その51.いつも通りの記者女の場合
ショートカットでいつも笑顔なミホが募金活動をしっかりとしていた。
「ア! おにーさん! どお? 募金しませんか?」
若い男に近づくと、ミホは慣れ慣れしく言った。
男もミホに気づくと、別に悪い気はしないらしく、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。
「何何〜? 君がちょっと付き合ってくれるなら募金してあげても良いけど〜?」
と、男も馴れ馴れしくミホの背中に手を回す。
……典型的なチャラ男だ。
「あいつ……」
指を指しながら縁から殺気のような物を感じた。
そういえば、あの雪の日もナンパしてる男を半殺しにしてたな……もしかしてチャラチャラした奴嫌いとか?
わなわなと拳を震わせている縁を取り合えず宥める。
「あのさ、君がミホをどこまで知っているかしらないけど多分大丈夫でしょ」
そう言った僕に縁は目をパチパチとしながら、「え?」と小さく言葉を漏らした。
「まぁ、見てなよ」と、僕は言いながら視線をミホと若い男に向けた。
ミホは背中に手を回されているにも関わらず、笑顔を崩していなかった。
「アッハッハ! いいんですか〜? 私で3人目になりますよ?」
その言葉と共にヘラヘラと笑っていた男がピシッ!と音をたてて固まった。
「な、何を?」と、小さく男は漏らす。
そんな男を見て、縁の表情は悪い笑みへと変貌する。
「う・わ・き♪」
その言葉と共に男の表情ははっきりと恐怖へ変わった。
「大学生、19歳の太郎さん?
香織さんは最近会わないって怒ってましたよ?
鈴江さんも最近怪しんでいるそうですしぃ〜?」
「な、何でそんなことを知ってるんだ!? 初対面じゃ!!」
男はヨロヨロと一歩二歩と後ろへ下がった。
「いんや〜情報集めが趣味だとここら一帯の人のことは解るんですよ〜、
あ! そうだ! 実は彼女さん達の電話番号もバッチリキープしてるんですけど、
連絡とか取っちゃいます?」
男はポカンッと口を空けたまま、呆然としていた。
「あれ? 信じてません? じゃあ、電話して確認しましょうか?」
そう言うとポケットから携帯を取り出すと、再び悪意たっぷりの笑みを浮かべる。
「えっとー!090-123-・・・」
と、大声で言いながら携帯の番号をポチポチと押していく。
そして男の顔が一気に青ざめていった。
「わー! 解った! 信じる! 信じるから!!」
その言葉と共に、ニッコリと男にミホは微笑む。
……だが目は笑ってない。
男はミホの前に手足を床に付け、正に_l ̄l●のような格好でズーンッという影が入っていた。
「偶然、本当偶然ばれたらどうしましょうねェ?」
楽しそうな声でミホは男に上から降りかかるように言う。
それは確実に脅迫じみた言い方。
「……何が望みだ」
ミホとは正反対の掠れた声で男は言った。
そこで元気一杯の笑顔でミホは答える。
「有り金、全部募金しろや」
泣きながら財布を出している男と満面の笑顔のミホを見ながら僕は、
引き攣った笑みを浮かべている縁に、「ね?」と小さく了承の意を求めてみる。
その了承に答えず、縁は呆然としていた。
「募金は正義の、善意の行いのハズ……」等とぶつくさ言っている縁の顔にも何故か暗い影が掛かっていた。