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その53.馬鹿の場合・・・っても予想出来る気がする・・・

「駄目じゃん!!」

 その後、正気に戻った縁は手足を床に付け、先程の男のように、ずーん、と暗い影が差している。

「でも志保ちゃんは結構ちゃんとしてるんじゃない?」

 とりあえず、凹んでいるらしい縁を労わってみる。

「募金活動初めてどれだけ経ったと思ってんの……」

 約1時間ぐらいだろうか?

 そんなにも経っているのに、志保ちゃんの募金活動はあまり成果とは言い難い。

 箱を振った音を察するに、1円単位しか入っていないと予想。100円以上の量は入っていないだろう。

 それでも嬉しそうにしている志保ちゃんはぶっちゃけ可愛い。

「まぁ、募金するにあたっては戦力にはなってないわな」

 僕の言葉に余計縁の顔が暗くなった。

 そこでふと思い出す。最後の希望がいるじゃないか!。

 とりあえず、最後の希望が残っていることを知らせてみる。

「まだ君の兄貴が居るけど?」


 僕の言葉にぶんぶん、と首を横に振りながら諦めた声を漏らす。

「予想できるし……」


 まぁ、解るけど……。

 一応、僕だけでもサクの方を見てみる。

 彼はかなりのバカだが妹の為に以外に頑張っているのでは、という予想が過ぎったのだ。


「オラァ! かかってこいや!! 臆したか!! コルァァ!」

 ドスの利いた声で叫んでいる大男が居た。

 声だけで聞けば喧嘩しているように聞こえたのだが、僕の目に映ったのは。



 可愛らしい子犬を前にして険しい顔をしているサクだった。

 ……予想を超えた。

「てめぇ! コラァ!! そんな目で見んじゃねぇ!!」

 サクの怒声も無視して子犬は可愛らしく尻尾をパタパタとしている。


「ぐふぅ!?」

 何で!? 何で吐血してんの!?。

「くっ! 可愛いゼ!! だが俺は負けない!! さぁ! 掛かって来い!!」

 子犬は覚束ないお座りでペタンと床に座ると、尻尾をフリフリとしながらサクを見上げると首を傾げていた。

「ぐほぁ!? やめろ! そんな無垢な愛くるしい目で見るな!! 駄目だ!! 家じゃ飼えないんだ!」

 子犬は小さく、可愛らしくクゥ〜ンと鳴いた。

 それが決めてだったのか、サクが何故か吹っ飛んだ。本当何故か。

「うぉぉぉ!! やめろぉぉ!! そんな目で俺を見るな! 嫌! 寧ろもっと見て!!」


…………。募金活動しろよ。


 縁に向き直って、今も凹んでいる縁を見ると、溜息が漏れた。

「明らかな人選ミスでしょ、僕等に募金なんて出来ないよ」


 縁は僕の言葉を聞いていたらしく、微笑を浮かべて顔を上げた。

「それでも……何もしないよりはマシだと思うな」


「そうかね」

 君がどう言う気持ちなのか何てしんないけど、そう思うなら良いけどさ。


 まだ凹んでいるのかな?

 と、縁の顔を覗き込もうとすると、その表情に険しさが宿っていた。

 ……ん? 何で?

「聞こえる」

 何が?

「助けを求める声が!!」

 そう言うといきなり走り出した。

 走り向かった先を見ると、高校生ぐらいの男が中学生ぐらいの男の子の胸倉を掴んでいた。

 明らかに、その姿はイジメに見え、誰もが見て見ぬ不振りをしている中、

 縁は飛び出していた。

 お金の入った募金箱なんて忘れたように床に転がっている。

 一応、募金で溜めたものじゃないの? 滅茶苦茶扱い悪いね……

 そう思いながら縁の箱の紐を掴むと手に持つ。

 既にいない縁の居た所にさり気なく言ってみる。

「だから言ったろ? 人選ミスで『僕等』には無理だって」

 その僕等に、当然彼女も入っている。

 その後、再び言葉が漏れる。

 本当に無意識に。

「正義……ねぇ」

 縁を目で追うと丁度、高校生の男を蹴り飛ばしていた。


 ミホが下駄箱の所で言っていた言葉を思い出す。


『一人は理想を夢見て現実を見ず、一人は現実のみを見て理想を捨て去る』


 この言葉は少しオカシイと僕は思っている。

 何故ならこれは縁のことを言った比喩ならば、後者の言葉の有る意味が取れない。

 使い方が妙なのだ。言い方ならば前者の言葉だけを言っても意味は解る。

 しかし、ミホは態々(わざわざ)後者の言葉を出し、しかも『一人』という誰かに例えたような言い方をした。

 この言い方では2人のうち、どちらが正しいのか、と言っているように聞こえたからだ。


 理想を求めるのは縁、周りの見て見ぬ振りをする大人たちは、

厳しくも現実を見ていると言っていいと思う。


 しかし、彼女は形振り構わず助けに行った。

 それを嬉しそうに、よりも迷惑そうに見ているのが多いのが周りの大人たちだ。

 それは彼女が現実を見ていないように見える。


 それが、彼女が求める正義なのか、それが正義なのかもしれない。

 ならば後者の言葉はどうだろう、『一人は現実のみを見て理想を捨て去る』

 この人物は余程の捻くれで、きっと将来の夢を語ることすら嫌がるような人物だろう。

 だが、僕はそんな人物を知らない。


 どうでもいいことを考えていると、

 高校生を薙ぎ倒し終わったのか、少年が縁に何度もお礼を言っているように見えた。少年が捲くし立てているようにも見えるが……。

 それは流石に無いか。


 眼を輝かせている少年に、困った表情を見せている縁が居た。

 助けたのに、偉ぶった様子も無く困った表情をしている縁は不思議に見えた。


……?。

 縁は暫くしても戻って来ず、困った表情を今度は困惑した表情へ変えた。

 傍から見ていてよく解らないが、少年の方が声を荒げているように見えた。

「何で?」

 無意識に声が漏れる。

 そして、募金箱を掲げたまま縁に向かった。


 困っている表情をしている縁がいたたまれなくなったのか、

それとも本当に何となくなのか。

 取り合えず、向ってみる。

 理想を追う彼女は、助けたのに困っている姿はオカシイだろう。

 現実的に考えてもソレはありえない。

 お礼を言って終わりだろう?

 ……そこのガキ! 縁に向って声を荒げるのはおかしいだろう!?


…………。

 僕は至って冷静だ。うん。

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