その48.強気な活発記者女と貧弱毒舌男
パシャッ! という音と共に目を瞬く光が僕と男を襲った。
「アララー! またしてもナイスタイミングを激写ー!」
その声に振り向いた先に、カメラを持ったミホが満面の笑みを向けていた。
「プレイボーイが先輩に暴行? アッハッハ! こりゃいい! 明日の記事は決定だねー!」
高らかな大声は下駄箱で帰ろうとしている人たちを振りむかせた。
視線が僕と男に集まる。
舌打ちと共に分が悪いのを察知したのか、掴んでいる胸倉を突き飛ばす様に離した。
ガン! という音と共に硬い靴箱に体をぶつけた。
「っ痛!」
痛みで声が漏れる。
舌打ちと共に男は去って行った。
「大丈夫? へーじ、アイツ結構もてるらしくてねー!
ちょっと生きがってんのよ。気にしない方がいいよ」
特に心配している様子も無い具合でミホが声を掛ける。
「……助かったよ」
とりあえず軽い礼は言っておく。
君の新聞の、せいだろうけどね。
ミホが差し出した手を受け取って立ち上がらせてくれた。
「アハ! あんなこと言ってたのに、縁ちゃんのこと守るみたいな言い方するんだ?」
……聞いてたのか。
受け取った手を払うと、吐き捨てるように僕は言う。
「守るつもりもないし、守る必要もないでしょーが」
僕の言葉に、またミホの表情が変わった。
いつもの笑顔と違う別の笑顔。
朝の保健室を出た後の廊下で見せた表情。
一瞬、その笑顔にポカンッとしてしまった。
いつものウルサイ活発な姿とは違う表情。
冷たくしたのを悲しく思ったのか?
と、思ったがそんな悲しんだ表情には見えなかった。
「アッハッハ……実は私、縁ちゃんとは結構会ってるんだよね」
へぇ、何か以外だな。
コソコソ嗅ぎまわって縁の記事書いてるイメージが強かったんだけどな。
「妹が縁ちゃんと仲良いからね、家に来たりもするからそれなりに面識はあったんだ」
そうか、確かに朝、志保ちゃんと一緒に居たもんな。
そりゃ嫌でも仲良くなるのか。
「あの子は守らなきゃいけない」
その瞬間、ミホの表情から笑顔が消えた。
マジメな顔を見ること何て少ないので、突然のマジメな顔に驚いてしまった。
マジメな顔とか出来るのね、君。
しかし、ミホの言葉はちゃんと聞いていた分、疑問に思った。
「何で? あの子は十分に強い、守る必要何てないだろ?」
第一、あの子に勝てる人間が思い浮かばん。
強いて言うならウチの姉貴だが。
「『力』は有ると思うよ、そりゃ普通はそう考えるだろうね。
でもあたしは記者として記事になる為あの子を見て来たし、話もした。志保からも聞いた。」
そこで間を開けると、ミホは俯いた。
「知れば知るほど、あの子は危険だと解った。あの子は真っ直ぐ過ぎる!
そしていつか真っ直ぐに歩きすぎて崖から落ちるだろうね」
その比喩をどう受け止めていいのか、少し迷ったが…………。
縁の性格を考えれば、そのままに受け止めてあっていると思う。
「それを何で僕に言う?」
縁は顔を上げると、まっすぐに僕を見据えた。
「へーじみたいな性格の人間が一番良いと思うんだよね」
「何に」
そこで表情がいつもの笑顔へ戻った。
「自分で考えろ」
何だろう、凄い殺意が沸いた気がした。
「そんじゃあ! 行きますか!」
さっきとは大違いに元気いっぱいにミホは言った。
「え? 何処に!?」
戸惑う僕に振り向かって、歯を見せて笑う。
「縁ちゃんの所!」
「え゛!? 僕行かないって言ったじゃん!!」
そこでニマーっとい嫌らしい笑みへと変わるとポケットから黒い四角い物を取り出した。
「音声録音装置」
名前を言っただけで説明は不要になった。
「さっきのこっぱずかしい言葉の一部始終が入ってんだけど?
放送で流すのも良し、縁ちゃんにガチで聞かせるのもいいなぁ〜」
さっきの、とは、あのクズ男との会話か。
……確かに思い返してみれば結構恥ずかしいことを言っていたような。
とりあえず抵抗はする。
「強制はしないんじゃないの?」
「いやいや〜強制じゃないですよ〜」
そこで区切ると今度は中々にグロい笑顔へ変わった。
「脅迫してんだよ」
……どうやら選択肢は無いようだ。
さっきの男の方にからまれてる方がまだ良かったかもしれない。
もっと性質の悪い奴に捕まったようだ。
溜息と共に、靴箱から靴を取り出そうとした時、ミホが後ろから歌うように言った。
「一人は理想を夢見て現実を見ず、一人は現実のみを見て理想を捨て去る」
振り向いた僕に、ニマ〜っと笑みを向ける。
「へーじはどっちが正しいと思う?」
……、その言葉の意味何て無いだろうけどさ。
正直に答えるなら後者だと思う。
理想を見るのはガキの間だけ、大人になれば嫌でも現実を見るしかないのだから。
「さぁね」
だけど答える気は無い。
正直付き合いきれない。
君の言葉は時々理解出来ないね。
再び靴箱に向き直ると、再び後ろからミホの声が聞こえる。
「正解は両方、そして両方が不正解」
?、
更に意味が解らない。そしてバカバカしい。
靴を履いていると、既にミホは靴を履き終わったらしく笑顔のまま、待っていた。
「君もくんの?」
「だって気になるじゃん?」
僕とミホは、2人で昇降口から、外へ出た。