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夕闇倶楽部のほのぼの怪異譚  作者: 勿忘草
第5章 炎失峠と幸福世界
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エピローグ マモリガミの謎は未だに

 H地区の森の中は、どこまでも暗い空間が続いていた。

 本来ならこの季節には若葉を生やす木々も、すべてが枯れ果て、朽ちていた。

 葉で上が覆われてないから空は見えるものの、曇り空で太陽は向こう側だった。

 ……おかしいな。幼い頃、僕が遊んだ時とは雰囲気がまるで違っていた。

 怪異の巣窟であるH地区。でも、謎や不思議に満ちていて幼い頃の僕には魅力に映っていたのに。


「まあ、時間が流れた内に変わってしまったんだな。……ここだって」

 

 どこか寂しい気持ちになりながら、ひとりでに僕は呟いた。

 今、僕はH地区に来ている。遠乃と離れ離れになってから熱が冷めたかのように興味が失せていた、この場所に再び訪れた理由は決まっている。


“コイツ……コイツニハ……マモリガミガ……ツイテイル……”


 マモリガミ。異界団地の件から度々聞いた単語。

 最初は異界内部で見つけた七星顯宗のノート。祠のこともそこで知った。

 そして、炎失峠の亡霊たちが言うには僕にはそれが憑いているらしい。

 あのときは荒唐無稽なことを、と思った。しかし、その時に起きた現象、そして今までのことから思い当たる節があった。


“あなたたちは揃いも揃って高いの。それも異常なほど。もはやそれが――怪異に思えるくらいに”

“それは、あなたたちが特別らしいからよ。怪異への強さが”


 何回か指摘された、僕と遠乃の怪異に対する抵抗性。

 確かにこれまでの怪異で、他の人に比べると受けた影響は少なかった。呪いのゲームの呪いも、魔本による支配が行われた時も。

 思い出せば、異界団地の時だって僕が自分を見失うことはなかった。

 でも、今まで明確な根拠がなかった以上、偶然だと僕は納得させていた。

 だけど“マモリガミ”なる得体の知れない何かという可能性が生まれている。

 だから僕は今日、真相を確かめるべくあの祠に向かうことにしたのだ。

 ちなみに遠乃には言っていない。話したら話したで面倒なことになるし、何より万が一のことがあった時、迷惑をかけたくなかったからだ。


「ここを抜ければ、いよいよだな」


 そうこうしていると、細々とした一層暗がりな道に辿り着いた。

 舗装がされてない、天然で作られた道は不自然なほどに真っ直ぐだった。

 10年も前の、朧げな記憶によると、この道が祠に続いているはずだ。


「……そういえば」


 そして、気になった。僕はいつからここに来なくなったんだろうか。

 遠乃が転校していなくなったからか。でも、それだけの理由で今まで散々冒険してきたこの空間を見捨てて、忘れ去ってしまうものなのか。

 むしろ思考に至らなかったのが不自然なほど、異様なことだった。

だけど、ここであれこれ考えたものの、明確な答えが思い浮かばなかった。

 それに思考中、頭の中に黒い靄がかかる感覚に襲われていた。そんな、嫌なものを振り切るように考えを止める。それと同時に、あるものを見つけた。

 到る所が錆付いて、周りの枯れ果てた植物と同化した、寂れた車椅子。

 それを見て……僕はどこか悲しいような、懐かしいような感覚が甦って。少しの間、じっと見つめていただろうか。はっと我を取り戻した。

 ……僕は何をしていたんだろうか。あんなもの、何もないはずなのに。

 とにかく、道を通り抜ければ、僕が目指している祠にたどり着けるはずだ。

 心の中からこみ上げる正体不明の感情を理性で押さえながら、無心で道を辿る。

 そうして、時計では5分ほど経過した後に道の先に着き、開けたところに出た。


「えっ?」


 だけど、その場所にあったのは……先ほどの車椅子だった。

 あんなものが何個も森に落ちているわけがない。見覚えのある光景から考えるに――僕は最初の場所に戻ってしまった。祠に続く、その道に。

 ……嘘だろ。もう1回だ。今度は走って道の向こうに向かった。

 靴の裏から感じる石や木の根に鈍い痛みを感じながらも足を止めない。肩で息をしながら、何かに追われているような強迫観念に駆られながら走った。

 だけど、結果は同じだった。あの空間、悠然と佇む車椅子が出迎えてくる。

 

――カー、カー、カー、カー、カー、カー


 そして、どこからともかく大勢の鴉が飛んできて、僕に向かって鳴き始めた。

 この道を遮るように、まばらに並んだ鴉たちは僕を鋭い眼光で睨んでいる。

 ……所詮は鳥。だけど、それを感じさせないほどの空気を張り巡らせていた。もしも僕がここで行動を間違えようものなら、取り返しのつかないことになりそうな。


“お前はこの場所に来るべきではない”

 

 そう言いたげのような、どこか被害妄想じみている感情が押し寄せて。

 僕は数歩後ずさって、その後は今までの道を戻ることしか出来ないでいた。

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