その98.落ち着くんだ僕……本当に落ち着いて下さい、ていうか勘弁して下さい……
そんな恥かしがっている僕等知らずに縁はズンズンと前に進む。
何も見えない僕は、引きずられるように付いて行くだけ。
縁が入る前に、意味深に言った『男女で』を、つい考えてしまっている自分が居る。
こんな暗い部屋で何をする気なんだ!?
しかも男女で無いと入れない、つまり男女でないと出来ないこと……
ウワワワワワワワ!! 待て! 何考えてんの僕は! 落ち着け! おーちーつーけー!
いやいやいやいや、しかしね!こちとら健全な男子高校生ですよ! 考えるのは仕方が無いかもですよね!!
「あ、あのー、ゆ、ゆかりさーん?」
堪らず、声を掛けていた。
「んー?」
結構適当な相槌が返ってきた、こっちはこんだけてんぱってんのに……なんか腹立つな。
「こ、ここってなんなの?」
僕の気になる質問に、あっさりと縁は答えた。
「……皮膚と皮膚が触れ合ったりするのを楽しむ所?」
…………。
て! うぉーい!! 何あっさり言っちゃってんだよ! 一瞬頭がフリーズしたわい!
あ〜! もうなんなんだよぉ〜! 朝っぱらからコレ!?
「と、!?」
そんな状態の僕に、突然柔らかい物が目の前にぶつかった。
サラサラとする良いにおいのする者が僕の顔の直ぐ下にある。
瞬時に、それが理解出来なかったのだが、それが立ち止まった縁だと直ぐに理解する。
そして僕はその縁に気づかなかったのだ。
うん、ヤバイ。
過去に不可抗力で抱きついてしまった時にはぶっ飛ばされた事がある。
先程までのピンク色のモヤモヤは吹っ飛んだわけです、ええ。
恐怖で僕の顔は赤面から真っ青に。
「ご……ごめんなさい」
くっついたままで失礼なのだが、暗がりで下手に動けない。
なにか、頭に向かって謝っているようだ。
しかし、謝っておかねば、どれ程のパンチが来るか! 少しでもパンチ力を弱めようと必死です、こちとら。
え? もうパンチが来ることは前提ですが何か。
しかし、気を張っている僕にいつまでたってもパンチは来なかった。
「あ、あのさ……」
縁の掠れた声が聞こえた。
気恥そうな、何かに抵抗しているような必死な感じの声だ。
「耳元に息掛けないでよ……」
は?
「そ、そんなつもりじゃ無いんだけ、」
言い切る前に、目の前の縁が身震いした。
「ひぅっ!」
僕の弁解の声と共に、縁の口から引き攣ったような声が漏れる。
「だ、だから息掛けないでよ!」
縁の握っている僕の手が強く握られる。
縁の熱くなっている体温が手から伝わってくる。
さっきの僕はこんな感じか……。
つまり、僕が今ここで喋ると縁の耳に息が掛かり、殴るとか、それ所じゃなくなるようだ。
…………最強と思ってたけど、耳が弱点だったのか。
縁の意外な弱点を見つけた。
って! 耳元に息吹きかけるって……僕は彼氏か! いや、違うけどね!
何を自分でボケて自分で突っ込んでるんだ、等と慌てて考えると頭を抱えてしまう。
さっきまでのプロレス技かけてくることよりこっちの方が女の子っぽいわ!
勘弁してよ……。
というか、いつまで僕等はこの状態なのだろうか。
直ぐ下から、シャンプーの良い香りがしてきて、意識してしまう。
ドキドキするわ!
「ドキドキするね……」
と、僕の考えた言葉と全く同じ言葉を吐きやがった。
「え、え?」
つい、慌てて聞いてしまう。まさか縁がそんな事を言うとは思わなかった。
「横に来てくんない?」
縁のそんな言葉に、カチコチと固まりつつも、慌てて隣に移動する。
や、やばい……何緊張してんの僕、落ち着け、落ち着け!
暗い闇の中、まるで僕等2人だけのようで、仕方なくないですか? 緊張するの!
視神経が使えない分、異常なまでに身体中の神経が逆立っている気がする。
だからこそ余計に手を握っていたり、縁が横に居ることが……気になる。
「後、10秒……」
ボソッと縁はそう呟いた。
…………? 10秒? なんの話だろうか?
もうすぐ100が近いですね〜
というか、最近友人との会話やってないなー……次辺りに久々にしようかな〜……
ま、誰が見てるとも知らないけど、みたいな!?(芸人)