表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夕闇倶楽部のほのぼの怪異譚  作者: 勿忘草
第1章 呪いのゲーム
7/156

第6話 ロード再開

 ざー、ざー、と、強い雨の音が電車内にも聞こえてくる。

 電車の中は、出かける人も少ないのかまばらに席が空いている。

 静かに考え事をしたい僕には好都合だった。端の方の席で目を瞑った。

 考えたのは呪いのゲームのこと。この怪異は、未だにわかってないことが多い。

 呪いのゲームは何なのか? 雫や千夏がおかしくなったの何故か?

 ――呪いの正体とは何なのか? 現状では、全てが闇で見えなかった。


「……あれ?」


 そんな考え事の最中に電話がかかってきた。今度は誰からだろうか?


『着信 佐藤宏』


 ほぼ無意識的に、瞬間的に、通話拒否をしていた。

 そもそも電車内で通話をするのはマナー違反だ。そうだよな、うん。

 携帯をポケットに仕舞うと、ちょうど大学の最寄り駅へに電車が到着していた。

 乗る人が少ない駅のホームに降りると、もう一度、電話がかかってきた。

 ……流石に今度は出てやるか。いくらあの野郎が相手でも可哀想になるし。


「もしも――」

「おいこら! 出られるんなら一回目で出てくれよ!!」


 マイペースな彼の叫びに、思わず体から気が抜けた。

 この声の主は、佐藤宏さとうひろし

 僕の数少ない友人で、知り合いでは2番目に厄介な人物である。

 ちなみに1番は遠乃。この記録はこれからの人生でも塗り替えられないだろう。


「悪い、電車内だったんだよ」

『あ、そうなのか。でも珍しいな、お前が外に出るなんて』


 人を引きこもりみたいに言わないで欲しい。見た目以上に僕はアクティブだ。


「それで何の用だよ」

『いや暇だったらさ、俺がやってるFOを手伝ってほしかったんだよ』


 やっぱりな、と心の中でため息をついた。

 宏は三度の飯よりゲームが好きと自称する重度のゲーマーなのだ。

 自身の生活時間や生活費すら削ってまで費やしているようだから驚きである。

 人の価値観にとやかく言いたくないが、少しはまともな生き方をしろとは思う。


「……そんなにゲーム、とやらは大切なのか?」

『そりゃそうだろ! ゲーム、そしてレベル上げはゲーマーの命だぁっ!!』

「そうか。じゃあな」


 単純な電子音と同時に、通話は切れた。というか切った。

 あんな野郎に付き合うよりは、夕闇倶楽部の活動の方がちょっとだけ有意義だ。

 それに今の僕たちは大変な状態にある。抜け出すことなんてできなかった。

 だが、それにしても――


「レベル上げか……」


 ――呪いのゲームにもレベルがあったな。

 そんなことを思い出して、どこか暗々しい気分になった。




「遅い! もう少し早く来なさいよー!」


 二人のいない、寂しさが渦巻く部室には遠乃の姿があった。

 いつもと違って真剣そうな眼差しをしていたものの、同時に待ちきれないようにうずうずしているのが垣間見えてしまう、ちぐはぐな様子だった。

 まったく。どんな状況でも落ち着きが無い奴だな、こいつは。


「悪かったな。とりあえず、まずは説明をしてくれ」

「わかってるわよ。これを見てちょうだい」

「……お前は物を投げることでしか、人に渡せないのか?」


 彼女から投げ渡されたのは、数枚のプリントをクリップに止めたもの。


「何だ、この資料の束」

「一昨日集めた記事があったでしょ。それから関係あるのを抜き出したものよ」

「……けっこう大変だったんじゃないか、それ」

「そうよ。それで昨日は遅れることになったんだけど……」


 なるほど、昨日の遅刻はこれが原因だったのか。

 トラブルに巻き込まれてたと心配していたが、無駄な心配で終わったようだ。


「詳しい話はそれを読んでもらうとして。最初に確認したいことが1つ」

「…………?」

「『ブレイブ・アドベンチャー』についてよ」

「昨日の夜、調べたよ。20年前くらいに発売されたゲームなんだろ?」

「あら、その辺のことは知ってたの。あんたもやるのね」


 感心したように頷く遠乃に、僕は素直に喜べなかった。

 むしろ何故今まで調べなかったのかと自身の至らなさを反省してるくらいだ。


「調べたのなら、このゲームの末路は知ってるわね」

「問題が発生して商品回収、会社も倒産した。僕が見た奴はそう書かれていた」

「その通りよ。販売直後に回収されたんだけど。そうなった原因の1つが――」


 原因か、そこまでは知らないな。素直に気になったので言葉の続きを待つ。


「――そのゲーム、クリア不可能らしいのよ」


 頭が真っ白になった。それが今までの根底を変えるものだったから。


「う、噂とは別の話になってないか!?」

「そうみたいね。あたしも最初見た時はびっくりしたわ」


 記事では、呪いを解く方法はゲームをクリアすること。

 でも、そのゲームはクリア不可能になっている。

 それを言葉通り受け取るのであれば――すなわち、呪いを解くことは不可能。


「……何で、こんなに噂と事実とで違ってたんだ?」

「噂として語り継がれてくうちに付け足されたんでしょ」


 確かに噂は生き物だ。人の言葉や認識を介する以上、事実とは異なってくる。

 それはこの話に限らない。噂が人に話される内に変化をするのは幾らでもある。

 しかし、どこか変な悪意を感じた。こうも都合良く変化するものなのか?

 そもそも噂通りの情報であれば、やろうとする人は少なくなるはずなのだから。

 ……確証のない事をこれ以上考えても仕方がないか。今に目を向けよう。


「それなら、どうするんだ? これじゃ八方塞がりじゃないか」

「これから見つけるの! すでに人質が二人取られてるようなものなんだから。それに誠也も気づいてるんでしょ? これが単純な呪いではないことを」

「…………」

「そこには何かしらある。そして、その手がかりがあるのはゲームの中」


 真剣な顔で遠乃が見た先には、呪いのゲームが存在するパソコン。

 意図的に視線に入れないようにしてたけど、やはり向き合うことになるのか。

 覚悟はしていたが、雫や千夏を思い出すと嫌な気分になる。

 だが、投げ出すことはできない。それは僕個人の意志として、彼女たちを大切に思う1人の人間として、怪異を明らかにする夕闇倶楽部の一員として。


「さて、もう説明は終わりにしましょ。気合い入れて始めるわよ」

「その前に、念のため聞いておくけど……良いのか?」


 準備中の遠乃に、僕は答えがわかりきっていることを聞いてみる。


「何が良いのよ」

「お前はまだプレイしていない。呪われてないんだ。後は僕に任せても――」

「愚問ね、そんなことしないわよ。せっかく出会えた本物の怪異なのよ?」


 こんな状況なのに、楽しそうに不敵な笑いを浮かべる。

 それは、まるで好奇心旺盛な子どものような何かを思わせるものだった。


「でも、こうして二人で調査をするってなると……昔を思い出すわね」


 ぽつりと、遠乃が意味ありげなことを呟く。

 遠乃が言っている昔とは、僕たちが今より幼い頃、小学生の時のこと。

 あの時は今と違って僕は活発な少年で、その反対に遠乃は寡黙な少女で。

 一人で遊んでる遠乃を強引に連れ出し、よく心霊スポット探検をしていた。

 それが何の運命か、逆の立場で同じことをしている。人生とは不思議なものだ。


「それじゃ夕闇倶楽部――もう1回、調査開始よ!」


 怪異なんてどこ吹く風といった様子の遠乃が、高らかにそう告げる。

 それと同時に忌まわしき呪いのゲームの画面が点いた。

 おそらく今日で決着がつくのだろう。この怪異に潜んでいる謎が。

 その先に何があるかは知らないが、僕たちは怪異を追求し続けるだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ