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その75.御淑やかなお嬢様と心が広い好青年 『そう、これはゲーム』

 暴力熱血女、もとい縁は、裏庭にある焼却炉の前でしゃがみ込み、隣にもの凄い大量の新聞紙が置いてあった。


 そうか、新聞紙を頼まれた馬鹿は君か。

 ……。どうやら縁も僕と同じ状況らしい。


 縁はいち早く気づくと、慌て立ち上がる。


「あ、あらー! へーじさん? 御機嫌よう」


「ッブ!」

 ヤバイ! つい吹いてしまった!

 ひきつった笑みで如何にも無理をしている様子は笑える。



「な! なによ!」

 僕が噴き出すと同時に顔を真っ赤にして素に戻る。

 自分でも恥ずかしいらしい。


「志保ちゃんは?」

 そんな縁を無視して監視役の志保ちゃんが居ないことに気づく。


「志保さんは委員会のお仕事でいらっしゃいませんわ?」

 さっき素に戻ったのに、慌ててお嬢様に戻っている。


「……っぷ・・ぶぷ!」

 相手は真面目なんだ! 堪えろ! 僕!


 縁がそんな僕を明らかに嫌な顔をして見やがった。


「アタ……わたくしは誰かさんと違って、監視役がいなくても正々堂々と戦いますわ!?」


 っむ……何だよ!その僕はミホがいないから何時も通りにしてて卑怯だ!と言わんばかりの言い方は!!


「そ、そんな事は無いと思うけどな!?」

 そう言いながら満面の笑みで完璧なる好青年を見せてやる!


「ぶっふぅ!?」


 ……このやろう。吹きやがったよ。

 そーかそーか、さっきの僕はそんな感じかこの野郎。


「で? 何をやっているんだい?」

 ああ、笑顔がめんどくさい。


「新聞紙を焼却炉に捨てるのを頼まれたので、火に入れている所ですわ」


「へぇ」っと、僕はどうでも良さそうに呟いた後、この寒空の下、縁の赤く冷えた手を見て先程の女達を思い出した。


 ……。

 この暴力女は知っているのだろうか・・? 君キモイとか言われてたんだよ? 

 バカみたいな勝負初めて、志保ちゃんがいないのにソレでも馬鹿みたいなキャラして、大量の新聞紙何ざ、真冬の昼休みに頼まれて、『いいよ』、何て良く言えるよね。

 ……やっぱり馬鹿だ。


 ……。

 君はもっと……人をみて頼みを聞いた方が良い。

 人に頼まれるのを悪いとは言わない。

 だが、あんな女の頼みを聞く君は、僕から見たら、本当に馬鹿だよ。


「あのー。さ……」


「何かしら?」

 バカみたいなお嬢様口調で振り返る縁。


 ……、どうしたもんか、言った方が良いかなぁ。

 いや、言った方がいいな。チクる……っていうか自分のカゲグチ何て聞いて楽しい物だろうか

 ……イヤイヤ楽しくは無いだろうさ、でも知らなきゃいけないことだってある。

 君にどう思われようと知ったことじゃないけど、あの女のことを言えば、少しは懲りるだろうさ。


「君、陰口言われてたよ? その新聞紙を頼んだ女子に、バカみたいに笑ってた」

 女の子にこんな事を言うのはあまり関心しないとは自分でも思う。

 そして笑顔全開だから嫌味臭さも満点だろうさ。


 だが、僕の言葉にショックを受けた様子は無く。

 短く、彼女は言った。


「そっか」


 え? それだけ……?


「いいの?」

 僕の言葉の後、縁は思いっきり僕に笑顔を向けて言った。


「アタ……わたくしは、お礼が言われたくてやっているつもりはありませんわ? わたくしがやりたいからやっていますのよ?」


 ……。やっぱり……君は馬鹿だ。


 本当に馬鹿だ。

 僕は……悪口を言っていたよ? 

 って、言ったんだ。

 僕を睨み付けるわけでも無く、悪口を言っていた女を罵るわけでも無く。

 彼女は、


 笑った。


 縁のクラスの人間たち何て知らない。

 だが、正義を語る人間に皆が共感する何て思えない、寧ろあの女共の様に鼻で笑い、馬鹿にした様に見る人間の方が多いだろう。

 なのに、何故、彼女は正義を語る? それを手助けと思える? 

 ……唯、利用されてるだけだろーが。

 それが…解んないのか?


 だけど、何でそこまでするかは……

 ハッキリとした意味、いや、意味何て答えの様な言葉じゃないもっともっと、中途半端で解り難い物。


 それは彼女の信念。



「……バカ女」

 つい、そう小さく零してしまった。


「……え?」

 彼女には聞き取れなかったらしい。

 それで良い。


 大きなため息と共に、しゃがみ込む縁の隣に同じ様にしゃがみ込む。

「な、何でございましょう?」

 その口調にも慣れてきたよ。


「僕も手伝うよ、こんな量の新聞紙……一人でやってたら昼休みまでに終わらないよ」

 笑顔のままそう言う。

 僕の言葉に、猫目が大きく見開き、目をまん丸にする。

 一言で非常に驚いているのが解る。


 ……ハッハッハ、そんなにオカシイか。こ奴め。

「よ、よろしくてよ!? わ、わたくし一人で出来ますわ!!」


「ハッハッハ! 冗談はその口調だけにしたまえよ」

 っう……チョット睨んでる。怒っただろうか?

 だが、僕は気づいていない素振りで続ける。

「いくら君に力があろーが、この大量の新聞紙を焼却炉に突っ込むのに必要と、お思いかい?必要なのは以下に無駄なく行動をするか、そして人手」

 その後、僕は小さく付け足す。

「……だろ?」


「で、でも、アタ……わたくしは、一人だけで結構ですことよ? それに、へーじ……さんもお昼休みが無駄になりますわよ?」


 ……ここまで説明させておいて、まだ一人でやるつもりですか。君は兄貴よりかはマシな方だと思ってたけど。


「それに……」

 そう言って、縁は表情を曇らせた。

 その意図は、僕には掴めない。


「へーじ、が?」

 そう、小さく言った。

 そうだ、僕は本来そんなことをするような人間じゃ無い。

 だけど。


 僕の好青年な飛び切りの笑顔を見せる。異論? 存分に。

「悪いけど、今の僕は『凄い心の広い爽やかでつい人を手助けしてしまうお人よし!』らしいからね」

 そう、これはゲームだから仕方がない。この暴力女を助けるのは仕方がない。

 そういうわけだ。

 本当は嫌なんだよん? ミホの真似……え? キモイ? ……さいですか



「ま! そう言うことだからさ、悪いけど好青年でいさせてくんない?」


 そう言って勝手に大量の新聞紙に手を掛けようとする。

 ゲームには負けれないしね。ミホからあの写真を取り返すために!!

 っていうか……。



「……っう、」

 無意識に詰まったような声が漏れた。

 思ったより本当に多いな……良く一人でこんだけここまで持ってこれたもんだよ。


「へーじ……さん」

 そう言って隣にしゃがんだ僕を呼ぶ小さな声。


「何」

 そう短く言いながら直ぐ横を振りむいた。




「ありがとう」

 そう言った。

 彼女は満面の笑みを、僕に向けていた。


 ありがとう……?

 だから……僕は……ゲームだから……仕方なくだって……。


 アレ?


 ……お礼? 僕に?



 ……馬鹿女。


「ありがとう」

 無意識に言葉を発していた。

 反射的に、

 僕がお礼を返したのを再びキョトンッと驚いたような表情をしてから嬉しそうにまた笑った。

 間違いだ。これは、チガウ……。

 でも……お礼なんて、言ったのいつぐらいかな。


 何で僕はお礼を言った? 手伝うことを、受け入れてくれたから?

 ……そんなことでお礼を言ったのだとすれば、僕も相当な……馬鹿だ。



「さ! さぁって! 昼休みが終わる前にちゃっちゃと終わらすかァ!」

 恥ずかしさを隠す為か、声が大声になってしまった。

 引きつりながらも笑顔は健在でっす!


「うん! じゃなかった…… え! ええ! 始めましょう!」


 そう言って、口調の可笑しい僕等は二人で作業に掛かった。




 ……っは、悪くないかもね。


 たまには、ね。

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