その45.そりゃ落ちてきたのは悪いけど蹴ること無いでしょーが!看病してたのに!!
「あー! もー! あったまいったー!!」
そう言いながらベッドから起き上がる縁。
……思った以上に元気そうなのはいいけど、何で僕が蹴られるんだよ。
腹を抑えながら怨めしそうな目で縁を睨みつけてみる。
フンッ、と言う具合に目を逸らされた。
死ねクソ女ァァ!!
「縁! 駄目だよ!」
小さな声で縁に講義の声を出してくれたのは志歩ちゃん。
立花だと、あの性悪女と被るし仕方なく下の名前で。まぁ、後輩だし別にちゃん付けでもいいでしょ。
え? 縁にちゃん付けはいいのかって?
……出来るか。
しかし、志保ちゃんは良い子じゃないか! 最近変人しか見てない気がするから、癒されるよ! 本当!
「な! 何で志保がへーじの肩持つのさ!」
驚いた様子を見せる縁、まぁ確かに解らんでもないが。
「へーじさんは、気絶した縁をここまで運んでくれたんだよ!?」
力いっぱいな志保ちゃんに縁が詰まったような顔をしていた。
ほぉ、こらまた珍しいというか何というか。縁が押されてる。
「それなのに蹴るなんて酷いと思うよ!」
まぁ、僕が一時のテンションで落ちてきたのが発端だけども、言わないけど。
「うっ……だって……」
「だってじゃないよ! ちゃんとお礼言わなきゃ」
縁が押されとる、取り合えずざまぁないな縁よ!
ウハハハハ! と、心の中で毒づく僕は心の小さい人間だ。
「へーじさんもですよ!」
え!? 僕も!?
確実に僕の味方と思っていた分、予想していなかった……。
「何があったか知りませんが落ちてきたへーじさんを縁は必死で受け止めてくれたんですよ!」
っう! 言わなくても解ってたか!
普通の子の正論的な発言だから何も言い返せない!
成る程、変人じゃないと扱い難いんだな。理解した。
「ほら! 2人とも!『ありがとう』ですよ!」
そう促されながら縁と対峙する羽目に、
お互い目は合わせない。合わす気無いし。
っていうか志保ちゃん! 君は子供か!
だけど可愛いからそんな強く言えない僕はシャイなアンチキショウ。
「何でアタシが……」
「それは全力で僕の言葉だけどね」
目を合わさなくても全力でお互いに喧嘩腰。
嫌、僕も落ちてきましたよ? でも看病してたのに蹴られちゃ優しい僕ちんもムカッとしちゃいますよ?
「ほらー! お互い怒りあってたら何も解決しないよ? 縁もへーじさんも!」
っく! 可愛いからって言いたい放題と!! でも口には出さない。
しかし、言わないと終わりそうに無いなぁ。
……ッチ
心の中で憎しみを込めつつ思いっきり舌打ちをした。
「あ〜…した」
「は? 何?」
「え? 何? 聞こえなかったの? 僕お礼言ったよ?もういいでしょ?」
言いましたよ? 僕は言いましたよ?
自分でも『今の僕メッチャウザいな……』と心の隅で思う。。
僕の言葉に縁の目が怒り(多分)で大きく見開いた。
「はぁぁ〜〜!? あんなの聞こえるわけないでしょーーが!」
「僕言ったし〜、はい、もう僕の番終わり~! 次は君の番でしょ? 早く言ってくんない?もう授業始まるんですけどー?」
朝っぱらから僕は素晴らしい程ウザい自分を演じることが出来た。うん、何か悲しい。
ッチ…
あれ? 今何か聞こえたぞ? 縁の方から僕が心の中でしたのと同じ位に憎憎しげな舌打ちが……うん、聞かなかったことにしよう。
「……ね」
「え!?」
今のが聞き取れなかったとしても、『ありがとう』の『う』でも『ございました』の『た』でも無いんですが!!
「ちょっとコラ! 聞き取れなかったけど今明らかに死ねって言ったよね!?」
「は? 何言ってんの? アタシはお礼言ったわよ?」
「そんな憎しみの籠った言葉をお礼と言ったらこの世は終わりだよ!!」
「えー? 聞こえなかったのー? あたしちゃんと言ったけどー?」
うぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!! そうか! さっきの僕はこんな感じか!! こりゃうざいわ!
てかガキか!! 僕も含めて!!
「もー! 2人とも!! いい加減にしてよー!」
うんざり、と言った具合に志保ちゃんが溜息を付いた。
「「だってこいつが!」」
言葉が被さった。
その先を言う事が出来ずに押し黙る。
僕と同じなのか、縁もそれから先の言葉を発しなかった。