その86.それが恥かしいかどうかなんて人それぞれでしょーが!僕は恥かしい側
「なにやってんの?」
まずは近くで小さくなっているサクに向けて。
「……」
しばし沈黙。
「私ハ石デス、サク、等トイウ、イケメン、デハ、アリマセン」
どうしよう、思った以上に彼は馬鹿らしい。
何故にカタコトとか、もう突っ込むのも嫌だ。
石を無視して僕の視線はミホに。
「アレか、情報収集か、ミホ」
アハハハー!と笑っている。
だが今更笑いで誤魔化せるとは思うなよ。
「で、でもさ!」
何、僕結構怒ってますよ!?。
「決める所は決めてよ」
そこで満面の笑みを向ける。
「き、決めるって、な何を?」
イ、イカン!口が周らない。
というか、有利なのは僕の筈じゃ!?
「解ってんでしょー?」
そう言いながら僕の背中を押してくる。
な、なにすんの!?
ミホに押され、縁と真っ直ぐに対面する形に。
う……、身長の差で縁は僕を若干だが、見上げる形になる。
本当に告白みたいじゃないか! やめてよ! 僕はクールでシャイボーイで。
ん? クールでシャイって矛盾してる?
「あんな一言に、そこまで緊張する?普通」
ミホの呆れた声に、殺意を向けたい。
君が普通と思うことは僕には辛いんですよ!
というか、なんで縁が聞こえて無くて君に聞こえてんの。
無言でみつめないで縁さん。
なんか言って、緊張するから、ボロクソ言っていいんだよ?マジで。
だけど、僕の思い空しく彼女は何も言わない。
僕が言う言葉はね、確かに簡単な言葉だ。
だけど、僕にとっちゃ、でっかい言葉なんだ。
僕みたいな根暗な奴が発しちゃ、いけないような言葉の気がする。
僕は君じゃない、君が簡単に言う言葉は、僕にとっちゃ言い辛い言葉。
純粋にみつめる二つの大きな瞳。
真剣な表情に、君は何を思っている。
……言えばいいんだろ。
「友達だから……」
「へ?」
何故聞こえない。こんな恥ずかしい言葉を連発させないでくれ!
「友達だァ! と! も! だ! ち! 聞こえた!? ヒアーユー!? アンダスタン!?」
もうどうにでもなれ! もうヤケクソだオラァァ!
僕の大声は廊下中に響き渡る。顔は真っ赤だろうさ! これで聞こえて無かったら焦るわ!
「ごめ、アタシ英語は……」
変な所に食いつくなァァァ! 嫌、前の部分に食いつかれてもアレですが。
「んだよ、告白じゃねーのか?」
!? 君は石なんじゃないの!? というか! 告白!? 告白て! そんな恥ずいこと出来るかァ!
ミホが満面の笑みでサクの隣に行くと、足を上にあげて、思いっきり足を下した。
「あっだぁ!」
サクの悲痛な叫び声が廊下に響き渡る。
どうやら思いっきりミホが足を踏み潰したらしい。
取り合えず、ナイス! ミホ!
「早句間っち〜? ちょこ〜っと黙ろうねぇ?」
笑顔ながらも何か声に怒りがこもっている気がする。
「アッハッハー! そっちで続けて続けて〜?」
まぁ、取り合えずミホの言葉に甘えることにする。
「ま、まぁ、と、友達なんだからさ?」
恥ずかしいけど、精一杯頑張ってます! ものっそい頑張ってます!
「? 友達だけど?」
がぁぁぁ! 簡単に言うなよ! 僕が精一杯言ったのがバカみたいじゃん!
そうだ。君は簡単に言える。
サクだって良くもまぁ繰り返し言えるもんだ。
「心配するのは、当り前だろ?」
しどろもどろする僕に、縁は、何を考えたのか、小さく笑い声を上げた。
「も……もしかしてそれ言うだけで、あんなに時間掛けたの!? ップ、アハハ!」
いかにも馬鹿馬鹿しい、と言った具合に、縁は声を上げて笑っていた。
「ぼ! 僕にとっちゃ結構恥かしいんだよ!」
僕は君と違って常識人なの! 凄く恥かしいの!
「ごめんごめん!」
笑いながら謝られてもムカツクだけなんだけど!
「でも」
そこで区切って縁は本当に、嬉しそうに。
笑った。
満面の笑み、太陽のような輝きを放っている気がしてくる。
言い過ぎだろうか? だけど、さっきの笑顔よりかは、ずっと良い。
「すっごく嬉しいよ、へーじ……」
恥ずかしくて、つい目線を逸らす。
この子は一直線だから困る。
何で君は恥ずかしなくハッキリ言えるんですか?
恥ずかしくて死にそうじゃ!このヤロー!
「アッハッハ! 良い話のとこ悪いんだけどちょっと構わんかね?」
突然、ミホが割って入って来た。
「ゆっかりちゃーん! ゲームの勝者として! へーじに命令する権限が与えられまーす!」
そう高らかに言うミホは、縁の腕を取って上にあげると勝者であることを示す。
と、いうか……忘れてた!!
「ちょ、ちょっとミホ?」
困惑しながらも必死で弁解を考える。
「何かな何かなー?」
満面の笑みのまま、縁の上げた手をプラプラとさせていた。
縁が若干困った表情で「あの、水歩さん?」とか言っていたが気にしない。
「僕にさっきのは無しって言ってたような、言ってなかったような……」
「何言ってんのー?『ゲームはゲームだ』とか、下駄箱の所で私らと別れる前にカッコ付けたこと言ってたクセにー!」
言いましたよ! 言いましたけども! 若気の至りというかなんというか、やっぱり無し、とかヘタレたこと言っちゃ駄目かな、やっぱ。
「え? 何の話?」
「わー! わー! 僕の負けです! 僕はゲームに負けました!」
君はこの話に入ってくるな! 今思うと僕はクズ女共にかなりこっぱずかしい言葉を言っていた!
穴があるならジェット機で突っ込みたい気分ですよ!
そこで気づいた。
縁に楽しそうにじゃれついているミホが、あからさまに僕に向けて妙な笑みを向けたのだ。
こ、この女ァァ!、それを察した上で、今のタイミングに言いやがったなァァ!
クッソォ……、縁が居るから、暴言の抗議が出来ない!
何故なら説明する形になってしまうから。
縁に態々あの時のことを言うのはあまりにも忍びない!
「オラ! なんでもいいから言えよ!」
半ばやけくそ……いえ、完全にやけくそです。
「煮るなり焼くなり好きにしろい!」
「え? いいのか?」
お前は反応するな石!
僕が思いっきり睨むと石、基。
サクはうっ、と詰まった様な寂しそうな表情を見せた。
君が悪い!
「え、えっと……?」
? 考えて無かったのか?何でそんな戸惑ってるんだ?
「ホラホラ〜! 縁ちゃん! 何でいいんだよーん? 今ならー、ひざまづけ! 三回周ってワンと言え! この駄犬が!! 、とかでもいいんだよん?」
「それはちょっと……」
縁はそう言って、困ったように笑ってみせる。
うん、良かった! 君に変な趣味が無くてほんっっっと良かった!
「おい! 縁! 悩んでんだったら、その権利俺にくれ!」
調子に乗ったサクの発言に、僕とミホの反応は素早かった。
「君は!」 「あんたは!」
「「だぁっとれ!」」
若干、お互い訛ったようだが、二つの声がサクに向けられる。
なんというチームワーク! ここらへんは君とやっていける気がするよ!
サクはというと、僕等の言葉が余程ショックだったのか、隅っこで嘆いている。
「さってと! 気を取り直して?」
完全にサクを無視して、ミホは縁に向き直る。
「じゃ、じゃあ」
僕への命令権を使う気になってくれたらしい。
実は僕はそこまでビビッていない。この子のことだ。
どうせ正義のお手伝い、とかそこらへんで終わるだろう。
「今度の日曜……買い物に付き合って?」
ん?
縁の言葉に、僕は固まった。
そして何故かミホも固まった。