44/156
プロローグ 忘れ去られるナニカ
現代の社会は、目まぐるしく変化していく。
思想や技術、自分たちが住んでいる地域の環境だって同じことが言える。
数十年前は森や山だった大地も、今では無機質な建物が立ち並ぶようになった。
我々に不要なものは取り壊され、新しい何かが数ヶ月のうちに建てられていく。
――そして、現代の人々は変貌していくその光景を無意識に受け入れている。
寂れた商店がコンビニに、売れないお店が別のお店に、廃校が老人ホームに。
最初は物悲しさを感じつつも、数日もしたら我々は気にしなくなっているのだ。
それ自体は慣れたことによるもので、人間が持つ優れた認知機能だとは思う。
しかし、忘れてしまう、受け入れてしまう、というのは恐ろしいことでもある。
なぜなら本当は不合理なことでも、当たり前にしてしまえるから。
それに忘れられた場所が 人智の及ばない“異界”に成り果てたとしても。
日常を生きる人々の、誰も気づくことができないかもしれないのだから。
『夕闇倶楽部部誌 第四十巻 28ページより』




