その82.君が出来ないことは僕に出来るかもしれないんだ…多分
僕はミホとサクとは下駄箱で別れた。
忘れ物を思い出したのだ。
アレだ。決して縁が気になったとかじゃないから、本当忘れ物だから。
偶然通りかかっただけであって、だな。うん、
そして忘れ物も何を忘れたかすら忘れた。
僕がこの教室に来た時、既にドアは開いていた。
ドアから見える教室に一人、佇む女の子が見えた。
いつもの傍若無人ぶりは無く。
唇を噛み締め、目が光って見えた気がする。
そんな彼女は小さな女の子にしか見えない。
縁が何か言っていた気がするが気にしない。
僕と縁は2人で掃除を始めた、
と言っても、縁は大部分終わらしていたらしく、既に綺麗だ。
一人でやったんだ……。
無言で箒を掃く縁は俯いて、顔を上げない。
まるで子供だ、高校生とは思えない。
妬みや、嫉妬なんてものを今迄知らなかったのか?
そんなこと無いだろ。
でも、この子にはその可能性があるのだ。
それを可能にする力がある。
本人が意識しなくても、その力が黙らせる。
その真っ直ぐさに、目を背かせる。
彼女にはそれが可能な特色がある気がする。
今は、見てるだけで辛そうだ。
じゃあ、どうする。
この子はこの先、何度もこうやって俯くのか?
……ッハ、そこんとこは兄貴とそっくりだね、縁。
大人の男を薙ぎ倒す力を持ちながら、心はあまりにも弱い。
まるで子供のようだ。
悪口を言われて泣く小学生と変わらない。
彼女は自分の守り方を知らない。
だが、守り方を「知らなかった」としても彼女は他の人間みたいに守ることを「しない」だろう。
彼女は言葉で自分を守ることが出来ない。
それは、自分を守ろうとする言葉が彼女の信念(正義)を汚す可能性が高いから。
自分を守る為に言葉で別の人に押しつける。
言うなれば、カゲグチだ。
……めんどくさい信念だな。
自分を守ることも出来ない正義なんざ、僕からすりゃマヌケそのものだよ。
じゃあ、どうする。
誰かが守らなくちゃいけない。
ミホは僕に言った。
『あの子は守らなきゃいけない』
と、
何故僕に言ったのか? と、ミホに聞いた。
『自分で考えろ』
ミホはそうも言った。
力も何も無い僕に、何故言った?
それは力以外で僕が彼女を守る事が出来るから。
僕しか出来ない守り方が。
あるから。
僕が、彼女を言葉で守ることが出来ると、考えたのか?
……それこそ無理だ。
僕は汚すことは出来ても、言葉で守る何て。
結局は彼女のめんどくさい信念に触れることになる。
触れないようにする守る為の言葉なんざ上辺だけの偽善者的な言葉に過ぎない。
僕が言えば尚更だろうな……。
大人しく箒を掃いている縁の後ろ姿を見る。
バカみたいに落ち込んでら。
「何、バカみたいに落ち込んでんの」
守ること何て出来ない。きっと。
でも、グチ位なら幾らでも聞いてやる。
というか、それぐらい言えるようになれ。
アホ。
偶には正義なんて忘れるといい。
「へーじ……」
夕日の方を向いていた縁は振りむいた。
赤く照らす夕日が縁の黒髪を赤々と照らす。
悪口とか、嫌味とか、そんな言葉が浮かぶよりも。
綺麗に見えた。
と、思いきや、縁が空中を飛んだ。
…………は?
「誰がバカだ!」
その叫び声と共に、久々の膝蹴り。
「ごっふぅ!?」
予想外の行動に、見事顔面に命中。
え!? 今の流れソッチ!? ちょ! 最初の僕の気持ちを返せ!!。
「悪口は〜……正義に代わって悪・即・斬!」
正義に代わって、って!! 意味わからんわ!!
何で決めポーズ!? やばい! 鼻痛い!!
「鼻が……鼻ぐわァァァ…」
諸に入った。
痛い! 痛すぎる!! ミホの平手打ちなんて無かったような気がしてきた!
夕日と同じくらい赤い鼻血が、折角掃除した床に落ちる。
「あー! 折角綺麗にしたのにー!!」
「君でしょーが!! 何で僕が悪いみたいな言い方すんのさ!!」
チッキショォ! ちょっとでも僕が思いやりを感じたのがバカだった!
いつもどおりじゃん!! というか、君も今日一日ストレス溜まってたでしょ! 明らか!!
今の一撃にたっぷりのストレスが込められてたわ!!
僕が求めたのはグチです!膝蹴りは求めて無い!!。