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夕闇倶楽部のほのぼの怪異譚  作者: 勿忘草
第6章 狂霊映画と幻死病
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第7話 オープニングの前に

 撮影練習、最終日。


「はい、ストップー! 雫ちゃんお疲れ~。死人の演技上手かったよ!」

「それって喜んでいいのか複雑な気分だなぁ」

「シズ。口元と喉元、手の血糊は落としてきなさい。怖すぎるわ」

「さすが、はっちゃんのメイクだね~。この人形もいい感じだし!」

「う、うん。ここは、ちょっとこだわったかな」


 ここまで来ると、台本を流れで通すといった確認作業が多かった。

 しかし、この3日間。短かったようで長かったな。これからもあるのだが。


「それにしても、首吊りの裏側ってこうなのね」

「表情を撮る時だけ椅子に立った雫ちゃんにやってもらって、実際に吊るのは人形だね。夜のシーンだから工夫すれば顔は見えないし」

「映像でも加工できるしな。今の技術ってすごいんだぜ。見てみろ」

「なるほど、それはすごいな。あと宏、お前は来るのか?」

「あれから考えて、暇だし行くわ。でも、怖いのはゴメンだからな!」

「準備できたし、こちらでも練習を始めるぞー。よーい、はじめ!」


 そして、向こう側でも別のシーンの練習をしている。漆黒の三角帽子を深々と被り、黒マントを付けた、全体的に黒の服装の七星さんが演技中だ。

 おそらく2人目の死人に狼狽える主人公たちに霊能力者が計画通りに事が進んだことを歓喜するシーンだろう。



「さぁ残酷に踊りなさい、奢侈なる現世で生き長らえてきた愚者(グール)たちよ!! 愚鈍なる願いは夜の帳に飲み込まれ、無様な叫びは静寂なる世界の前に灰燼と化す。奇跡など起こるはずもなく、愚者どもはただただ闇の前にひれ伏すだけ。我が力は醇正なる秘術。万物を制し、あらゆる怪異を制し、あらゆる絶望を支配し、あらゆる希望を埋め尽くす。この手が生み出すのは激しく重い漆黒、最低最悪最大の絶望のみ。……ふふっ、あは、あははっ!! そうだ、彼らの命で悲願は達成するっ!! 幾多の年月を経て世界を喰らい尽くす我が呪術、己の生涯を蝕んできた我が呪術、終焉なる禁断の呪術ラスト・オカルティズムを五臓六腑に刻み込めっ!!!」


 …………。

 いや、こんなシーンだったか。彼女はかなり楽しそうにしてるけど。


「アドリブは否定しないが。台詞から離れすぎてるぞ」

「あっ、はい。つい気が乗ってしまって……す、すみません」

「なんというか、随分とノリノリね」

「葵ちゃんって、ああいうの大好きなんです。アキが持ってたその手のラノベを読ませたらドハマリしてましたしっ!」


 意外というか確かにそうだよなというか、そんな彼女の一面。

 そういえば、呪いの映画に出ていた霊能力者役のおじさんも彼女ほどでないにしろ、随分と気前よく役に入り込んでいたな。

 いったい何者なんだろうか。当時の映画同好会の関係者ではなさそうだが。


「よーし、今日は早めに終わらせるぞ。明日に響いたら大変だしな」


 そして、午後2時過ぎに撮影の練習は終わりを告げた。

 明日は村の移動やその他の作業も含まれる。確かに体を休めておきたい。


「んじゃ、あたしたちはこれで帰りましょうか」


 遠乃の言葉に僕たちは頷いて、帰り支度をし始める。

 ……良かった。 依未との約束に間に合う、そう思った時、部屋の扉が開いた。そして、ある男性がエラそうな態度で入ってくる。


「失礼する。連絡を受けてきてみれば、変なことをしていたとは」

「こんにちは、千夏ちゃん。この脳足りんが探してたわよ」

「ああ、佳代子さん。どうも……って、無能先輩まで。インターンシップもとい企業に対する営業妨害は終わったんですか」

「何が営業妨害だ! 問題なく相手先のビジネスにコミットしてきたが」

「面白かったわぁ。荒唐無稽なプロジェクトを、ビルゲ〇ツばりの態度で提案してドン引きされる義彦くん!」


 正体は“異界団地”でお世話になった中岡佳代子さんと伊能義彦さん。

 伊能さん(彼女曰く無能先輩)が来たことに語気と警戒心を強める千夏。彼ら、というか彼の惨状を知る僕たちは一歩引いた場所で彼らを見ていた。


「はぁ、それで千夏くん。君にはアサインした記事の作成と新聞部改めニュースペーパー・ビジネス・クリエイティーション・クラブ、略してNBCCの現状におけるボトルネックを洗い出し、アジェンダをサジェクトするビジネスをアサインしていたのだが……話が来ていない。私の話を聞いてなかったのかい?」

「あなたのバカみたいな話なんて聞いてませんよ。記事は完成してますから、ちゃんと佳代子さんに渡しました」

「さすがは千夏ちゃんね、おかげで新聞はもう完成済みよ。どっかの横文字大好き意識高い系締め切り守れない無能とは違うわ~」

「ちょっと待ってくれ。2人とも結構ひどいこと言ってるんだが」

「私たちは新聞部なんだから、真実を告げるのは当然でしょう。文句を言われたくないならあなたも早く記事を提出してね。ただでさえあなたの20000文字の怪文書を3000文字に解読するの、大変なんだし」


 相変わらずアレな伊能さんに、辛辣な様子の千夏と中岡さん。

 慣れているのかボコボコにされたことを意に介さず、眼鏡の位置を人差し指で直しながら、千夏に面倒臭そうな人特有の視線を向ける。


「それで、どうなんだ。先日の男子高校生の行方不明事件は」

「……あまり、そのことはここでお話してほしくないのですが」

「何故だ。バッファのある時間こそ記事のブラッシュアップに努めるべきだと」

「義彦くんはビジネススキルとかどうでも良いから、もうちょい人の話を聞くこと、空気を読むことのスキルを学ぶべきね。お邪魔しました~」

「いや、何が何やら……って、引っ張らないでくれたまえ!」


 呆然とする僕たちを置き去りにしたまま、外に出る新聞部の2人。


「あっ、そうそう。夕闇倶楽部の皆さんに今日の新聞をプレゼント~」


 と、その前に。伊能さんを蹴り飛ばした中岡さんが新聞を渡してくる。


「いや、別に要らないんですけど」

「まあまあ、そう言わずにね。もしかしたら何か閃きがあるかもよ」


 何やら意味深なことを告げつつ、今度こそ彼女は部屋から出て行った。


「なんだったの。あと改名してたのね、新聞部」

「無能先輩が言ってるだけですから気にしないでください。名前よりも本人の脳の構造を変えてほしいんですけどね」


 いつにも増して辛辣な千夏を傍目に、僕は新聞の内容を見てみることに。


『都内で男子学生、行方不明か』


 この記事が目に飛び込んできた。千夏が担当した記事みたいだ。

 大学の新聞で取り上げる内容だろうか、そう思いながら読み進めていると、どうやら行方不明になった人物は大学近辺の高校に通う高校生らしい。

 行方不明者の名前は……瀬川拓哉。友人と心霊スポットに行ったきり帰ってこなかったという。捜索が行われているが、未だに発見ならずのようだ。

 そして、行方不明になった心霊スポットの場所とは――


「噂の精神病院があった場所……」

「そういうことです。佳代子さん、そこまで見抜いていたとは」


 記事の話をしてほしくない、と千夏が伊能さんに伝えた理由もこれか。

 確かにその配慮は正しい。当事者である彼らはここに居るのだから。だけど、怪異が関係しているなら話は別だ。


「あんたには悪いけど、ちょっと話を聞かなくちゃならないわね」

「ダメって言ってもやりますよね、遠乃先輩は」

「ふっふーん、当たり前でしょ。おーい、聞きたいことあるんだけど」

「まあ、みなさんの頼みなら良いっすけど。なんすか?」

「2人が行った心霊スポット、病院跡での話を聞かせてくれるかしら」


 遠乃の言葉に、3人は動揺した様子で視線をあちこちに動かしていた。


「な、なつねぇから話、聞いてませんか?」

「聞いたよ。でも、本人から直接聞けてないからな」

「あの説明では不十分だった部分もあるしね。その辺もよろしく」

「ど、どうしようか、話しても良いか?」

「……うん、この人たちなら大丈夫な気がするし、良いと思うよ」


 真剣な眼差しの雨宮さんが僕たちに向き直ると、口を開き始めた。


「初めに、あの病院の噂話を持ってきたのは瀬川くんなんです」

「瀬川というと瀬川拓也か。行方不明になったという」

「は、はい。実は……」


 それから、僕たちは2人の話を聞いてみた。

 瀬川拓哉はいきなり新聞部のところに来ると、廃病院の噂を切り出したという。

 それは他の媒体では見つけられない噂。不透明な情報に、初めは疑ったものの、スクープが欲しかった新聞部の2人は話に乗ることに。

 2人と彼、一秋くんの知り合いの霊感が強い少女を連れて病院に向かった。

 そして、その場所で彼らは怪奇現象に出会ってしまった。ここまでは千夏が僕たちに話してくれた通りだ。


「と、いうわけなんです。それで瀬川も行方不明に……きっと怪物に襲われたからなんです! 誰も信じてくれなかったんすけど」

「それは分かった。でも、1番の疑問だけど。なんで神林がいなかったのよ。そういう心霊スポットに行くなら、真っ先に来ると思うけど」


 ……そうだ。これが疑問だった。

 今までの七星さんを見る限り、2人が危険に晒されそうなら何が何でも協力するはず。怪異という彼女の専門分野に近い存在なら、なおさらだ。


”友だちと一緒ってことか。つーことは。もう大丈夫になったんだな”

”えっ、えっと、まあ。あいつも色々とあったんだよ”


 本来なら不可解な理由。だけど、僕にはおおよそわかっていたりする。


「もしかして喧嘩していたのかな。君たちは」

「ど、どうして、それを!?」


 仲の良い思春期の彼女たち、それらが一緒に居ない理由。

 それは外せない用事があったか、それとも仲違いをして居辛くなったか。例外を除けば、2つのどちらかで説明ができる。

 決定打となったのは宏が口を滑らせたことだったが、これは黙っておく。


「あんたたちが喧嘩ねぇ。仲良さそうに見えるのに」

「向かう前の日に噂の話を葵ちゃんにしたんです。そうしたら“絶対に止めなさい”って。理由を聞いても頭ごなしで。葵ちゃんがあんなに怒るの初めてだから、驚いちゃって。それで私も意固地になって、それで喧嘩になっちゃって……」

「……あんな場所に行くなんて、やっぱり止めるべきだったのよ」

「ごめんね、葵ちゃん。でも、前から気になってるの。何で怒ったの?」

「え、えっと、止めなきゃと思って。楓や一秋くんが心配で、怖かったから」


 心配だった、そして怖かったから、か

 ――神林。歴史の隠された裏側で暗躍した高名な呪術師だという。

その末裔である彼女。実力が如何ほどかは分からないが、並大抵の怪異なら恐れないはず。現に炎失峠の怪異に巻き込まれた時も冷静だった。

 そんな彼女が恐れるもの。僕が知る限りではこれしか存在しなかった。


「七星顕宗。この人が関係しているのか」

「っ!!?」


 ――七星顕宗。彼女の祖父にして“神林”の呪術師である人物だった。


「異界団地の時も言ってたわね。“そいつ自身が怪異そのもの”とか言って」

「わ、私たちも聞いたことあります。葵ちゃんのおじいちゃんは悪い人って」

「……はぁ、そうね。あなたは“ノート”を見ていたのよね。ここまで見抜かれてたら、もう話すしかなさそうね」


 決まりが悪そうに髪の毛を弄ると、七星さんはジトりとした目で話した。


「わかったわ、話しましょう。あいつのこと、そして“幻死病”のことを」

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