その56.むず痒くなる言葉って、結構言い難くなるよね。でも君は言える。
ガキは僕の声に驚いたのか慌てて手を離すも、怒りを込めたような表情を向ける。
「な、何だよ! あんたには関係無いだろ!?」
そうだ、確かに関係無い。
だけど、ムカツクのだから仕方が無い。うん、仕方が無い。
「僕が彼女を連れて行くことも君には関係無いでしょーが」
出来るだけ冷たく、吐き捨てるように言う。
っぐ、と詰まったような顔をするが、知ったことではない。
ガキは助けを求めるように縁の方を向いた。
「あ! あんたはどうなんだよ! 助けてくれるんだろ!?」
「ア、アタシは……」
困ったような表情の縁を横目で見て、再びイラッとした。
「偽善者と罵ったクセにまだ助けを求めるんだ? ガキ!」
「何だと!」
ガキの怒りの視線は再び僕へ。
「先程までいじめられたクセに僕や彼女には強気なんだ? それが何故か解るか? 僕は『弱そうに見えるから』彼女は『自分を助けたから』僕には負ける気しないだろうし、彼女は君に危害を加えない。ッハ! 捻くれた知恵だけはあるのな! ちょっとは他のことにも頭を使えば?」
皮肉をタップリ込めて言い切る。
だが、ガキはそれでもへこたれない様で突然、ずいっと黒い財布を取り出した。
「じゃ! じゃぁ金は払う! だから僕を助けろ!!」
そう言いながら僕に向けてではなく縁に向けて言う。
た・す・け・ろ?
「助けてくださいだろ! 何様だ! 金出しゃいいなんて考えが思いつく時点で負け組み決定だな!」
「〜〜っ!!なんなんだよあんた!! うるさいんだよ!! お前はこの人のなんなんだよ!!」
その言葉に、今度は僕が、っう、と詰まってしまった。
そうだ、何で僕が出る必要がある。
これは縁の関係だ。
……本当なんで。
僕が不利な状況になったとでも思ったのか、ガキが再び嫌な笑みを浮かべる。
「やっぱり関係無いじゃないか! 俺はこの人と話してんだよ!!」
「関係無いこと無い」
その声は突然、だった。
それは僕とガキが挟む形になっている縁から発せられていた。
関係無い、こと無い?
何で?僕と君の関係は、
赤の。
「アタシの友達」
そう言った。暴力女は僕を友達と言った。
僕を殴ったり、志保ちゃんから愚痴を言っているのを聞いてる。
なのに、彼女は僕を友達と言った。
……なんでかな、今サクを思い出したよ。
何度も僕に友達だとか親友だとか言ってきたサクの言葉は真っ直ぐで、
そして真っ直ぐ過ぎて、僕は受け止めることが出来ない所があった。
それと同じ、縁とサクはやはり兄弟だと実感する。
同じ真っ直ぐな言葉を僕は受け止めるべき、なのか?
「友達!? それだとしても関係無いだろ!!」
おいコラ! ガキ! 今良いムードだったでっしょーが! 邪魔すんなよ!
キーキーと喚くなガキ!
「やっぱり俺を助けないのかよ! チキショォ! 自分の満足だけの正義だったんだろ!? 偽善者が!! 偽善者がァ!!」
喚くガキは叫びながら子供のように……っても子供だけど、それは実にイライラとさせた。
だが、その姿が見覚えあるものとダブった。
偽善者と繰り返すこのガキが一瞬自分に見えた気がした。
それはとてもショックで、苦しかった。
何で?
それは、僕も彼女を偽善者と思ったことがあるから、あの雪の夜に。
それを言えば怒り狂って自らの拳で黙らせる。何が正義だ、と。
だが、どうだ? 彼女は辛そうに顔を歪め、ただただ寂しそうに佇んでいるだけだ。
ダランとなった手は拳を作らず、誰も助ける為に握ることは無い。
そして自らも握ろうとしないのだ。だから拳しか無い。
正義を語り、善を語るこの子は、笑われて周りから弾き飛ばされる存在なんだ。
ミホが言っていた言葉が浮かぶ。
『あの子は守らなきゃいけない』
これがあの言葉の意味だったのか……?
縁に会って初めて見せるそれは、僕の中で何かが変わりつつある瞬間、
何てカッコつけた大それたものじゃないけど。何か変わった気がした。
僕は、この子に出会って変わっているのかもしれない。
多分。
友人と喧嘩中の会話
私「死ね!ハゲタコバーカ!!」
友人「お前がな」
私「失せろ!低能!ハゲタコバーカ!」
友人「お前がな」
私「・・・・。変態!ロリコン!ナルシスト!ハゲタコバーカ!」
友人「お前がな」
私「・・・・・」
友人「・・・・・」
私「ゆ、友人ってさ〜カッコイイし頭良いし運動神経抜群でモッテモテだよね〜」
友人「当たり前だろ」
私「・・・・・」
友人「・・・・・」
私「ちょ…おまっ…本当死ね」
友人「お前がな」
私「うがあああああああああ!!!」