第14話 やってきた急展開
あれから、あたしたちはおばあちゃんの家に迎えられた。
部屋の中は物が少なくて、座布団とちゃぶ台とかあって、いかにもおばあちゃんの部屋っぽいっていう感じがしていた。
そこであたしたちは3人揃って座ってた。さすがのあたしも人の部屋って落ち着かなく、そわそわしていた。それは他の二人も同じみたいだった。
しかも、ご丁寧にお茶も淹れてくれてた。ここまでされると申し訳ない気も。
「大丈夫だったんですか?」
「ええ。この娘が面倒を見てくれたからねぇ」
おばあちゃんがそう言うと、シズが照れくさそうに体を縮こませる。
もう、シズってば、恥ずかしがらなくてもいいのに~。良いことをしたら、素直に誇っていいのよ!
ちなみに、あの無能は疲れからか、さっきのあたしに掴みかかられたことが堪えてたのか、隣ですっかり黙っていた。うるさいいよりはマシよね。
「そういえば、聞きたいお話があったのよね」
「はい。ここの団地の4号棟に住んでたって、本当なんですか?」
おばあちゃんに聞かれたので、さっそく本題を切り出す。
ちょっと話を急ぎすぎてる気はしたけど、あの2人の行方がかかっているのだから形振り構ってなんていられなかった。
そんなあたしを、おばあちゃんは気にすることなく話し始めてくれた。
「そうよ。ちょうど40年前かしら。4、5年くらい生活していたわ」
今からだと1978年ぐらいか。随分と昔の話なのね。
「4号棟、そこでの暮らしってどんな感じだったんですか?」
「暮らしはどうかしらね、普通かしらね。色んな人が生活していて、今ではなくなっていたお店とかも近所で立ち並んでいて。もちろん楽しかったことは多かったわ。住民の中に変わった人が多かったから、たくさんの経験ができたわ」
……変わった人が、多かった?
普通なら出てこない感想に疑問に思いつつ、話を聞いていく。
「だけど1979年かしら、旦那と結婚して都心の方に引っ越したの。それからはずっとそこで住んでいたんだけど……あの人に先立たれたから戻ってきたのよ」
おばあちゃんの視線の先には小さな仏壇。きっと旦那さんのね。
年齢からして別におかしくない話ではあるのだけど、悲しいことよね。
とりあえず、今のところは至って普通みたい。住んでた時には目に見えて、変わったとこはなかったのね。それなら違った視点、詳しい部分を聞こうかしら。
「引っ越す前に、何か不思議なことはなかったですか?」
「そうねぇ。特には……あっ、引っ越す前に七星って超能力者が団地に来てたわ」
「……七星。それって七星顯宗!?」
「確か、そんな名前だったかしら。私、そういうのに疎いから」
まさか。ここで聞くとは思ってもみなかった名前で驚いた。
「と、とおのん。その人って誰?」
「昔、ちょうど40年前にいた超能力者。今は行方不明みたいなんだけど」
「へぇ。よく知ってたね、とおのん」
「小さい頃にね、誠也から教えてもらったのよ。興味なかったけど」
「……そうなんだ」
当時は有名だったけど、とある事件からインチキがバレて消えたのよね。
1979年って、確かその事件の1年後のはずよね。ほとぼりが冷めてない時に、こんな辺境の団地で何をやっていたのかしら?
「その七星顯宗は何をしてたんですか?」
「さぁ。引っ越すのが彼が来る前だったもの。講演を開く予定だったそうよ」
「講演、ですか」
果たして何を話すのかしら。しくじり先生ならぴったりだと思うけど。
うーん。考えたけど、思いつかない。考えるのは保留ね。というわけで、おばあちゃんの話も落ち着いたところで内容をまとめましょう。
ひとまず、この話から確証が持てたこと。黒羽団地の4号棟は存在する。
きっと、おばあちゃんの言葉に嘘はない。というか、嘘をつく理由がない。
おばあちゃんが住んでいた4号棟は今でも存在していて、誠也と千夏はその場所に囚われているはず。
自分の中で、ちょっとだけ嫌な気分が晴れた気がする。暴く相手が見えたから。
「それにしても、何でこんなことを調べてるのかしら?」
「えっ。え、えっと……」
と、あたしが意気込んでいた矢先に。
そりゃそうよね。いきなり聞かれて、おばあちゃんも気になるわよね。
どう答えよう。いろいろ考えながら、何とか取り繕う言葉を作り出した。
「大学の研究で、この近辺の歴史について調べてまして!」
「いや、君たちは――いがっ!」
そうした瞬間に口を挟んできた無能の腹を見えないように肘で打つ。
なーに考えてんの、このバカは! 本当のこと言えるわけないでしょうが!
なんて、心の内を晒さず、何とかおばあちゃんへの言葉を続けていった。
「研究の際に記録を見て、ここの4号棟のことを知ったんですが、他の人に聞いても情報を得られなかったので。偶然出会ったあなたにお聞きした次第です」
「そうなのよねぇ。他の人に聞いても、みんなそんなこと知らないって言うの」
「そうなんですか……?」
「それに、私も場所は思い出せないの。他のことは覚えてるのに不思議よね」
確かに、それなのよね。この怪異でトップクラスに不可解な現象。
その4号棟があったとして、なんで人々の記憶から消えてるのかしら。
仮にも建造物をそうそう忘れられるもんじゃないと思うんだけど。それも人々の記憶だけじゃなく、実際のデータにまで影響があるわけだし。
これも怪異よね。それも今回における最大級のもの。何故なのかしら?
「ここで、私からのお話これで以上かしら。お力添えになれた?」
とりあえず、ここでおばあちゃんのお話は以上。頭を下げてお礼をする。
「はい! 本日は貴重なお話、ありがとうございました!」
「いえいえ、私の方こそ荷物を持ち運んでくれて助かったわ」
「別に大した事ではないですから!」
まあ、荷物の大半を運んだのは無能野郎なんだけどね。ま、いいか。
「それにしても、私は幸運ね。こんなに優しい子たちに二回も会えるなんて」
「二回目?」
「昨日の昼かしら。小さな優しい高校生の娘が来たの。今日も来てくれる――」
「――おばあさん、お孫さん用のおもちゃを買って来ましたよ」
おばあちゃんの説明よりも早く、澄んだ声が耳に入ってきた。
その方向を見た。目に飛び込んだのは、青混じりの黒髪の少女だった。
クセのあるミディアムショートヘアで、その顔立ちは美少女といっても問題ないくらい綺麗だったけど、同時に生意気だとも受け取れる勝ち気な感じもしていた。
そんな少女の小柄な体型は、どこかで見たあの高校の制服で包まれていた。
手にはおもちゃが。大きな箱が、トイザ○スのビニール袋に入れられている。
そして、この少女で1番インパクトがあったのは、目に見えなかった。
――雰囲気。雰囲気がおかしかった。どことなく冷たく、謎めいている。
それは、あたしたちが幾度となく体験してきた……怪異が持つアレと似ていた。
要するに普通じゃなかった。そんな空気を漂わせる少女に、あたしとシズは慄いて、気づかない無能は首を傾げていると、少女があたしたちを一瞥してきた。
「この人たちは……なるほどねぇ、ここに来るとはさすがね」
「えっと、どなたなんですか、この娘は?」
「あら。葵ちゃん、来てくれてありがとう。おもちゃも助かるわ」
「これくらいお安いご用ですよ。今の男子小学生に大人気なTCGのツインヒーローデッキ、お孫さんもきっと喜んでくれるはずだわ」
……葵? その名前、どっかで聞いたことがあるような。
“そういえば葵はどこにいったんだ?”
“葵ちゃんから連絡。帰っちゃったみたいだよ!?”
確か昨日の高校生2人がこう言っていた。身に着けてる制服も同じだった。
「“葵”って茜ちゃんたちが言ってた友達のことだよね?」
シズもあたしと同じことを思ったのか、そんな声を上げる。
すると、葵という少女は目を丸くした。雰囲気もがらりと変わった。
「あ、あなたたち、茜に会ったの?」
「うん。昨日、この団地で。一秋くんだっけ、男の子も一緒だったよ」
「……あのバカ二人。あれだけこの場所には何もないから関わるなって言い聞かせたのに。どうしてあの手たちはわざわざ危険に突っ込みたがるのよ」
あたしたちの答えを聞いた途端に、そっぽを向いてぶつぶつ呟き初める。
その姿は呆れ半分、心配が半分という感じで。お母さんみたいだった。
さっきまでの雰囲気はもはや見事に壊れていた。この娘も人間ではあったのね。
「今日は流石に来ないでってLI○Eしとかないと、まったくあの子たちは」
「もしもーし。あたしたちのこと、忘れてない?」
「あら、ごめんなさい。それで、あなたたちは何でここに?」
「大学の研究でここの歴史を調べてるのよ。その途中で私を助けてくれたの」
「……へぇ。研究で、歴史を、ねぇ」
変な納得をしたような顔で、笑みを浮かべて頷く少女。
何よ。言いたいことがあるなら、さっさと言いなさいよ。と、思っていた矢先に少女があたしたちに口を開いてきた。
「研究だなんて、随分と真面目なことね。“夕闇倶楽部”の皆さん?」
したり顔で告げられた少女の言葉に、あたしの心拍数が跳ね上がった。
「何で知ってんのよ。あんたが」
「ハピネス・ナイトメア。ご存知よね? 店主が楽しそうに話してたわ」
「あいつか! 顧客の個人情報どうなってんのよ!」
その後、あたしたちの情報が漏れた犯人が浮かび上がってきた。
嫌味なニヤケ顔、胡散臭い髭、意味不明な言語。驚きが苛立ちに変わった。
まったく、そんなんだからあんたの店は年がら年中閑古鳥が鳴いてんのよ! ただでさえ少ない顧客、大切にしなさいよ、あのバカ野郎めっ!
「それにしては2人、あの地味そうな男とちびっこい子がいないみたいだけど……変わりに、なんかウザそうな男がぽつんと座ってるわね」
「こなっちゃんでも、あなたに小さいって言われたくないと思うけどなぁ」
「確かにねぇ。正直、どっこいどっこいよね、背の高さは」
「あの、ウザそうな男とは自分のことか?」
「他に誰が居るのよ。それとも、この娘が幽霊でも見てるって言いたいの?」
「……と、とにかく話を元に戻すけど! 居ないのよね、あの2人が」
「そーよ、悪い?」
責められてるようで嫌な感じがしたから、ちょっと強めに睨みつける。
葵だっけ、その少女はあたしの態度に目を細めて首を振った。
その反応もなんか腹立つ。カッコつけというか、厨ニ臭いのよね、この娘。
「というか、関係ないくせにあれこれ煩いのよ。あんたは」
「残念なことに、関係あるのよね。どうしようもないくらいに」
「なんで?」
あたしの問いかけに、待ってましたと言わんばかりに少女が答えた。
「――私は七星、そして“神林”の名を持つものなのだから」




