その39.強気な活発記者女
「おい! へーじ!」
後ろから暑苦しい男の声が聞こえた。
振りむかなくても誰かは予想できた。
「何、サク」
耳元に近づいてきたのか、気持ち悪い息が首筋に掛かる。
そのまま、小声でボソボソと零すように話す。
「何でミナミナに絡まれてんだよ……!ソイツめんでーぞ!」
君もミナミナって呼んでのかよ! 別にいいけど気持ち悪いな!!
とりあえずソレは置いといて無言で手に持つ新聞をサクに渡す。
それを手に取るのを感じると手を離す。
非常に嫌な顔をしているサクの顔が振り向かなくても解る。
まぁ、妹がそんな目にあってりゃ嫌だわな。
「お前、縁と付き合ってたの!?」
「違うわバカ! こんなエセ新聞に騙されるなよ!」
つい振り向いてしまった先に予想通りの嫌な顔…は無く、何かソワソワとした表情をしていた。
……何で?
「てことはアレか? 俺はお前の兄貴になんのか?」
恥ずかしそうに、しかし嬉しそうにサクは言いやがった。
「何でそういう知識はあんの!? つか死んでも嫌だよ!!」
「死んでも嫌なのか!! 言い過ぎだろ!」
「言い過ぎじゃ無いよ! むしろ大分軽く言ったつもりですけど!?」
僕の発言にショックを受けたのか、サクの顔に暗い影が過る。
「死んでもって……」
「もしもーし! 今は私が話しているんですけどー?それとエセ新聞は聞きずてならないですけどー?」
今度は高い声が。
高い声はそのまま続ける。
「穴見君ちょっと消えててくんない? 邪魔だから!」
へぇ、結構言うのね君、
それに敏感に反応したサクは僕を通したまま怒った声を出す。
「なんだとコラ!」
ちょっと、僕をはさんで話さないでくんない? 何か僕居心地悪いじゃん! 自分の席なのに!
「あっれー? そんな口聞いちゃうんだー?」
よくわからないが、明らかにサクが立花さんの言葉に反応した。
それは立花さんにも解ったらしいが、思いっきりニヤッと笑った。
「縁ちゃんが妹ってばらすぞ、コラ」
先程のサクよりも思いっきりドスの利いた言葉。
ていうか僕だけじゃなく周りにも隠してたんだ。
「つか何で立花さんは知ってんの?」
「あれ? へーじ君は知ってるんだー、
まぁこれでも新聞作ってんだから情報網は広いよん?」
最後に、「へーじ君のこともね」と、小さく意味深に零しやがった。
この女……出来る……
立花さんの言葉に固まっているサクに立花さんは悪戯な笑みを向ける。
「あれ? まだ足りない? じゃー、休日に偶に河原でエロ本探してたり懐中電灯使って夜に光の速さと戦ってるとか?」
両方共きついな……。自然にサクに向ける視線が変人を見る目に代わる。仕方ないでしょ。
僕の視線に気づいたのか、サクが慌てた様子を見せた。
「ち! 違うんだ! 今は思い切ってエロ本は買ってるし、最近は光はまだ早いと思って音速と戦ってるし!!」
サクに向ける視線が更に険しくなったのが自分でも解る。
物理的な距離では無く、心の距離が思いっきり!開いた気がした。
いや、気じゃなくて本当に開いたな。
「ち! 違うんだ!!」
僕の意味深な視線に耐えきれないと言う風に顔を青ざめるサク。
「ち! チクショォォォォォ!!!」
そう叫ぶと窓をガシャーン! と割り外へ飛び出して行きやがった。
ここ3階なんだけど……まぁサクなら大丈夫か。
そんな突然のサクの行動に教室もどよめく。
「オイ! 穴見が飛び出したぞ!!」
「まぁ穴見なら大丈夫だろ」
と、言う具合に僕と同じ結論を出したクラスの方々は再び元の賑やかさに戻った。
……相変わらず酷いクラスだ。
「うわ、冗談だったのに、エロ本買うとか音速で戦うとか……引くわ」
……君の方が最酷いね。
サクには後でジュースでもあげようか、流石に不便すぎる。