしい。
今回のようなことを想定し、事前に光と水のおチビちゃん達にお願いしておいたんだ。
わたしが危害を加えられたら、速やかに『浄化』と『癒し』を使って欲しいと。特に、相手は毒を使うみたいなので念入りに『浄化』して欲しいとお願いした。
ちなみに、おチビちゃん達にはわたし以外の標的三人に対しても同じように対応するようにお願いしてある。
ミーナちゃんは彼女を慕っているおチビちゃんが何とかしてくれるかもしれないけど、帝国の二人はそういう訳にはいかないからね。
「ティターニア君、大変申し訳ないことをした。
護衛の騎士には身を呈してでも君を守るように言いつけてあったのだが、君を凶刃にさらしてしまった。」
「護衛の方をあまり責めないでください。あれは仕方がないと思います。
しいて問題を挙げるとすれば、あの場の野次馬を排除できなかったことの方ですよね。」
『黒の使徒』の救済神官は本当に暗殺のプロだった。
あの野次馬の中にいるっておチビちゃんから知らされていたんで用心していたんだ。
あんな自然にぶつかってくるなんて思わなかったし、おチビちゃんの警告も間にあわなかった。
刺したのも一瞬で、自然な足取りで去って行った。現に目撃者がいないらしい。
目撃者がないので、まだ犯人は捕らえていないらしい。
ええ、わたしはしっかりと見ましたよ、フードの中のあの嫌な笑いを見せた顔。
さあ、捕縛に向かいますか。
**********
ここは、港町の外れにある安宿の一室、『黒の使徒』の救済神官四人が泊まっている部屋の隣の部屋だ。
わたし達は、この部屋で息を潜め隣の部屋の様子を窺っている。
しかし、本当に汚い部屋だな、クモの巣が張っているよ。
でも壁が薄いのはいいね、隣の会話が筒抜けだ。
「本当に小娘を一人仕留めたんだろうな?確認していないのだろう。」
「馬鹿言え、熊殺しの毒薬だぞ。あの毒にかかれば人間なんかイチコロだぜ。
この国では解毒剤は手に入らないはずだし、あったとしても、ものの五分でお陀仏の毒だ、間に合うはずがねえ。」
よしよし、わたしを刺した男はいるみたいだね。
しかし、そんな危ないものをいたいけな子供に使わないで欲しいよ。
「しかし、どうする。一人やったのはいいが、これで警戒がますます強まるぞ。」
「俺を責めるのか?今回は千載一遇のチャンスだったんだ、見逃す手は無かったぜ。」
「おまえを責めているわけじゃない。一人でも仕留められたのだからそれでいいんだ。
あと三人をどうするかを考えようじゃないか。」
うん、もうそれは考える必要ないよ。
その時、隣の部屋のドアが開く音がして、多くの足音が衛兵が部屋へ突入したことを知らせてくれた。
「おまえら、公爵家が保護する少女を襲撃した容疑で捕縛する。
神妙にお縄に付け!」
「なんの言いがかりだ。何の証拠があって俺達を捕縛しょうってんだ。」
隣の部屋にいた男の一人が、強気で抗弁した。
この人たち証拠を残すようなことしないもんね。でも無駄な足掻きもここまでだよ。
さて、行きますか。
「証拠も何も、わたしはしっかりとあなたの顔を見て覚えていますよ。
熊殺しの毒でしたっけ、いたいけな子供に随分と危ない薬を使ってくれたじゃありませんか。」
わたしは、隣室のドアをくぐるとわたしを刺した男を指差して言った。
「おまえ、なんで生きている!」
「あ、馬鹿…。」
わたしに指差された男が狼狽して決定的なことを口にしてしまう。仲間がたしなめるがもう遅い。
再度、衛兵のリーダーが部下に捕縛を命じる。
「こんなところで捕まってたまるか!」
救済神官四人は隠し持った毒付きの短刀で抵抗しようと試みるが、そんなの想定済みよ。
「おチビちゃん、眠らして!『安らぎの光』、お願い。」
抵抗しようとした四人を春の陽射しのような柔らかい光が包み込む。
膝をつき、崩れるように眠りに落ちる四人、『黒の使徒』の暗殺者四名の脅威はこうして排除された。
やっと、安心して街に遊びに行けるよ…。
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