君の名は ~ ある町の回転寿司屋さん編 ~
ある街の、ネタが新鮮回転寿司屋さん、美味しいと、評判のお寿司屋さん、旨い、早いの、美味しい、美味しい、お寿司屋さん、そこではパステルカラーの彼を巡って、恋の火花が散らされている。
世の中には、生きている時と、食用になった時に称号が変わるモノ達が少数いる。
例えば『牛』うし、牧場では『うし』しかし、食用の時を迎えれば『ぎゅう』と名前を変える。
そして『米』こめ、このお方は主食な事だけあり、『稲』『籾』『玄米、白米』『ご飯』段階による名前の変化が、種類豊富だ『水穂の国』の主食の地位を獲ている事はある。
艶やかに白く、柔らかな甘い香りを放つ、炊きたての姿は『銀しゃり』と言う名にふさわしい……
×××××
彼は異色だった。何故ならその身の『カラー』
相対的に、赤身、白身、光り物、卵の、黄色、巻物の海苔の黒、の中で唯一のパステルカラー
柔らかいその色。春に咲く、たおやかな薔薇を彷彿とさせる色。
その優しき色は、彼を取り巻く乙女達の心を仕留めるには造作もない事だった。
「ああ、何てお美しい、お色なのでしょう『鮭様』」
寿司桶の中でチラチラと、辺りに視線を送る『銀しゃり』は、職人が時折手に取る、パステルカラーの切り身に、胸の鼓動を高まらせていた。
優しい色の彼は、全てにおいて優雅でゆったりとしており他の仲間達とは、一線を引いている。
「はぁー、鮭様。お優しい貴方とわたくしは、相性は完璧ですわ、お供の海苔との『おにぎり』お弁当、日本が誇る素晴らしい二人の組み合わせ……」
うっとりと、これから先に身にまとうパステルカラーの彼を想い焦がれる、銀しゃり。
そんな彼女に、傍らのステンレスのトレーから辛辣な声が放たれる。
「はぁ?私のサーモンにダサい『鮭様』なんて呼ぶのやめてくんない?」
真っ白な『スライスオニオン』彼女もまた、パステルカラーの彼にぞっこんの一人。
「はい?何かしら?『千切り玉ねぎ』」
ふふん、と銀しゃりは高飛車に彼女に対応する。二人はパステルカラーの彼を巡り、日々恋の火花を散らすライバルだった。
「その呼び名!やめてくんない?私は、オニオンスライスなのよ!」
「ここは日本ですわよ『郷に入れば、郷に従え』わたくしがきちんと、訳してあげてますのに、お気に召さないの?『千切り玉ねぎ』」
「嫌なの!その呼び名は、オニオンスライス、オニオンスライスなのよ!それにサーモンには、私とのコンビネーションが最高なの!」
「うるさいですわよ『千切り玉ねぎ』あら、そうそう、千切り玉ねぎがお気に召さないのなら、お互い上の二文字を呼ぶことに致しませんこと?」
銀しゃりの言葉に、オニオンスライスは考える。
『千切り玉ねぎ』だから上の二文字……
「良いわよ、私は『せん』になるのね、アニメのヒロインみたいで良いわあー!ならばあんたは『ぎん』なんかお年寄りみたいだわ、はっハーン!」
何処か、得意げに笑うオニオンスライスに対して、余裕の銀しゃり、彼女はゆったりと呼び掛ける。
「オニ」
はい?オニ?はっ?何でそうなるの?『せん』ではないのぉ!と雄叫びを上げるオニオンスライス。
「あら、貴方は『オニオンスライス』なのでしょう?上の二文字ですわ」
ほーほほほ!と高笑いの銀しゃり、ウキャーと何処か負けた感満載の、オニオンスライスの叫び。
そしてそんな女の戦いを止めるべく、ある若者が立ち上がる、
彼の名前は『マヨネーズ』日本人最強のアイテムである。どんな食材とも相性が良い彼は、仲裁役としては最適の人物。
「二人共、争うのはやめにしようよぉ、銀しゃり姫がいないと絶対にダメだし、オニオンスライス嬢がいないと、これも成り立たないのだから」
お互いを尊重してさぁと、マヨネーズは二人に話しかける。そんな彼に対して二人共に、敵意剥き出しの言葉が放たれる。
「はっ?貴方マヨネーズ、今日こそ聞きますけど、貴方はどちらの味方なの?」
「そうよ!マヨネーズ!どっちなの?サーモンと私にあんたは必須だし!でも、銀しゃり共仲良くやっているわね!」
「そ!それは、僕は皆を引き立てる役目だから……」
「はい?選ぶ事はできませんのね、ならば今後『サラダ巻』の時から、海苔と他の皆様との、素晴らしい交響曲から、にゅるりと外へ追い出してあげましてよ!」
あやふやなマヨネーズに対して、銀しゃりはつけつけといい放つと、フンッとそっぽを向く
それに続いて、オニオンスライスもプンプンと怒りながら文句を言う、
「そうよ!マヨネーズ、選べないのなら、私も、バンズとパティ、レタスと甘辛ソースのオーケストラの時には、ボタボタと滴り落としてやるから!覚えておきなさい!」
そもそも、銀しゃり!マヨネーズって生意気よねー『エビマヨ』とかぁ『ツナマヨ』とかぁ!と、オニオンスライスは言葉を添える。
「そういえば、そうですわね『お醤油』さんとかの立場を考えたら、同じ液体調味料なのに、少しでしゃばってますわね」
さんざんな言われようをした、マヨネーズはいたたまれずに、コテンと容器を倒した後、赤い口を、きゅっとを閉じ、大人しくなってしまった。
「フン!マヨネーズなんて、放っておけばいいのよ!それよりも、サーモンはサーモンなの!ダサい『鮭』なんて呼ばないで」
再び問題を蒸し返す、オニオンスライス、そんな彼女を迎え撃つ銀しゃり。
「では、聞きますけど『焼き鮭弁当』はありましても『焼きサーモン弁当』はなくってよ、オニ」
「オニ!それもやめてくんない!それに、サーモンだけお皿に乗ってる時は、サーモンなんだから、それはいいの?あんたは!」
「良いのですわ!お口の中で、仲良く合わさる、わたくしと愛しのお方との、二人の時間ですもの!わたくしは、そこに、オニが入り込むのが嫌ですの!」
「じ、じゃぁ!海苔は?海苔はどうなのよ!おにぎりの時に、邪魔になんないの?」
「海苔は『お供』ですもの、わたくしを引き立てる存在ですのよ、ご存知なくて?」
フン!と銀しゃりはオニオンスライスにいい放つ。それに対してオニオンスライスも負けてはいない。
「め、メニューにあるのだから!それにサーモンと私の組み合わせは最高なのよ!お店でも人気なんだからね!」
「あーら?そうなのぉ、オニ苦手なお客様もいらっしゃるわよ、わたくしを嫌うお客様はいらっしゃらないけれど、ほーほほほ!」
ほら!みてごらんなさい「とろサーモン」様が流れてらっしゃいますわ、
鮭様一族の中では、特別なお方様ですわよ、当然ながら、邪魔なオニ、乗せておられませんことよ!
銀しゃりは、オニオンスライスの弱点を遠慮なく、突き立てる。
彼女を苦手なお客様も、確かに存在しているために、そこはオニオンスライスにとって、悩みどころであるのだ。
そんな、劣勢なオニオンスライスを見かねて、寿司屋の長老『ワサビ』が重い腰を上げる。
『オニオンサーモン』の注文が入った時を見計らい、銀しゃりが職人の手の内に入り、しばらく休戦協定が結ばれた隙を狙い、
彼は無口なパステルカラーの彼に、あるアイデアをそっとささやく。
長老のアドバイスに、わかった、とパステルカラーの切り身の彼は答えを返した。
そして、その握りが完成し、お皿に乗せられた時に、銀しゃりとオニオンスライスは彼に、どちらが一つを選べと穏やかな彼に詰め寄った。
「どちらですの?鮭様」「どっちなの?サーモン」
「貴方の名前は?鮭様」「君のなまえは?サーモン」
熱く迫って来る二人の白い乙女達に、パステルカラーの彼は、優しく答えた。
「僕の名前は、シャケ」
「完」
くれないのシャケ、とても楽しい詩を読んで出来上がった、お話です。
彼はサーモンなのか、鮭なのか、シャケなのか、日本語は奥が深い。