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夕闇倶楽部のほのぼの怪異譚  作者: 勿忘草
第7章 偽欲なる自己像幻視(ドッペルゲンガー)
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第15話 人の意志は欲望をも超える

『おまエたちをこロしテ、ヨみガルんだ! ギシきはもウオワる!!』


 完全に怪異としての姿を現した“魔本”が僕たちに殺意を向ける。

 下手をすれば、誰かどころか全員殺される。直前に迫った現実の脅威に、この空間全体が形容し難い恐怖に包まれていた。

 こんな時、どうすれば良いのか。1人だけ、遠乃が堂々と“それ”を告げた。


「――誠也、アンタが盾になりなさいっ!!」


 普段なら無謀で突拍子もない命令。だけど、この状況では違っていた。


「わかってるよ!!」


 だけど、僕は言われるがまま……偽物に向かい、突進することに。

 言われなくても、そうするつもりだからな! 躊躇う気持ちはないんだ。

 ひたすら奴に、桐野さんに、魔法陣の中の魔本に、僕は全速力で突っ走った!


「こ、コイツ……!」


 だけど、力の差で吹っ飛ばしそうになりかける。予想外だった。

 そういえば、昨日。部活帰りの男子高校生の血が奪われた事件があったな。確かにその日、遠乃が投げつけたモノを受け止めたりしている。

 要するに、部活……おそらくラグビーとかアメフトとか、その辺りの男子高校生の力を持っていることなのか。偽物の癖に厄介な奴だな!


『オマえゴとキがカテルとおモッテイるノカ、オロカだな』

「だったら、さっさと僕を殺せば良いんじゃないか。愚かな僕を、キミが」

『こノヨユう、オまえ……まサか!? シってイルノか!!?』


 だけど、アイツの顔が驚愕に染まった。どうやら僕は正しかったみたいだ。


「キミに僕は殺せない。理由は魔本にそう記されているからか、それ以外か。だけど、僕を狙わなかった時点で何らかの縛りがあるんだろう」

『……こコマで、わカッテいルのか。バカドものクセニ』

「飽くまでキミは道具だな。願い、それに見合った対価があり、本に書かれたら何でもできる。逆に言えば――書かれないと何もできない!」

『……キサマッ』

「その辺りも、あの狂花月夜と同じだな。著者を超えることはできないしな!」

『コノヤロウゥゥゥッッッ!? フザけヤガッてェェェェェッッッ!!』


 僕の嘲るような言葉が効いたのか、殺せないことに苛立ちを覚えたのか。

 奴が怒り任せに突っ込んできた。避けられず、飛ばされ、壁に叩きつけられた!

 

「――がふっ!」


 体から空気が抜ける音と感覚。全身を駆け抜ける痛みが僕を襲った。

 傷口が、焼け爛れそうな熱に覆われる。血が流れているような感覚もあった。


「せ、誠也! 大丈夫なんでしょうね!!」

「僕は大丈夫だ!! それよりも――」


 だけど、このいざこざでアイツの視界から桐野さんが外れている。

 激痛と衝撃の中、そのまま間髪入れずに彼女のところに向かうことにした。


「――桐野さん!!」


 倒れている彼女を抱きかかえ、油断したアイツから距離を取ることに。

 そして、奴の死角でひっそり近づいていた遠乃と秋音たちに引き渡した!


「……どうして」

「ほら、さっさと立ち上がる! アンタの面倒は見切れないのよ」

「……どうしてルリルリを助けてくれるの。ルリルリは、あんなに」

「安易な気持ちで怪異に触れ、人様に迷惑をかけ、最終的に無残な末路を送る。普通なら王道パターンよね、創作でも現実でも」

「…………」

「だけど、あたし――あたしたち。“そういう理不尽”が大嫌いなのよっ!」


 “怪異を暴き出し、理不尽を超える”。魔本が最初に否定した、言葉だ。

 それを否定し、奴の目論見を打破してやる。僕らが思い描いた通りだな。

 そして“桐野さんを助ける”という目的は達成された。残りは魔本だけだ!


 だけど、アイツを倒すための本当の闘いはここからだった。

 用済みだった以上、桐野さんは放置していたものの……魔本はそれこそ奴の心臓部分だ。文字通り死ぬ気で守ってくるはずだ。


『オまえラ、オマエら、ダマシやガッテ! ヤハリジャマをスるのカ!!』

「ほら、秋音はゴスロリ女を連れて逃げなさい! あたしたちが何とかするから」

『オマエヲ、コロシてヤル!! コロシテヤるンダァァァァァ!』


 ほんの前まで存在していた余裕は、完全に消え失せたようで。

 あからさまな敵意と殺意を、目的の遠乃と秋音のところに向けた。

 桐野さんを抱えている状況で、これは!? 僕が、どうにかできるか!?

 

 だけど、僕が考えるのもむなしく。奴の凶刃が彼女たちを襲おうとして――遠乃が秋音の前に入って――えっ、右手をナイフに刺させた!?

 僕も、アイツも心臓が止まるほど驚いたのに対し、遠乃は笑みを浮かべていた?


「ナイフはどっかに突き刺さってしまえば、他の場所は刺せないわよね」

『なンデ、ヘイキなンだ。イタクナイのカ、コわクナイノカ!?』

「……痛いわよ、怖いわよ。だけど、それだけしか思えないのよ。あたしは」


 怪物が怯んだところを、すかさず遠乃がナイフを奪い取り、床に捨てた。

 幸いにも刺さったのは手の端だけど……鋭利な切り傷から血が流れ出ていた。


「と、とおのん……? 手にナイフが刺さって……!?」

「シズは秋音のフォローと救急車! それまでにあたしたちが終わらせるから!」

『コノヤろウ、フザケタたマネヲシヤがッテ!!!』


 だけど、刃物を奪い取ることを諦めた偽物が遠乃を直接、殺しに行った。

 右足で遠乃の体を仰け反らせ、まともに動けないところを奴は迫ろうとする。

 ……マズい。このままじゃ遠乃が。アイツが、僕の、大切な幼馴染が――!?


「――遠乃!!?」


 僕が大声を上げ、偽物が狂喜の笑みを浮かべ、遠乃が目を瞑った、その時。


 

 ――偽物の体が、遠乃から弾き飛ばされた。何かから守られたように。



 そのまま床に投げ出されると、偽物は何故か――途端に苦しみ始めていた。


『ウギャア、な、なニが、アアアアア、ウギャアアアアアアア』


 ……今、何が起きたんだ? 遠乃が何かを起こしたのか?

 僕も遠乃も、この場の誰もが何が起きたのかわからない状況だった。


『ナにヲ、シタ、ナニガオきタ、ナニヲヤッタンだ、オマエは!!?』

「あたしが知りたいんだけど。そんなこと、言われても」

『ば、バケモノ……! オマエはバケモノだ……!!』

「そりゃどうも。だけど、あたしに気を取られてて大丈夫なの?」


 偽物がハッとなり、僕を……正確には魔本が存在する場所を見た

 そうだ、僕はアイツが遠乃と争っている時に僕はやることをやっていた。

 魔法陣と魔本は、すでに僕の目と鼻の先。すぐにでも魔本をどうにかできる。


『ア、アハハッ、ヤメロ、ムイみダ!! ナマみノヒトジャ、ハイレなイ!』

「……それは、どうかな」

『ムイみダ! そレニ、マタページヲヒキサいテモ、ナンドでモ――』

「残念だけど、今回は完全にキミを消滅させることにしたよ」


 あの中心に怪異の真実が、すべての元凶が存在するなら止まる必要はない。

 まるで1つの生命体であるかのような魔方陣だった。赤い線が不気味な光を放ち、線が小刻みに揺れている。陣の内側に、僕は足を踏み入れた。


「……っ!?」


 突如、体が重くなり、黒い何かが体内に入るような錯覚を覚えた。

 強大な、不吉なナニカでここは染まっていたのか、見えない存在が僕を襲う。……だけど、耐えられるものだった。僕に“アレ”があるなら。

 飲み込まれるほど強大な闇を抜け、魔本に近づき――ライターを取り出す。

 家から持ってきた、ターボライターと呼ばれる代物。もちろん目的は1つだ。


「ここが工事現場で良かったよ。何かに燃え移るような心配はない」

『オ、オイッ!!! ヤメロ、ヤメロ!!!』

「これで復活はできない。キミの存在は何も生まない、これが正解だね」


 何かを喚きながら奴は僕を止めようとするけど……もう遅かった。

 魔本に火を付ける。魔本の紙が燃えそうな素材ということは知っていた。


『ギャアアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!!!』


 空間に響き渡った絶叫。僕の偽物は――燃えて、苦しんでいた。

 藻掻き、苦しみ……やがて手の先が、足の先が、体が、顔が黒い灰と化した。


『アアアアア……ヤメロ、ヤメロ、アアアアアアア』

「……散々手を焼かされた魔本の終わり、あっけないわね」

『アアア、アアアアア、アアアアアアアアア、アアアアアァァァァァァァ』


 言葉にならない呻き声を上げながら、奴は黒い何かの粒に消えた。

 そして、空間の不調和も、床の血肉も、魔法陣も。すべてが消えていた。

 

「終わった、みたいね」

「……ああ」


 張り詰められた体内の緊張が急激に抜けて、床に崩れ落ちた。

 思いがけず遠乃と目を合わせてしまった。良かった、彼女が無事で。


「誠くんにとおのん、桐野さんを病院に連れて行かなきゃ!」

「わ、私が呼んでおいたよ。救急車、すぐに来てくれると思うよ」


 そういえば、そうだった。ケガをしてたんだ、忘れていたよ。

 朦朧しかけている意識の中、僕は彼女たちを見つめていたのだった。

「桜坂高校、新聞部!~事件のオカルト事情は複雑怪異~」

小説家になろうで投稿開始しました!ジャンルは現代ファンタジーです!

高校生組の出会いや青春、怪異との対決に興味ある方は、ぜひ!

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